真摯に江戸前鮨の伝統と向き合う、若き職人たちの4軒。

Gourmet 2021.06.01

From Pen Online

百花繚乱の鮨店がひしめく東京。そのなかでも若い視点で柔軟に、かつ真摯に江戸前鮨のあり方に向き合う注目の店を訪ねた。

文/森脇慶子

【銀座/はっこく】握り30貫で、世界に向けて江戸前を伝える

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看板メニューでもあるマグロ。コースでは少しずつ部位の異なる5貫が登場。写真はそのひとつで赤身のヅケ。撮影当日は166㎏の三厩産本マグロ。

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佐藤博之さん40歳。25歳の時に鮨の世界へ。神泉「秋月」で6年間修業。2013年に「鮨とかみ」を任されミシュランの星を獲得。2018年2月に「はっこく」をオープン。

世界にきちんとした江戸前鮨を広めたい。「はっこく」ご主人の佐藤博之さんの切なる願いだ。デンマークからの研修生を迎え入れたり、各国の料理人とのコラボを計画したりと鮨のグローバル化を見据え、その目は広く世界に向けられている。

その反面、鮨自体のあり方は原点回帰。つまみは一切出さず、握りのみ30貫で勝負するスタイルは決して奇をてらったわけではなく、江戸前鮨本来の姿をいま一度熟慮した結果のことなのだ。
いわく「鮨屋の主役はシャリであり握り。だから、魚はすべてシャリに照準を合わせて仕事をしている」そうで、そのために魚の水分をコントロール。魚自体の旨味を引き出し、シャリと合わせた時にいちばん旨味を感じるように仕込むなどの手間をかけている。それが佐藤さんの考える江戸前だからだ。

マグロの突先の海苔巻きから始まるコースでは、〆たり煮たりヅケにしたりするだけではなく、低温調理で火を入れたり、香りで変化をつけたりと、最後まで飽きさせぬ工夫がなされている。
江戸前鮨の未来形がここにある。

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コースはスペシャリテの「突先」から始まる。突先とは、マグロの頭の付け根の部分で、よく動くため旨味が濃い。

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竹岡産キスの昆布〆。うす塩した後、昆布で2〜3時間〆て軽く水分を抜いている。優しい味わい。

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コースの握りの締めは対馬産のアナゴ。ふんわりとしたやわらかさに思わず笑みがこぼれる。

東京都中央区銀座6-7-6 ラペビル3F 
TEL:03-6280-6555 完全予約制
営業時間:17時~22時最終入店 
定休日:日、祝

 

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【銀座/鮨 み富】庶民の食だった名残が垣間見える、古きよき味わい

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イカの印籠詰め。三橋さんいわく「江戸前の古い鮨のひとつ」で、塩で茹でた小ヤリイカの胴体の中に鮨飯を詰め、上から甘いツメを塗ったもの。酒のつまみにもなる。ツメはアナゴの煮汁を継ぎ足しながら煮詰めたもの。

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ご主人の三橋克典さん41歳。18歳で「新富寿し」に弟子入りしてから一筋22年勤め上げたベテランだ。「一つひとつが深い、新富ならではの仕事を教わりました」

通し営業、握り中心、お好み大歓迎。酒の肴は、刺身など鮨ネタを切りつけて出す程度……と、往年の江戸前鮨のあり様を彷彿とさせるニューフェイスがここ「鮨 み富」。2018年8月のオープンと店は新しいが、店主の三橋克典さんは、銀座の老舗「新富寿し」で22年間も研鑽を積んできた実力のもち主だ。

「『新富』のスタイルをそのまま受け継いでいるだけなんです。鮨屋はもともと昔のファストフード、 お好きな時間に軽い気持ちで来ていただきたいですね。好きな鮨ネタを好きなだけ食べる、そのスタイルもまた、江戸前だと思います」とは三橋さん。おやつ時に握り5~6貫とお茶、あるいはまだ日のある4時過ぎから一杯やりつつ鮨をつまめるのもこの店ならではだ。営業システム同様、鮨の仕事もクラシック。中でも、イカの印籠詰めやサバ、コハダなどの光りもの、アナゴなどの煮物は秀逸。たとえば煮蛤。昨今では色白なそれが多い中、醤油と砂糖で甘辛い東京味に仕上げている。シャコや鼈甲色に煮つけたかんぴょうもこってりとした旨味が懐かしく、赤酢と塩のみの鮨飯との相性が上々だ。

また、光りものや貝類は、握る前に手酢にくぐらすのも江戸前の古い仕事とか。白木のカウンターには、常時30種以上の魚介が並ぶネタ箱が3つ。そこから好きに選んで味わう楽しみこそ鮨通の本懐だろう。

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伝統のかんぴょう巻き。戻したかんぴょうはやわらかくなるまで数時間茹で、醤油、砂糖、照り出しのためのみりん少々の中で20~30分煮ている。

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ヒラメの昆布〆。一晩昆布で〆ている。生のヒラメも用意し、客の好みで使い分けている。

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「アナゴ」。撮影時は羽田沖で獲れた正真正銘の江戸前。ここでは握る前に炙るのではなく湯煎で温めている。

東京都中央区銀座5-10-11 川島ビル2F 
TEL:03-6263-9889 
営業時間:11時30分~20時
定休日:不定休
http://mitomi-sushi.com

 

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【六本木/海界】北海道の旬な魚介の味を、巧みに引き出す

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名物の毛ガニの握り。足の部分で握った後、ほぐした身をうずたかく盛りウニと蟹味噌、自家製割り醤油を合わせたタレをかける。仕上げにいばらかにの卵をトッピング。

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ご主人の西崎祐樹さん。オープンは2017年9月。米は長野県野沢のコシヒカリを使用。この店を始めて間もなくしてから酢飯を2種類にした。

丸ごと茹でてほぐした毛ガニは、ウニと蟹味噌、自家製割り醤油で6時間ほど漬け、ししゃもは開いて塩で3~4分〆た後、約2時間昆布で〆る。また、旬のきんきは皮目を湯引きし、塩少々をあててから身のほうだけ昆布〆にする……。北海道ならではの、ともすれば素材よりになりがちな食材も細やかな仕事を施すことで、ひとつの鮨として完成させる。それが、ここ「海界」の江戸前握りだ。

「魚の味をどう引き出すか、そして、その鮨ネタをシャリとどう合わせるかをいつも考えながら、ネタを仕込んでいます。それが、僕が考える江戸前鮨のあり方でもありますね」

そう語るのは、北海道生まれのご主人西崎祐樹さん。ザ・ウィンザーホテル洞爺をはじめ、ミシュランの3ツ星を獲得したこともある名店でみっちり修業を積んだ手練れである。

だが「東京に来て札幌時代の仕事は全部やめました。鮨に対する真剣さが、東京のお客さまはまったく違う。より味を追求するようになった」そうで、旨味の余韻が長くて強い毛ガニには赤酢の酢飯、淡白ながらも小味のきいたししゃもには白酢の酢飯をと使い分けるのも、そうした思いの表れだろう。
握りをしっかり食べてほしいからと、つまみは控えめ。もちろん、握りのみの客も大歓迎だ。

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きんきは、皮目だけをサッと炙ってから赤酢の酢飯で。上にのっているのはきんきの肝をポン酢で叩いたもの。

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かますの握り。かますは塩をあて昆布で1時間ほど〆て余分な水分を抜く。

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珍しいししゃもの握り。生で使えるししゃもを獲れるのは北海道大樹町の漁師のみ。10月半ばから11月半ばの1カ月しかないレアな逸品。

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海界とは、古く万葉の言葉で神話における神の国と人の国との境界のことをいい、“うなさか”とも読む。白木のカウンターも清々しい店内は、清廉な趣。

東京都港区六本木7-9-6 
TEL:03-5413-4075 
営業時間:18時~23時L.O. 
定休日:月
www.sushikaikai.com

 

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【吉祥寺/さき田】素材を知りつくし行き着いた、ストイックな姿勢

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手にしただけで崩れそうなほどやわらかなアナゴ。口中でとろける。米は、あきたこまちを使用。酢飯は白酢の他、アジ、サバ、マグロ用に赤酢も用意。

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掘りごたつで寛げる店内。ご主人の崎田さんは、幼稚園児の時、既に鮨職人を目指していたという。「なか田」や「久兵衛」、横浜「なか條」など名店で修業。

「鮨にした時に、いちばんおいしくなる鮨ネタしか握りたくないんです」。きっぱりとそう言い切るのは、崎田康太郎さん。2017年11月にオープンした「さき田」のご主人だ。それゆえ、イカは歯切れのいいスミイカしか握らず、たとえばボタン海老は「シャリと合わせるよりもつまみで食べたほうがおいしいから」と鮨にはせずに酒肴として提供するのみといった徹底ぶりだ。シンプルイズベスト。これが、崎田さんの江戸前鮨に対する姿勢であり、信条なのだ。それゆえ、素材へのアプローチはかなりストイック。

ピンのマグロならヅケにはせずそのまま握り、反面、コハダや煮蛤など手をかけて旨味が増す素材なら惜しみなく手間暇をかける。たとえばカスゴ(小鯛)。塩を12~13分あてた後、そのソフトでふっくらとした身質のもち味を損なわぬよう酢ではなく橙の果汁で軽く〆て、さらに黄身酢おぼろに2日間漬けてほのかな甘みを足すといったあんばいだ。こうした配慮も魚の特質を知り尽くしていればこそ。築地と京都2カ所の市場で都合5年間仲卸しの仕事を経験した賜物だろう。

時代の流れとともに魚も変わっていくもの。素材と常に向き合い、鮨の姿を追求し続ける。シンプルでストイック。それがさき田流の江戸前鮨だ。

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カスゴの握り。茨城県産のカスゴを使用。ふわっと優しい食感とたおやかな旨味が後を引く佳品。

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かんぴょう巻きは、限定で出されるオプションメニューだ。

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煮蛤の握り。蛤は鹿島産。半生に仕上げた蛤に、醤油とみりんを合わせた熱々の漬け汁をかけ、そのまま漬け込んでいる。芳醇な香りが特徴。

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玉子焼き。卵の白身は泡立て、メレンゲ状態にして加えるためスフレのようにやわらか。芝海老のすり身入り。

東京都三鷹市下連雀1-9-17  
TEL:0422-71-3133 
営業時間:18時~19時最終入店(月~土)、12時~夜営業なし(日) 
定休日:火
この記事は、2019年 Pen1月15日号「江戸前の流儀。うなぎ/天ぷら/鮨」特集よりPen編集部が再編集した記事です。
※新型コロナウイルス感染防止などの事情により、店舗の営業時間、サービスの変更などが行われる場合があります。訪問前にご確認ください。

 

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texte:KEIKO MORIWAKI, photo:SEIJI TONOMURA(HAKKOKU), TADASHI OKOCHI(SUSHI MITOMI,SAKITA), KAYOKO UEDA(KAIKAI)

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