唯一無二の創造的料理を味わいに、富山のオーベルジュへ。

Gourmet 2021.06.04

土地に根差した食べ物の魅力を、料理人の腕と感性によって再発見する。そんなオーベルジュが日本各地に誕生している。あのひと皿のために、旅に出よう。

L'évo レヴォ

富山県/利賀村

富山市内から、合掌造りで名高い五箇山方面へ車を走らせること1時間半。車一台がやっと通れる山道を進むと、深く切り込んだ渓谷には雪解け水を運ぶ川が春の訪れを告げていた。まだ雪が残る3月末の利賀村はあちこちで水音が響き、いままさに山が冬眠から目覚めようとしていた。

Levo-01-voyage-210602.jpg

利賀村の森では小川が心地いい音を奏で大地を潤す。雪解けとともにフキノトウやタラの芽などの山菜が顔をのぞかせる。

大阪出身の谷口英司シェフが料理人として富山に来て10年の月日が経った2020年、偶然、山菜を採りに訪れたこの地に魅せられ、ゼロからの再スタートを決意した。

「富山は海と山との距離が近く、食材の宝庫でした。ガラスや陶器など伝統工芸も盛んで、知れば知るほどこの土地が大好きになり、自分の料理が変わっていくのを感じたんです」

土地に対する思いはより深くなり、すべてが用意された便利な都会よりも、自分たちの手で築いた環境に身を置き、料理人としての可能性を試したいと移転を決断。かつては集落があったものの、水道もない荒れ果てた土地に山から水を引き、畑を耕した。世の中がコロナ禍で右往左往していた昨年、谷口シェフは理想のオーベルジュづくりに邁進し、なんと1年足らずでレストラン棟と宿泊棟を完成させた。

Levo-02-voyage-210602.jpg

周囲は山野草の宝庫。ワサビの葉が自生する山の斜面を散策する谷口シェフ。山の水を使うようになって、料理がどんどん研ぎ澄まされていったという。

谷口英司/高校卒業後に就職したホテルでフランス料理と出合い、日本国内やフランスで修業。富山へ活動の場を移し、2014年レヴォを立ち上げる。16年『ミシュランガイド富山・石川』で1ツ星を獲得。20年12月、理想のオーベルジュを求め利賀村に移転オープン。

---fadeinpager---

自然の恵みに敬意を表したくなる、非日常の食体験。

レストランの扉を開け、周囲の山並みを見渡す開放的なオープンキッチンに足を踏み入れた瞬間、ゲストは“レヴォの時間”に身を任せることになる。コースは完全予約制で、ランチ、ディナーともに1類。全13品の料理を3時間かけて享受する。ウェイティングスペースに本日のゲストが揃うと、順番にテーブルへと案内される。人里離れた山奥に、ここでしか味わえない料理を求めて辿り着いた人々と、彼らを迎える厨房の間には、心地いい緊張感が流れていた。

この日の料理の一例は、春の訪れを告げる極太のアスパラガス、地元猟師が仕留めたツキノワグマにはゼンマイやウニを添え、生きたままのホタルイカを薪の火であぶった一品や、大葉のオイルソースを添えたミズダコなど。この時期しか食べられない海と山の幸が、驚きのプレゼンテーションで供される。見事な肉の火入れ加減や山野草を使ったソースにはフレンチの手法が存分に生かされているものの、食材の組み合わせはどれもが新しく、“レヴォの料理”と呼ぶほかはない。ドリンクのペアリングメニューには料理を引き立てる最高のマリアージュが取り揃えられ、富山のワイナリーに特別発注した銘柄が登場するなど、ご当地の食文化の奥深さにあらためて圧倒される。

Levo-03-voyage-210602.jpg

生命力を感じさせるアスパラは、川端農園で育まれたもの。ハコベラやタンポポの葉など、8種の山野草の下にポーチドエッグを添えて。

Levo-04-voyage-210602.jpg

生きたままの新鮮なホタルイカを火であぶった一品。ぷりぷりの食感とジューシーな内臓に、ナバナとネギがアクセントになっている。光の角度によって多彩な表情をみせる小島有香子のガラスのうつわで。

Levo-05-voyage-210602.jpg

専属の猟師から仕入れたジビエはシェフ自らがさばき、地下の熟成室で保存。均一なロゼに焼き上げた鹿肉に、ノビルや干黒大根を合わせた。うつわは革のような質感が肉の赤みを引き立てる、釋永岳の作。

Levo-06-voyage-210602.jpg

薄切りにしたツキノワグマの肉を出汁にくぐらせ、山菜とウニを組み合わせた。小さな花びらにまで、繊細なシェフの感性が行き届いている。

---fadeinpager---

「以前は料理のテクニックを学ぶほど、料理はおいしくなると思っていたんですが、富山に来て考え方は一変しました。僕自身がこの土地を知ることで、料理はおいしくなるということに気付いたんです」

私たちがシェフの料理を食べて驚いたように、シェフがここに来て衝撃を受けたのは利賀村のお母さんたちが作る料理のおいしさだった。

「僕の料理のベースはフレンチですが、日本で日本人のために料理を作る以上、土地で受け継がれてきた料理というのは料理人にとっての原点だと思う。原点を知らなければクリエイティブはあり得ないですから」とシェフは言う。山深い利賀村では干した山菜や、特産品の赤カブの漬物など保存食がいまもしっかり受け継がれている。懇意にしている地元のおばあちゃんからは、山のルールも教わった。

「山菜も、採りすぎてしまえば次の年は痩せた山菜しか育たない。山は海と同様サステイナブルを意識しなければいけないのだと、身をもって学びました」

厨房に立つ時間以外は若いスタッフたちを連れて山に入り、寸暇を惜しんでは生産者のもとへ通う谷口シェフ。生産者の熱意や苦労が込められた食材を、多くの人に届けたいとの想いが料理の原動力になっている。

Levo-07-voyage-210602.jpg

宿泊客のために提供される朝食には、地元の伝統的な料理からヒントを得た和食が並ぶ。中央は、山の風で一夜干しにしたハタハタ。ご飯は合鴨農法で育てた土遊野の有機米。

---fadeinpager---

現在レヴォを支えている食品生産者や工芸作家は20を超える。

「谷口シェフは富山の生産者にとって宝です。レヴォの料理に恥じない食材を作りたいと、生産者たちの意識が変わり始めたんです」と、酪農家の吉田朋美は言う。素晴らしい食材もそれを生かす人がいてはじめて価値を発揮する。富山市内で活動する陶芸家の釋永岳も、チーム・レヴォに欠かせないひとり。新生レヴォのために作ったうつわは、利賀の土を使って焼き上げたという惚れ込みようだ。

「僕のうつわは料理ありき。谷口さんの料理を自分なりに理解して、うつわがコース全体のアクセントになったらうれしい」

ひとりの料理人の想いが富山の職人魂に火をつけ、一丸となってものづくりへの意欲を高め合う。だから今日も谷口シェフは、野山や海へと駆け回る。

「みんなには、一緒に階段を上ろうよ、と言っています。僕が立ち止まってしまうとみんなも止まってしまうので、走り続けますよ」

発見と創造の相互作用によって生まれるレヴォの料理は、進化を続ける。

Levo-data-voyage-210602.jpg

L’évo /レヴォ

 

富山県南砺市利賀村大勘場田島100
tel:0763-68-2115

営)ランチ12:00~、12:30~ 
ディナー18:00~、19:00~
休)水、8/2 ~ 18
全3棟 全室バスタブ付き ¥44,000〜(1棟1泊)
朝食¥3,850(1名)
https://levo.toyama.jp

*「フィガロジャポン」2021年7月号より抜粋

photography: Mitsugu Uehara, editing & text: Junko Kubodera

Share:
  • Twitter
  • Facebook
  • Pinterest

フィガロワインクラブ
Business with Attitude
キーワード別、2024年春夏ストリートスナップまとめ。
連載-パリジェンヌファイル

BRAND SPECIAL

Ranking

Find More Stories