小谷実由が巡る、ロマンティックなパフェ散歩。
Gourmet 2021.09.22
喫茶カルチャーを愛する小谷実由による、真夏のパフェ日記。ひと口食べれば、大切な人たちとの思い出が舞い戻る……。ロマンティックでスイートなパフェ散歩へ、ご一緒に!
7月19日12時47分
パレスホテル東京にいる。溶けてしまいそうな暑さで辿り着いた楽園で、白鳥が華麗に舞う美しい桃
パフェを食べよう。桃の下のゼリーとコーンフレークが、新しさと懐かしさの二面性の食感を生み出
し、楽しませてくれる。ふと、このパフェが似合いそうな彼女に会いたくなった。私は、ハスキーで耳心地がいい彼女の歌声がこの世でいちばん好き。こんなにも歌が素敵に歌えることを羨ましいと思ったのは、彼女の歌声を聴いた時が初めてだった。静かに燃えるようにロックやブルースを歌い上げる。そんなかっこいい彼女だけど、そういえば、パフェの上に並ぶ桃の形のような三日月が好きだというロマンティックな一面も持ち合わせているんだった。きっと彼女は、この甘い白鳥もお気に召すはず。
東京都千代田区丸の内1-1-1 パレスホテル東京1F
tel:03-3211-5309
営)11:00~19:30L.O.
無休
www.palacehoteltokyo.com
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7月28日11時35分
原宿の資生堂パーラーのラウンジでパフェを注文する。早朝からの仕事を終えた私は、今日一日の役目を半分以上終えているような充足感でいっぱい。そんな自分を労るべく、目一杯甘やかしてくれるようなストロベリーパフェを頼んだ。ほんのり感じる甘酸っぱさ、生クリームの中に突然現れる、さっくりとしたメレンゲ。食べているだけで楽しい、どんな時でもそんな気持ちにさせてくれる。パフェはこうじゃなくっちゃ。その場をともにするだけで楽しい、そんなことを考えた時に思い浮かんだのは、いつもいちばん近くにいてくれる大事なあの人。話をしなくたって、ただ肩を並べて歩いているだけで不思議とクスクス笑い合ってしまう。彼は私をとびきり甘やかしてくれるけれど、時に酸っぱく、時にさっくりとダメなところも指摘してくれる存在。このパフェのように、ずっと時をともにしていきたい。
東京都渋谷区神宮前1-14-30 8F
tel:03-3475-1021
営)ラウンジ通常:11:30~21:30L.O. 緊急事態宣言中:11:30~19:00L.O.
休)月
https://parlour.shiseido.co.jp
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8月1日15時50分
8月がやってきた。喫茶エレーナには、夏休みを退屈そうに、でも間違いなくかけがえのない時間を過ごしている制服姿の女の子がふたり、ぼんやりと座って何かを話している。私はというと、メロンパフェが運ばれてくるのを待ちつつ、中学時代の親友を思い出していた。同じクラスになったことがないはずなのに、記憶は彼女との思い出ばかり。好きだった音楽も服も全部彼女が教えてくれたものだったし、私はきっと彼女になりたかった。お互いハッキリ物を言う性格だったから、よく言い合いになったりもしたけど、いま思うと、私が一方的に彼女のことが羨ましかっただけかもしれない。運ばれてきたパフェは、メロン、メロンアイス、バニラアイスが順に連なったきれいな層。毎日、同じようなことで何度も笑っていた日々を思い出す。どうしてか、私たちは同じ話を何度話しても飽きなかった。このパフェの味のように。あの頃の私たちだったら、メロンをどっちが多く食べたかとか、ちょっとだけお互いの食べ方に文句を言いながらも、ふたりでひとつを食べるのだろう。
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8月8日10時30分
朝の銀座は清々しい。街がまだ動き出していなくて、始まりの準備がどこかで静かに行われているような、どきどきする気配。いまなら私は何にでもなれる気がする。なぜこんなにも気分が無敵モードになっているかというと、目の前には2色の丸いメロンが咲くメロンパフェがあるからだった。和光ティーサロンのパフェを食べれば、今日という一日はきっと上出来。そんな高まる期待と緊張感を、グラニテのひんやりとした食感で冷静に取り戻す。メロンとココナッツシャーベットに不思議な親和性がある。どこまでも広がる味の奥行きに驚く。同じく、私にもそんな親和性を感じて驚いた人がいる。彼女とはまだ出会って数年だけど、初めて会った時からまるで何十年も友だちであったかのようだった。年齢も、生まれた場所も、通ってきた道も違うはずなのに、心にある一筋の何かが同じ。趣味の読書をともにしながら、気づけば未来を語り合う仲になっていた。彼女もきっと、こんな朝の銀座を目にしたら同じようにわくわくする気がする、そして、私のことを思い出してくれるといいなと思う。
東京都中央区銀座4-4-8 和光アネックス2F
tel:03-5250-3100
営)10:30~19:00L.O.(月〜土) 10:30〜18:30L.O.(日、祝)
無休
www.wako.co.jp
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8月12日17時00分
今日もとってもいい日だった。こんなふうに思える日が1日でも多くあるといい。こうして、真っ白なソファに座って出窓から夕方の空を眺めて、ぼーっとするような日が。ホテルニューグランドで過ごす夕暮れには、チョコレートパフェが欠かせない。パフェは夢のように非現実な存在で、チョコレートパフェはひと口食べると幼い頃を思い出しながらまどろみそうになる。夢と現実の間の、あのふわふわとした感覚。そんなうとうとした気持ちで思い出したのは、小学生の頃、祖父とふたりきりで過ごした日のことだった。寡黙な祖父が突然、散歩に行こう、と連れ出してくれたのは駅前にあったケーキ屋さん。そこで食べたパフェの味をじんわりと思い出す。チョコレートパフェは、思い出を蘇らせてくれるタイムマシンのような食べ物。
神奈川県横浜市中区山下町10 ホテルニューグランド本館1F
tel:045-681-1841(代)
営)通常:10:00~21:00L.O. 緊急事態宣言中:10:00~19:00L.O.
www.hotel-newgrand.co.jp
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8月20日16時47分
喫茶ローヤルが好きだ。今日は夕方だけど、昼夜問わずどんな時でもローヤルが好き。いくらでも好きなところを挙げられる気がするけど、好きなメニューはアプリコットパフェ。てっぺんに生クリームとドライアプリコット、その下はヨーグルトにアプリコットシロップとバニラアイス。このパフェを初めて食べるまでに随分と憧れを募らせた。いつも店先のショーケースにお決まりのメニューとともに名を連ねていたアプリコットパフェ。気になるけど、緊張してなかなか手を出せない。でも気になって仕方がない。なんだか片想いをしているような気持ちだった。食べてみたら爽やかな酸味が気に入って、つい頼んでしまう定番のメニューになった。高校生の頃、ずいぶんと長い間片想いをしていたけど、結局友だちのままだった彼はいま何をしているだろう。これからの私とアプリコットパフェのように時間をともにすることはもうないけれど、憧れていたあの時間は、いまでも思い出として残っている。
日常の中で、ひょんなことから思い出す誰かがいる。それは時に恋なのではないかと思う熱量で会いたくなったり、声が聞きたくなったりする衝動を引き起こしたり、しなかったり。人と出会うようにパフェと出合い、惹かれ、そしてまた好きになる。
東京都千代田区有楽町2-10-1 東京交通会館B1F
tel:03-3214-9043
営)8:00~18:00L.O.(月〜金) 11:00~18:00L.O.(土、日、祝)
不定休
www.kotsukaikan.co.jp/food_shopping/food_tea/85
*「フィガロジャポン」2021年10月号より抜粋
photography:Akemi Kurosaka