南のまな板、東のテーブル 栗とアサリの柑橘バター煮と、アルザスの"自由なワイン"。
Gourmet 2021.10.14
沖縄で創作料理のレストラン「胃袋」を営む関根麻子さんと、自然派ワインを愛し、ワインショップ「bulbul」を始めたアタッシェ・ドゥ・プレスの鈴木純子さん。おふたりのコロナ禍での手紙のやり取りを、こっそりのぞき見しました。今回の手紙の話題は「ルーツ」。根っこ、本質を探るやり取りの中で見つけたレシピは、秋の味覚・栗と沖縄の柑橘を合わせる創作料理。それにぴったりな、アルザスの“自由な”ワインとは?
じゅんこさん、こんにちは。
フランスのワイナリーの近況、ありがとう。熟成に10年かかるようなワインへ、そんな造り手たちの変化。ともすればリスクがあるように見えても、より本質的なワインを追求したい、その想いを興味深く読みました。ワインの歴史が長いフランスだからこそなのでしょうか。
前回の葡萄品種、古木グロロー。その時その時の環境や造り手と呼応し、60年以上も生きてきたのですね。グロロー先輩にいまのさまざまな状況をどう感じているのか聞きたいくらいです。人の目に見えるもの、見えないものも、何かしら発信をしているのかなと想像しています。
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世界状況が一変し時が流れていく中、土地の持つ意味を考え、自らの営みを掘り下げる作業は、ワインに携わる方々だけでなく、一個人が体感していることだと思います。私自身も、その真っ最中。周りにもこれを機に働き方、暮らしを改革していく友人も。旗を挙げうおーっと前に進んでいくというより、深く潜り、自らの本質的な核にフォーカスしているのだろうと。そんな友人たちの姿を見ると、たくましい生命力を感じます。
植物と同じように根を張っていく作業のよう。血が通う個々の根っこと対話し、仲間と共有する。
さてさてと。新しいワインもありがとうございます。秋の始まりを想うような味わい。何を作ろうかなーと、フィールド、冷蔵庫と相談。
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沖縄は思ってる以上に柑橘の宝庫なんですよ。種まきが終わり、畑から小さな芽や葉が出る頃、少し上を見上げれば艶やかで緑の果実がたわわに。シークワーサー、オートー、カーブチー、タルガヨー、カラマンシーなど(まるでおまじないのような単語)。見た目は違いが分かりにくいのですが、個性がそれぞれあります。沖縄にはありませんが、友人が送ってくれた岐阜の山栗を下拵え。うん、柑橘と合わせましょう。
そちらはもう涼しい日が続いてるのでしょうね。気持ちよい秋の夜長のレシピをどうぞ。
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栗とアサリの柑橘バター煮
沖縄には栗がありません。それゆえに、栗への憧れもたっぷり。甘く渋皮煮にする前の仕込み途中のものを使いました。仕上げに柑橘をきゅっと絞って。
⚪︎栗 お好きな量
⚪︎アサリ 栗の倍量
⚪︎茹でた押し麦、またはお好きな雑穀 栗の同量弱
⚪︎ニンニクのみじん少々
⚪︎バター適量
⚪︎白ワイン適量
⚪︎レモンマートルの葉、またはレモンバーベナ、強めのミントなどのハーブ
⚪︎カーブチー(沖縄の柑橘)または手に入るカボスなど、お好きな柑橘
⚪︎ハママーチ(琉球ヨモギ/甘苦い香りのヨモギ)※なくてもOK
※今回は渋皮ありで料理しましたが、ほろほろと崩れた皮無しの栗をソースと絡めながらも美味しいです。
1 ニンニクとオリーブオイル少々を弱火にかけ香りが出たら、押し麦、栗、ハーブ、バターを入れる。バターが溶け出してきたらアサリを入れ、ワイン、水を入れて強火にして蓋をする。
2 あさりの口が開いたら弱火にする。カーブチーの半分をキュッと絞り、そのまま鍋に入れる。数分煮込み栗が少しだけ崩れてきたら、塩少々で味を整え出来上がり。
3 お皿に盛って、オリーブオイルをたらり、刻んだハママーチをぱらっとしたら召し上がれ。
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麻子さん、お返事ありがとう。沖縄は、まだ扇風機がまわっているとは! ここ東では、からりとした秋晴れが続いています。季節が変わり、飲みたいワインのテイストも変わってきたりして。(笑)
“自らの営みを掘り下げる”お話、はっとした。去年から、ルーツをもつモノ・コトの大事さを考えていたから。自分らしい”根っこ”を持つこと。自分のものさしを持つこと。
浮かんできたのは、アルザスの地。
自然派ワインのことを”生きているワイン(ヴァン・ヴィヴァン)”とも呼ぶのだけれど、グラン・クリュも擁する銘醸地・アルザスの造り手たちは、”自由なワイン(ヴァン・リーブル)”と呼ぶ。”自由”って?という疑問が解消したきっかけを、アルザスの友人が作ってくれた。
その名も「サロン・デ・ヴァン・リーブル」でのこと。ドイツの影響を色濃く受けるアルザスは、ラテン系のフランスのなかで珍しくきっちり屋。ワインサロンはオーガナイズばっちりで、ビオ素材を使う移動式窯焼きタルトフランベ屋や、中庭での生演奏が5月の青いアルザスの空の下で流れたり……。
芝生に転がって休憩中、造り手の友人が「ジュンコ、一緒に休憩所行きましょうよ」と誘ってくれ、主催者のひとり、さる造り手が語る貴重な場面に出合えた。アルザスの造り手たちは、休憩中にも関わらず真剣に耳を傾ける。
ジュラの地で自然なワインをはじめた造り手と交流し、とにかく行動しようと思った時のことを聞いて、彼らが使う ”自由”の意味がすとんと落ちた。
他人が決めた規律から”自由”になり、自分のものさしを持つこと……それが銘醸地であるアルザス人の考える、ルーツを持ったワインなのだろう、と。
届けたのは、その友人、ヴァネッサが届けてくれたオレンジワインです。彼女はいま、自然な造りに転換したいアルザスの造り手と協業するプロジェクト「絆のワイン」を立ち上げて。塩味を感じるほどきりっとしたミネラルと、柑橘のトップノート。蜂蜜色した魅力的なにごりある佇まい。沖縄の強い素材、麻子さんの料理に合うと思って。ぜひお試しを!
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ワイン名 :ヒュージョン ヴィヌーズ 2019 / Fusion Vineuse
ネゴス名:ドゥ・ヴァン・オー・リアン / Du Vin Aux Liens
(栽培・醸造:ヤニック・メッケール)
エリア:アルザス
品種:シルヴァネール 70%、リースリング 30%(平均樹齢40年)
トップノートは柑橘の香り。ミドルに蜂蜜やカラメル香、ミント主体のハーブ感。塩味も感じるほどのきりっとしたミネラル感と、黄桃や軽く火を入れたアプリコットのコンフィチュール様の味わい。野菜のスープや、柑橘系のお皿との相性も抜群。
2000年に沖縄に移住、2014年南城市にレストラン「胃袋」をオープン。移住20年以上となるが、沖縄の土地や自然に未だ新鮮な瞬きを日々もらっている。残りものには福があると、日記のような瓶詰めをこしらえる毎日。
Instagram: @ibukuro_okinawa
鈴木純子 Junko Suzuki
フリーのアタッシェ・ドゥ・プレスとして、食やワイン、プロダクト、商業施設などライフスタイル全般で、作り手の意思を感じられるブランドのブランディングやコミュニケーションを手がけている。自然派ワインを取り巻くヒト・コトに魅せられ、フランスを中心に生産者訪問をライフワークとして行ういっぽうで、ワイン講座やポップアップワインバー、2021年3月末よりワインショップ「bulbul」をスタートし、自然派ワインの魅力を伝えている。
Instagram: @bulbul_du_vin
text and photos: Asako Sekine, Junko Suzuki