フランスで大人気のポケ丼、ホントにヘルシーでエコ?

Gourmet 2021.10.18

似て非なるもの、エコ感覚ゼロ、えせヘルシーフード・・・そんな疑惑の的となっている、ハワイ発祥のポケ丼。今年2021年も、まだランチに食べ続けて大丈夫だろうか? 栄養士のアレクサンドラ・レシオン、『Fondation Good Planet』サステイナブルフード・アドバイザーのニノン・グロネック、ふたりの専門家の話を聞いてみよう。フランスの状況から、日本の食事情を考えるきっかけになるはずだ。

poke-bowl_0.jpg

大人気のポケ丼、大混乱。 photo: Getty Images

フランスでは、ポケ丼が都会人の食生活を席捲するようになってから5年。それもそのはず、フード・デリバリーのアプリDeliverooの調査では、2020年世界の人気メニュー100 (Deliveroo's Global Top 100 Trending Dishes 2020) として、ポケ丼が第2位を獲得。1位のチーズバーガーに並んでいる。ハワイ発祥のポケ丼をメニューに掲げる店は、その後もどんどん増え、フランス発の店もある。人気が高いのは、ライスの上に刺身や野菜をのせたもの。

でも、このポケ丼、本当にいまの時代に合っているのだろうか。アレクサンドラとニノンが、その裏側に迫る。

---fadeinpager---

伝統あるオリジナルと、斬新すぎるフュージョン

ヘルシーフードの波に乗り、太平洋を渡って道を切り開いてきたポケ丼。ランチタイムにすっかり幅をきかせている。クオリティーの面でも何らおかしいところはない。ヘルシーでバランスの良い完全食、インスタ映えするカラフルできれいな食べ物……。パッケージから見ても丼は持ち運びやすく、職場でも食べやすいし、急ぎの客にも便利。でも、もしそんなポケ丼タイムが、もう許容できないものになっているとしたら? リベラシオン紙のコラム『Poke bowl, l’indigestion』(2021年9月7日)でも、ポケ丼のあり方が疑問視されている。

伝統あるハワイの名物ポケ丼は、元々はサーファーのお気に入りメニューで、近くの島で釣った魚と地元の海藻をのせた料理。しかしいまでは、すいぶんかけ離れたものになってしまっているようだ。サーモン、マグロ、ローストチキン、エビ、ファラフェル、豆腐など、素材はもう何でもあり。添える野菜や果物も、アボカド、きゅうり、ラディッシュなど従来の食材だけでなく、パイナップルやマンゴーなどが大人気。ハワイっぽく見せたものや、和風、イスラエル風のものもある。流行に合わせたカラフルな丼の中身は、さまざまな国の影響で混乱状態に。そのせいで、味はあまり重視されないこともあるようだ。

---fadeinpager---

ヘルシーなはずだったのに……

しかし、アイデアとしては、ポケ丼自体は全然悪くないとアレクサンドラは言う。タンパク質、ビタミン、食物繊維、炭水化物など、必要な栄養を一皿で摂れてしまう料理として、これ以上のものは難しい。問題は、近年ポケ丼がどんどん変貌してしまったこと、ハワイのオリジナルと比べると、素材もさほど身体に良いものではなくなっていることにあるようだ。ニノンは「まず、米についてですが、店で使っている米の多くは、精米などで栄養価が下がってしまっています。食物繊維が減って、GI値も高くなってしまっているのです」と言う。

しかも、グルメ志向の客向けにポケ丼の種類はさらに広がり、トッピングとしてさまざまな加工品が用意されている。アレクサンドラは「たとえば、チキンカツなどの揚げ物や、ベトナム風豚の角煮など肉の煮込みを選ぶと、脂質の摂取が相当増えてしまいます」と言う。油類はカロリーが高く、高温で加熱すると酸化しやすい。「そうやって、当初の人気の理由だった“バランスのよい完全食”から離れてしまっているのです」とアレクサンドラは続ける。丼の中の素材には、野菜や複合炭水化物を選び、オイルは火を通さず調味料として使うなどの点に気をつければ、上手く栄養を摂ることができるそうだ。

---fadeinpager---

増える環境負荷

もうひとつの問題点は、いま流行りの人気店の中に、環境に対する配慮が欠けている所が見受けられること。ニノンは「ポケ丼は、ヘルシーでエコロジーだというイメージがありますが、少し考えればすぐに、いまのポケ丼は全くサステナブルではないことに気がつきます」と言う。ハワイオリジナルのポケ丼というのは、何よりも地元でとれる食材を主役にした料理。それが、ハワイだけでなく世界中で食べられているということは、あちこちで人気食材が輸入されているということ。「例えば、サーモン。フランス人が最も普通に口にする魚ですが、実は枯渇の危機に瀕しています。ですから、私達の皿にのるサーモンは、養殖の魚。病気にならないよう抗生物質を詰め込まれて育った魚です。もし、そんな養殖魚が1匹でも海に逃れて繁殖したら、海の生態系は大混乱してしまいます。環境へのダメージは計り知れません」と、ニノンは説明する。さらに、漁業の方法や場所は明らかにされていないことが多い。

ポケ丼に添えられるアボカドやマンゴーも、その美しい色や丸い形がいいという理由だけで選ばれている。ニノンは「エキゾチックなアボカドやマンゴーは、熟す前に収穫され、飛行機、船、トラックでフランスに届けられ、熟成をコントロールする専用室に保管されます。その後、エチレンガスを使用して熟成し、一年中食べられる便利なフルーツとして出荷されるのです」と言う。本来の季節には、なおさら多く消費される。こうしてポケ丼は一年を通して毎日提供され、最終的に自然の資源を使い果たすリスクを孕んでいるのだ。

---fadeinpager---

『ポケ』を見直す

すでにプラスチックの使用を減らし、サステナブルな漁業のやり方を選んでいる店なら、さらに良い方向に進められるかもしれない。まずは、商品の旬について顧客に知らせ、その時期だけ店に出すようにするのはどうだろうか。ニノンは「今日、皆が食について考え、旬のオーガニック食材を日々選ぶように気をつけています。いっぽうで、こういう問題が見過ごされてしまっている店もあるようです。トレーサビリティなども含め、考慮することが大切です」と言う。

その上で、エキゾチックな食材のかわりに地元の食材を使うようにし、カーボンフットプリントをできる限り減らそう。フランスには豊かな資源があるとわかっているのだから、もっと簡単にできるはず。「フランスは海岸に恵まれていますし、上手に利用したいものです。認知度はあまり高くなくても栄養価が高い魚、たとえばメルルーサ、ボラ、サバ、サーディンなどに目を向けることもできますよね。何よりも、偏らずにいろいろな魚を捕ることが大切です」と、ニノンは言う。魚をのせるライスのかわりに、フランス産の大麦、スペルトコムギ、キノアなどを選ぼう。もちろん、野菜も近隣で採れたものを。

ブルターニュ地方では、すでにサーモンをやめて地元のマスを出すことにした店もある。5月には、スイスのローザンヌで初めて地元産のポケ(ハワイ語で切り身)のテイクアウトが始まった。魚や鶏肉は地元のものが使われ、マグロはグルテンミートで代用、野菜は近隣の農園で栽培されている。ニノンは「食欲をそそるユニークな見た目はそのままで、中身が違うというだけです。こうやって食のあり方を一歩一歩、持続可能な方法へと変えていけるのです」と言う。ポケ丼は、元々のハワイの味からは離れてしまったが、逆に当初のコンセプトに近づいているというわけだ。学ぶべきは、“地元のごはんがいちばん”ということ。

text: Elise Assibat (madme.lefigaro.fr), traduction : Aki Saitama

Share:
  • Twitter
  • Facebook
  • Pinterest

フィガロワインクラブ
Business with Attitude
キーワード別、2024年春夏ストリートスナップまとめ。
連載-パリジェンヌファイル

BRAND SPECIAL

Ranking

Find More Stories