ブドウ、カラシナの葉巻き肉詰めと、オーストリアの"あるがまま"なワイン。

Gourmet 2021.11.11

沖縄で創作料理のレストラン「胃袋」を営む関根麻子さんと、自然派ワインを愛し、ワインショップ「bulbul」を始めたアタッシェ・ドゥ・プレスの鈴木純子さん。おふたりのコロナ禍での手紙のやり取りを、こっそりのぞき見しました。話題はおふたりの友人、「上歌ヴィンヤード」のお話から、「あるがまま」を楽しむ自然派の楽しみ方の話へ。ブドウやカラシナの葉を巻いた肉詰めと、「あるがまま」を体現するワインとは?

南の台所より

お返事ありがとう。じゅんこさんの物語をまたひとつ知れて嬉しいです。
訪れたことのない土地の畑やカーヴが目の前に浮かんできて、風や匂いまでも感じとれました。暮らしと生業が地続きな営みは、しなやかであたたかで。

そしてじゅんこさんがコロナ禍にワインショップをオープンしたお話。誰にでも大なり小なり、日々決断があり、意志があり。正解、不正解なんて、もともとないのかもしれませんね。その意志に身を置き、動かし、時には委ねて。そう考えると、この状況下での個々の喜びやもがきの轍が愛おしくて、ブラボー!って叫びたくなる。

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こちらは朝夕が少しずつ涼しくなってきました。四季を感じにくいと言われる沖縄ですが、空の高さで季節をはかることも。手に届きそうな低い夏空から、澄んだ遠く高い空へと変化しています。

先日畑でローゼルを収穫してきました。私にとって秋の代表選手。セミの声を聴きながら深紅に色づいたローゼルをひとつひとつ摘んでいると、あぁこの季節だと。

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他には作付けから数週間が経ち、わさわさと育ってきた背丈の低い葉たちが。間引き作業の時期に入り、ビーツ、ルッコラやケール、ラディッシュ等々の若い葉も分けてもらいました。柔らかくなってきた陽射し同様、新芽は味わいも食感も円い。虫になった気分でわしゃわしゃ頬張る。生産者さんも育成を見守り、大忙し。

そうそう、先日じゅんこさんもお友達の「上歌ヴィンヤード」遠藤さんからブドウの収穫が終わる頃の葉を送ってもらいました。前に訪ね見たブドウの樹々が忘れられなくお願いしたのです。今夏は類を見ない干ばつで、まだ1年ほどの若樹達はもろに影響を受けていました。その中で命を続けるためのギリギリの姿に感動して。結実は次年に持ち越しと言ってるかのように、自ら上部の葉を枯らし、生育過程に必要な根に近い部分のみを守り、生き残っていく。

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圧倒的な生命力でした。それを見続ける遠藤さんも。

あの時のブドウの樹々を思い出し、沖縄食材と一緒にじゅんこさんから託されたワインに合わせて、いまからご飯をこしらえますね。情緒を彩り、記憶となり。小さな自然世界を触れて、連れて、その先の誰かの物語に。そんなことが起こってしまう世界は素晴らしいなと感じています。

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北のブドウ、南のカラシナの葉巻き
ヤギドルマ、ローゼルのワインジャムと

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<材料>

ドルマ(肉詰め)

⚪︎少しの酢を入れた塩水漬けのブドウの葉 数枚
…大きめを選んで水洗いし、水気を拭き取っておく
⚪︎茎を外したカラシナ 数枚
…葉は野沢菜やレタスなどでもOK、少し辛みやクセがある葉っぱがおすすめです

⚪︎合い挽き肉200g ヤギミンチ100g 計300g
…または、ラムミンチ200g 合い挽き100g 計300g
⚪︎大きめの玉ねぎ1個半〜2個
⚪︎みじん切りショウガ小さじ1強ほど、ニンニクすりおろし半片
⚪︎ナツメグ、クミン、コリアンダーパウダー適量 今回はスパイス全部で大さじ1ほど
…カレー粉やガラムマサラでもOK

⚪︎卵1個
⚪︎塩少々
⚪︎1.5㎝角切りにしたチーズ(セミハードくらい)

ジャム

⚪︎ローゼルの種を取り除いた部分
⚪︎ショウガ適量
⚪︎赤ワイン適量
⚪︎クローヴ少々
⚪︎きび糖適量、塩少々
※お好きなベリージャムにビネガー少々、お水少々で緩めたものでもOK。少し酸っぱく、ほんのり甘くがポイントです。それぞれが美味しい!と思える塩梅が、それぞれの家の美味しさです。

<作り方>

ドルマ

①玉ねぎをみじん切りにし、オリーブオイルを少々ひいたフライパンで、水気がなくなり透き通るまで炒める。粗熱が冷めるまで置いておく。

②カラシナの茎のみを刻んで薄く塩揉みし、水気を絞っておく

③ミンチ2種、粗熱の取れた玉ねぎ、卵、ショウガニンニク、カラシナの茎、スパイス、塩少々を混ぜ合わせる。粘りを出すハンバーグよりは、若干軽く混ぜる感じです。

④スプーンで具をすくい、溶け出ないようチーズを真ん中に入れ、ロールキャベツのように葉で具を包むように巻いていく。巻き終わりを下に。オーブンを160度にあたためておく。

⑤オリーブオイルをひいた耐熱皿に、ブドウ葉、カラシナ巻きをランダムに並べる。

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⑥ワインと水少々を回しかけ、アルミホイルなどで蓋をして約20分弱蒸し焼きにする。最後2分ほど高温にして上だけ焦がすのもアリ。葉、具の大きさなどで焼き時間は調節してください。途中竹串を刺して、透き通った水が出れば熱が通ってます。

⑦お皿に肉汁と共に盛り付ける。ローゼルジャムを添え、熱々を召し上がれ!

ローゼルジャム

種を取り除いたローゼルの額、ショウガのスライス、クローブを入れ、軽くきび糖をまぶし、少し置いておく。水分が出てきたら、ひたひたくらいの赤ワインを注ぎ、ローゼルが煮崩れない程度、弱火で煮る。甘さと酸味のバランスはイエス!のバランスでどうぞ。ローゼルの変わりにベリー系でもOK。

・・・

食材は地域によってさまざま。ハンバーグ、ロールキャベツを作る感覚で、その土地、季節にあるもので、気軽に愉しんでくだされば嬉しいです。本来ブドウの葉は初夏の柔らかいものがいいのかもしれませんが、今回は少し色づいた秋の葉を蒸し焼きで。ワインとご一緒によき時間を!

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あさこさん、お手紙をありがとう。
澄んだ高い空の下のもと、鮮やかに色づいたローゼルがひとつ一つ大切に摘まれていく光景が浮かび、胸がぎゅっとなりました。
ああ、いつか沖縄の畑に、麻子さんとご一緒してみたい。

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「上歌ヴィンヤード」遠藤さん! ちょうど10月の半ば、収穫のお手伝いに行ってきました。
あさこさんが仰るように、北海道は100年に一度と言われる異常気象。ひどい干ばつのあとの雨によりブドウの粒が玉割れし、収穫前は病気との戦い。

しかし、ひんやりとした空気をまとった遠藤さんの畑は、そんな気配は見せず、紅葉が進む山に囲まれ緩やかな傾斜が広がり、葛藤の気配も見せずにただただ美しかった。たよりなく思えるほど細いブドウの木に色づくブドウの実もまた、選果の必要がないほどに。

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毎年の気象は異なる、その気象も畑ごとにさまざまに作用する。いわゆるテロワールをスケッチしていくような自然派ワインづくり。自然というコントロールできないものに対し、何を思いどう行動したのか。そこには思想が大事だし、結果はブドウの木と実に表われる。

干ばつを乗り越え、風に吹かれて目の前でツヤツヤ光る葡萄たちから、遠藤さんの思想と仕事量が言葉にせずとも伝わってきて。胸がいっぱいになりながら、ブドウを収穫してきました。
畑に混在するゲヴェルツトラミネール、ピノ・グリ、ソーヴィニヨン・ブランなどは、遠藤さんの思想により長い熟成を重ねた泡になる予定。4年目にして初の本格的な収穫となった、あの日”ブドウ”たちの再会を楽しみに。

話は変わりますが先日、eatrip soilで料理人・野村友里さんの料理とともにワイン会を開催しました。人前でワインを注ぐのは約8ヶ月ぶり。あさこさんにならい、ささやかな祝杯のつもりでポンと音を立ててコルクを抜きました(笑)

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少しずつ日常が戻ってきている昨今、でも、いままでとは違う日々が待っているのでしょう。根っこをもつこと、自分のものさしをもつこと、思想をもつこと。それは、自然派ワインをより豊かに楽しむために必要なことだとも思っています。

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今回選んだワインは、遠藤さんの畑のある空知地方のワインのように、綺麗な酸をもつワイン。オーストリアのクリスチャン・チダ、カピテルⅠ(アインス) 2017。

昔の区画の呼称を引き継ぎ、キュベ名に。“レッセ・フェール(=在るがままに)”を思想にもつクリスチャンは、醸造を直感的に決め、あとは極力手出しせずに樽の中のブドウがワインになるのを見守る造り手。端正なシルキーさ、くぐもったニュアンスが沖縄の秋の食材にぴったりだと思って。空気がニュアンスをまとう秋は、ワインを楽しむ時間を多くはらむ季節。南のまな板を思いながら、東のテーブルでも楽しみます。Santé(乾杯)!

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ワイン名 :カピテル アインス 2017 / Kapitel Ⅰ
ドメーヌ名:クリスチャン・チダ / Christian Tschida
エリア:オーストリア(ノイジードラーゼー)
品種:カベルネ・フラン、ブラウフレンキッシュ
黒い果実のニュアンスに、エリクシール(薬草酒)のように様々なハーブの香りが立ち上る。綺麗な酸をストラクチャーに、端正でシルキーなニュアンス、くぐもった佇まいは秋の味わいにぴったり。他にはない彼の世界観を楽しんでください。

関根麻子 Asako Sekine
2000年に沖縄に移住、2014年南城市にレストラン「胃袋」をオープン。移住20年以上となるが、沖縄の土地や自然に未だ新鮮な瞬きを日々もらっている。残りものには福があると、日記のような瓶詰めをこしらえる毎日。
Instagram: @ibukuro_okinawa

鈴木純子 Junko Suzuki
フリーのアタッシェ・ドゥ・プレスとして、食やワイン、プロダクト、商業施設などライフスタイル全般で、作り手の意思を感じられるブランドのブランディングやコミュニケーションを手がけている。自然派ワインを取り巻くヒト・コトに魅せられ、フランスを中心に生産者訪問をライフワークとして行ういっぽうで、ワイン講座やポップアップワインバー、2021年3月末よりワインショップ「bulbul」をスタートし、自然派ワインの魅力を伝えている。
Instagram: @bulbul_du_vin

text and photos: Asako Sekine, Junko Suzuki

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