モエ・エ・シャンドンの創業280年を祝う「コレクション アンペリアル」が誕生。
Gourmet 2023.11.11
モエ・エ・シャンドン創業から280年を迎える今年、新しいクリエイションが誕生した。「コレクション アンペリアル」は、セラーマスターのブノワ・ゴエズが手がけるスペシャルなシャンパーニュ。10月初め、発売開始を前にパリでお披露目が行われた。
会場はパリ10区にある皇帝ナポレオンにゆかりの邸宅、オテル・ドゥ・ブリエンヌ。アーティストのダニエル・アーシャムが今回のコレクションのために手がけた、白い限定ボトルのインスタレーションがエントランスホールでゲストを出迎えた。
庭園には、アーシャムがモエ・エ・シャンドンのセラーのために制作した彫刻作品が展示されている。この作品はセラーに残されていた、ぶどうを収穫する人々の様子を描いた1890年代のステンドグラスにインスパイアされたもの。ステンドグラスに描かれた天使たちの姿を中心に、シャンパーニュ造りの様子、ブドウ畑の石標など、モエ・エ・シャンドンの物語を語るモチーフがレリーフとなった3ピースからなる作品だ。
イベントのためにアメリカから駆けつけたアーシャムはこう語る。
「セラーは白い石灰岩でできていて、これは僕が作品に使う素材によく似ていました。だから、この彫刻のアイデアはそのままそこにあったのです」
限定ボトルは、この彫刻でシャンパーニュボトルを包み込んだようなデザインになっている。アーシャムは、エペルネに滞在してシャンパーニュ造りを目の当たりにし、自分の仕事との間に共通点を感じたとも語る。
「ブノワの仕事には、直感とサイエンスがあります。異なるワインをアッサンブラージュ(配合)し、チェックし、試行錯誤を繰り返して別のものを生み出す。素材を形に変えて、意味のあるもの、アイデアを持ったものにする僕の仕事と、そのアルケミーのあり方がよく似ています」
ブノワ・ゴエズもこう付け加える。
「我々のもうひとつの共通点は時間です。ダニエルの作品には、未来における作品のあり方を見据える視線がある。このコレクション アンペリアルには、最も古いもので2000年のワインを使用していて、つまりプロジェクトは20年以上の年月を経ているわけです。消費のスピードが速い現在において、時間は最高の贅沢と言えるでしょう」
---fadeinpager---
コレクション アンペリアルは、7つの傑出したヴィンテージをアッサンブラージュした、時を超越するシャンパーニュである。
「発想源は2000年に発表した"Esprit du siècle"というボトルでした。1900年から95年まで、10年ごとに1本のミレジムを選んでアッサンブラージュしたシャンパーニュです。前任者が手がけたこの仕事を完成させ発表した時、若さと熟成の間の緊張感に驚かされました。通常、ひとつのワインの中に若さと熟成の両方が存在することはあり得ないからです。コレクション アンペリアルではこれをさらに追求し、より高いレベルの複雑な味わいを実現しようと考えました」とゴエズは語る。
オーク樽で熟成させた2000年、瓶熟成させた04年、ステンレスタンクで熟成させた13年のグランヴィンテージ......。そしてモエ・エ・シャンドン初となるノンドザージュ(補糖なし)のブリュットナチュールに仕上げ、ワインが持つ本来の味わいを最大限に引き出した。7つの個性を合わせ、試行錯誤を経て完成した形が「これだ」とわかるのは、セラーマスターとしての直感なのだという。
「シャンパーニュ造りの95%はアッサンブラージュにあると考えていますが、その段階で試飲しても完成したシャンパーニュの味はしません。熟成し、発泡した時の姿はプロにしかわからないのです」
2043年に迎える創業300周年に向けて、今後は2年に1作のペースで新作を加えていくというコレクション アンペリアル。現在、5つのクリエイションが熟成の途上にあるという。
「コレクションの共通項は、複数の年代と熟成のアッサンブラージュです。毎回違う個性、ハーモニー、アルケミーを持つミレジムを選び、違うプロポーションで組み合わせます。それぞれのシャンパーニュは、同じ遺伝子を持ちながらそれぞれの人格が違う、家族のようなものです」
---fadeinpager---
カクテルに続いて3つ星シェフのヤニック・アレノが手がけるディナーとともに、コレクション アンペリアルが供された。時間とともに変化する味わいを楽しむために、デカンタでのサーブも。
「このシャンパーニュは複雑で、ガラスの中で時間によって変化させることも必要です。アペリティフよりも、食事に合わせて少し前から開けて準備をし、じっくり味わうのがいい」とゴエズ。
「ですが、特別な時のために取っておこう、というのはいけません。それよりも、このシャンパーニュを開けて、いまを特別な時にしよう、と考えてほしいのです」
text: madame FIGARO japon