おいしいご飯があると聞けば、全国津々浦々、時には海外に行くことも厭いません。
今年の夏は、国内遠征先を福岡に定めました。目的はひとつ。シンのコラボディナーです。
Syn(シン)のエントランスにて。左が大野尚斗オーナーシェフ、右がレ・ベト・ホンシェフ。
開業前に偶然大野シェフとお会いする機会があり、シンのことはその時から気になっていました。2023年のオープン後、なかなか行くチャンスがなかったのですが、今回コラボディナーのニュースを聞き、羽田からいざ福岡へ。
この日登場予定の食材の一部。メニューにも生産者リストが並び、その数30以上!
シンの大野オーナシェフは「ゴ・エ・ミヨ 2024」で「期待の若手シェフ賞」を受賞した人物。ニューヨークのカリナリー・インスティテュート・オブ・アメリカで学んだことを皮切りに、アメリカのThe NoMad(ノマド)やスウェーデンのFäviken(フェーヴィケン)、シカゴのミシュラン3ツ星Alinea(アリネア)のほか、代官山のレクテではスーシェフを務めるなど、世界各国の星付きレストランで研鑽を詰んでいます。そのバックボーンを活かした料理は「キュイジーヌ・ヴォヤージュ」のコンセプトにも現れています。自身の店を開業した後も、全国の生産者を訪ねたり、さまざまなジャンルのレストランを食べ歩いたり。美味を極めることに余念がありません。
そんな彼が今回タッグを組んだのが、ベトナムのファインダイニング「CieL(シエル)」。2024年にホーチミンに開業し、その翌年、早々にミシュラン1ツ星を獲得したまさにベトナムグルメ界の新星。コラボにあたって、事前に大野シェフは弾丸ベトナムへ飛び、レシェフのコースを食べ、構想を練ったそう。
シエルによるアミューズ「Takaebi×Mangosteen」。
シンによるアミューズ「Improvisation」。
今回ふたりのシェフによるコース料理はアミューズからメイン、デザートまで計13品。
シエルのアミューズからスタートしたのですが、ハイビスカスを使ったものやマンゴスチンを使ったものなど、さりげないフルーツ使いがおもしろい! 昔、ベトナムに行った記憶が蘇り、南国の空気感、市場の熱気が思い出されました。
一方シンのアミューズは、イワシと島らっきょをあわせた和のエッセンス薫る逸品。まるで握りをいただく前のような、清々しい気持ちになりました。
ふたりのシェフによる共作「Souffle Spring Roll × Corn × Bresaola」。
揚げものラバーとして、この日いちばん好みだったのがトウモロコシの春巻き。熱々を頬張ると、コーンポタージュを飲んでいるかのような優しい甘みと皮の香ばしさ、そして上に乗った佐賀牛のブレザオラの塩味が一体化!
シエルによる「Oyster×Seasonal Tomato」。
火を入れた牡蠣とトマト、トマト水の一品は、見た目通りとても澄んだ綺麗な味。同時に牡蠣の旨味やトマトの酸味が感じられ、メインに向けて気分が高まります。
その後は魚の浮袋(!)とフランを合わせたレシェフによる料理や、大野シェフによる赤ムツの料理などが登場。
シエルによる肉料理「Dry-Aged-Akaushi × Black Garlic x Black Truffle」。
肉料理の後に供された鴨のフォー「Pho×Duck」。
シエルによる肉料理は、レシェフが「和牛の質の良さに驚いた」という熟成あか牛を使ったもの。噛み締めるほどに肉の旨味がじんわり広がり、フルーティかつ甘やかな黒ニンニクのソースとマッチします。
その後驚いたのが、ふたりのシェフによる共作のフォー。丁寧に火を通した鴨肉も白眉でしたが、スープ(出汁)が素晴らしく。シンの名物、壺蒸しで仕上げたトリプルコンソメスープがベースになっていて、フレンチでもあり、和の出汁のようでもあり、ハーブが加わるとベトナミーズでもあり。「キュイジーヌ・ヴォヤージュ」、まさに旅をしているかのような気持ちになりました。
旅を愛するシェフと、ベトナムの新星シェフ、ふたりのトップシェフによる全13品のスペシャルなコース。いま自分はどこにいるんだろう......世界をホッピングしているような、特別な気持ちにさせてくれました。ふたりのシェフのこれから、そして国際都市福岡のグルメの進化度にも注目です。

小中学校を北京で過ごしたアジア系帰国子女。幼少期から年に4〜5回海外旅行を繰り返す生粋の旅好き。大学時代に時間が有り余り、自転車で東北や四国&中国地方を周遊。ダイビングサークル出身で離島フリーク。ワインエキスパートを取得後、フィガロワインクラブの部長(愛称)に就任。