【フィガロジャポン35周年企画】 フランスで「ノンアルワイン」のブームが到来! ワインの本場で生産者やソムリエたちがノンアルコールを選ぶ理由は?

Gourmet 2025.12.05

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アールドゥヴィーヴルへの招待 vol.5
2025年、創刊35周年を迎えたフィガロジャポン。モード、カルチャー、ライフスタイルを軸に、豊かに自由に人生を謳歌するパリジェンヌたちの知恵と工夫を伝え続けてきました。その結晶ともいえるフランスの美学を、さまざまな視点からお届けします。

ここ数年、フランスのアルコール事情が変わりつつある。3ツ星シェフが提案するノンアルペアリングや、一流シャトーが手がけるノンアルコールワインが続々登場。その背景と造り手の思いとは? 日本で飲めるジャンル別ノンアルワインリストも!


フランスでブーム到来! ノンアルワインがいま楽しい。

フランス東部、ヴァランスにあるアンヌ=ソフィー・ピックの3ツ星レストラン。このグランメゾンでは料理だけではなく、飲み物とのペアリングも重視している。ワインはもちろん充実のラインナップだが、コロナ禍を経てノンアルコールとのペアリングも始まった。一杯ずつ自家製でノンアルカクテルを仕上げる繊細な作業は、まるでオートクチュールだ。

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©Anne-Emmanuelle Thion
3ツ星シェフのアンヌ⹀ソフィー・ピック。フランスのみならず、銀座のカフェ ディオール by アンヌ⹀ソフィー・ピックなど国内外で活躍する。

「ノンアルペアリングはもともと用意していましたが、現在のようなフルコースは揃えていませんでした。開発のきっかけはコ ロナ禍で休業を余儀なくされたこと。シェフソムリエをはじめ、チーム一丸でこのプロジェクトに取り組みました」

ピックはどんな時にも最高を目指すシェフだ。そのためには自分の経験や知識だけでなく、カクテル作りのプロであるミクソロジストの知恵を借りることも。ベースを水にして誕生したのが、レモンマリーゴールドとベルガモットのハーブウォーター。ハーブを煎じ、蒸気を21°で冷やして造る独創的なハーブウォーターはとても繊細だ。

「苦味が出やすいので丁寧な抽出や保存が必要です。口の中で風味が次々と、正しい順番で感じられなくてはなりません」とピックは言う。水にこだわるのは東京に滞在していた22歳の時、本格的な日本茶に出合ったことや、日本茶専門店、寿月堂のパリディレクター丸山真紀との出会いも関係している。

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©groupe PIC
ピックシェフは料理とノンアルコールのペアリングに尽力。ハチミツのような韓国のシロップ、チョンをベースにしたオリジナルドリンク。

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オマールエビにメロンとアーモンドを重ねたひと皿。

たとえばマトウダイの味を引き立てるのはウーロン茶のカプチーノ。貴重な玉露は2煎に分けて注がれる。酸味を感じる1煎目が口の中を目覚めさせ、濃緑の2煎目はアイコニックな抹茶味のフランス菓子ベルランゴと供される。

カクテルに関しても専門家のアドバイスを受けた。

「2022年に世界最高のミクソロジストに選ばれた、パリのリトル・レッド・ドアのレミー・サヴァージュのおかげでカクテルの世界の素晴らしさを知り、視野が広がりました」とピック。ミクソロジストとソムリエが手を取り合い、ノンアルのあらゆる可能性を追求するように。コンブチャやケフィアなどの発酵飲料は特に有望だ。

「料理のアロマの骨格が決まると、まずは彼らに委ねます。彼らからの提案を一緒に検討して、レシピとドリンクの完璧なバランスを実現するのです」と、ペアリングの開発手法を教えてくれた。この試みは彼女のパイオニア精神を物語っている。それは学びたい、新しいテクニックを取り入れたい、レストランで提供するものすべてに関わりたいという意欲だ。

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2ツ星の料理に合わせたオリジナルドリンクの提案。

こうしたノンアルペアリングを提供するのは、いまやアンヌ=ソフィー・ピックだけではない。パリでミシュラン2ツ星レストランを率いるダヴィッド・トゥタンもノンアルペアリングを提供している。

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©Pepu Sion-Rautureau
アラン・パッサールのもとで研鑽を積んだダヴィッド・トゥタン。自らの名前を冠したレストランは2ツ星を獲得。

「3年前、お酒を飲まないお客さまが増えていることに気付いたのがきっかけです。代わりに提供できるものがジュースなどの甘い飲み物しかなく、料理と合いませんでした。スタッフと話し合った結果、料理に合わせたオリジナルのドリンクを作ってはどうかとなりました。それぞれの飲料にストーリーがあり、発泡、ろ過、低温抽出、発酵等を通して異なる感覚をもたらします。ゲストはそこに真の探求、革新、創意工夫があることを感じ取り、いまではノンアルドリンクを目当てにいらっしゃるゲストもいます」

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芽キャベツとケールをベースにしたドリンクを野菜の前菜と合わせて。

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自らノンアルワインを造る、3ツ星シェフの新機軸。

南フランス、マントンの3ツ星レストラン、ミラズールのシェフ、マウロ・コラグレコも同じような発想だ。

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©Matteo Carassale
マントンの3ツ星レストラン、ミラズールのほか、2023年には大手町にスィークルを開業したマウロ・コラグレコ。

「コロナ禍になる前から考えていました。食事の際にアルコールを飲まない人が増えているように思えたので、水やジュース以外に提供できるものが必要ではないかと思ったのです。でもなかなか時間がなく、コロナ禍でようやく取り組めました。インフュージョン、抽出といろいろ試しながらも方針ははっきりしていました。ワインの基準に合致するものを作るということです。透明感、ミネラル感、フローラル感、タンニンや酸化のニュアンスといった共通指標を持ちながらも、技術的なアプローチ法はまったく異なります。さらに、原料はすべて自家菜園で採れたものを使用することで季節感が出せました」

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© A. Jonas
コラグレコシェフはノンアルドリンクを追求。自然派ノンアルワインのテンペラを立ち上げた。

イタリア系アルゼンチン人のコラグレコシェフはレストラン再開後、ノンアルペアリングを提供するようになった。

「ゲストは選択肢が増え、アルコールを飲めなくても飲みたくなくても、うしろめたい気分にならずに済みます」とメリットを語った。やがてこのアイデアをもっと広められないかという思いが大きくなり、大規模に展開するための事業パートナーを探し始めた。

「課題は山積みでした。こだわったのは品質を落とさずにボトリングし、安定した状態で6~8カ月保存できることです。1年間の開発期間を経てようやくTempera(テンペラ)が完成しました」

ノンアルコールワイン、テンペラには6つのタイプがある。辛口スパークリングワイン、甘口スパークリングワイン、ミネラル感のある白のスティル、極甘の白、軽やかなロゼ、そしてさまざまな料理に合うエレガントな赤。糖分が非常に少ないことも特徴だ。

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フランス各地に広がる、ノンアルのトレンド。

一流ドメーヌにもこの流れに追随するところがある。たとえばシャトー・ラ・コストは、ノンアルワイン「Nooh(ヌー)」をリリース。これを企画して実現させた開発ディレクター、ジェローム・シェールは開発の苦労を語った。

「ドメーヌを訪れる人を通じてニーズがあると気付きました。これはワイン生産者の専門知識を生かせる分野です。でも思うような品質を得られるまでに3年間の研究開発を要しました。試行錯誤の末、選択したのは35~40度の低温で減圧蒸留する方法です。現在はロゼスパークリングとスティルのロゼを提供しています」

アルコール市場が縮小するなかで、ノンアルが有望であることを誰もが感じている。ワインを飲む人は減る一方だ。フランスの国家公衆衛生庁の調査によると、2021年には毎週お酒を飲むフランス人は39%。00年には63%だったのに......。

ソムリエならぬ「ソブルリエ」という新語まで出てきた。言い出したのはソムリエのブノワ・ドノフリオで、もうお酒は飽きたとばかり、これを自分の職業にしてしまった。流通網が定着しつつあることもノンアル人気を後押しする。24年の時点でノンアル飲料専門店はフランス国内に6店舗しかないが、フランス北部のオルシのショップ、カーヴ・サンザルクをオープンしたアルノー・カルヴェは市場が急速に拡大すると予測している。カルヴェがラグビー選手だった頃は試合終了後、ファンと一緒に泥酔するまで飲むのが常だったが、45歳になった20年に断酒を決意。ところが酒の代わりに何を飲めばいいのかわからない。こうして大人が飲めるノンアル飲料探しを始めた。いろいろ試飲を繰り返すうちにとうとうノンアル飲料を専門に販売しようと思い立ち、デザインディレクターを辞めた。世界中の製品を仕入れ、23年5月にオンラインショップとしてスタート。同年9月に地元紙に記事が掲載されると、好奇心に駆られた人々が倉庫に押しかけてきたため、倉庫を改装して実店舗を開くことにした。

「すぐに固定客がつきました。スタート時に扱っていたのは約150種類でしたが、いまでは約300種類です。ノンアルのビール、食前酒、コンブチャ、砂糖不使用ソーダ、ワイン等々。どんな予算にも対応できるよう価格帯を幅広く設定し、1.80ユーロの缶ビールからアルコールフリースピリッツのボトル36ユーロまであります。客層は、55~60%が女性で、年齢は35~70歳。客の半数は医学的理由か健康のためにお酒を飲まなくなったようです。この分野が注目されている証に、フランチャイズの提案が多々あります。これはまったく予想していませんでした。一過性の流行ではなく、大きな変化が押し寄せているのでしょう」

ノンアルの道を歩み始めた人たちには酔いしれたいほどうれしい話かもしれない。

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ノンアルワインに新風をもたらす、
フレンチ・ブルームの挑戦。

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フレンチ・ブルームを立ち上げた3人。左から、シャンパーニュメゾン、テタンジェ出身のロドルフ・フレールジャン⹀テタンジェ、妻のマギー、モデルのコンスタンス・ジャブロンスキー。

ノンアルワインはワインの世界で静かな革命を起こし始めている。この分野に参入する企業の数や一部の企業の成功を見れば、そう考えるのが自然だ。ビール業界の流れを追っているとも言える。ノンアルビールの売り上げは何年も前から安定した伸びを見せている。蒸留酒の分野も同様だ。酒の種類によってこうしたタイムラグが生じる理由は、新飲料を開発するために膨大な投資が必要だからだ。ワイン業界で多額の研究開発予算を支払える企業は多くないが、需要は確実にある。「私たちは、これが社会の変化にこたえるものだと確信を持っています」と語るロドルフ・フレールジャン⹀テタンジェは、シャンパーニュ会社の共同オーナーだ。アメリカのミシュランガイドの仕事をしていた美食家の妻マギー、そしてトップモデルのコンスタンス・ジャブロンスキーとともに2019年、French Bloom(フレンチ・ブルーム)社を設立した。「妊娠した妻はパーティの場で疎外感を覚えていました。乾杯すらできなかったのです。だから、できる限りナチュラルなノンアルワインを造ろうと思ったのです」とロドルフはその動機を語った。

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ラングドック地方のブドウを使って造られる。

ノンアルワインは進化中で、各社で研究開発が続けられている。

「フレンチ・ブルームの開発には大規模な研究開発が必要でした。従来のワイン造りに縛られず、柔軟な発想で収穫の段階からノンアル前提の仕込みを考える必要がありました」とロドルフは話す。フレンチ・ブルームではラングドック地方のブドウを使用している。

「ピノ・ノワールやシャルドネを使用するのはこれらがしっかりした品種だからです。ただし酸味を保つためには早摘みが必要です。この地域の40%が有機農業で、我々も有機ワインを目指しており、亜硫酸塩も砂糖の添加も行いません。減圧蒸留法により、32℃で3回蒸留します。『ラ・キュヴェ・ヴィンテージ2022』はオーク樽で8カ月程度熟成させ、木の香りを纏ったワインを酒石酸で調整しています」

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シャンパーニュと同じ6気圧の微細なガスを注入しているので、きめ細かい泡が特徴。

フレンチ・ブルームでは資金調達の際、ボルドーの最高峰ペトリュスのジャン・ピエール・ムエックスなど著名投資家たちが名乗りを挙げたこともあり、23年は約30万本を生産し、27~28年には300万本を目指すという。限定ボトルはワインセラーで109ユーロ、レストランでは300ユーロ以上になる見込みだ。果たして妥当な価格なのだろうか。

「ノンアルワインの問題点は、金属っぽい味がすること。当社の製品第1号は正直イマイチでしたが、バージョン8の製品には満足しています」とロドルフは語った。フレンチ・ブルームの香りはクルミや干しアプリコット、バニラ、スパイス。ここまでは従来のワインと同じだ。だが口に含むと印象は異なる。ワインのボディやオイリーさ、テクスチャーが感じられない。とてもフレッシュで軽い。これをワインと呼べるものだろうか。「ワインにはアルコールが含まれるべき、という人もいますが、私は味わいが複雑で楽しめるものであればそれで十分だと思います」とロドルフは続ける。フランスの法律では、ブドウを原料にしていればアルコールゼロでもワインと呼んで問題ない。一方、イタリアではそれが許されない。

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フレンチ・ブルームは日本でも購入可能。上左から、バラの花びらやサクランボのアロマが特徴の「ル・ロゼ」、シャルドネを使い、ミネラル感のある「ル・ブラン」各750ml各¥7,452、今年4月にリリースされた熟成感あふれる「ラ・キュヴェ・ヴィンテージ2022」750ml¥18,144/以上アオセフランス

人気モデルのベラ・ハディッドはノンアルワイン「Kin Euphorics(キン・ユーフォリックス)」を発売した。6100万人以上いる彼女のフォロワーの間でも有名だ。フレンチ・ブルームはデュカスグループ、ローズウッドやシックスセンシズ、ギャラリー・ラファイエット、パリ・ソサエティなどと取引がある。アメリカではカリフォルニアの音楽フェス、コーチェラのパートナー企業でもある。ノンアルワインの未来は明るい。

問い合わせ先:
アオセフランス
0798-61-2231
https://www.aocfrance.jp/

●1ユーロ=約178円(2025年11月現在)

*「フィガロジャポン」2025年10月号より抜粋

photography: Guillaume Bonnaud text: Vanessa Zocchetti (Madame Figaro), Stéphane Reynaud (Le Figaro Vin)

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