心地よく暮らすための小さな美の見つけ方 優しい白×木で統一、料理家が辿り着いた心地いい空間。
Interiors 2021.09.07
逗子に住み始めて20年弱、この家は5軒目だという料理家の中川たま。桜山が裏手にあり、海にもほど近い。庭には立派な梅の木と、自生するフキや柑橘たち。耳を澄ませば、リスの鳴き声が聞こえてくる。
この家の温もりは、豊かな自然だけでなく、その配色にある。薄茶色の木製家具と、作家ものの白いうつわ。優しい白×木で統一された空間が、心地いい安心感を与えるのだ。
「白っていろんなニュアンスがあるから好きなんです。生成りっぽかったり、透き通っていたり」
テーブルクロスにしたのは、フレンチアンティークのベッドリネン。この日は自家製の赤ジソジュースと庭で採れた湘南ゴールドをひと口。朝の光を浴びてフレッシュに目覚める。
家具はほとんどがフランスのアンティーク。けれど白い飾り棚は、昔の日本の医療棚だという。木工のシェーカーボックスには細かな生活用品が。陶芸作家、寒川義雄の白い陶の茶器入れがあると思えば、中からキャットフードが出てきたりもする。
「美のために暮らす」のではなく、「暮らしのためにある美」。この家の美学は、自然体で無理がない。それはまるで、季節の恵みをシンプルに楽しむ、彼女の料理みたいだ。
飾り棚の上にある寒川義雄の白い蓋付き陶器には、黒猫しろこの食料が。古道具のベンチに置いたホワイトセージのお香は、空間の浄化に。
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1. 困ったら漬ける
「すぐに食べられないものは、砂糖か白ワインビネガーにとりあえず漬けます」。今年15㎏も採れた梅は、セラーメイトの保存瓶に入れてシロップや梅酒に。いちばん左は黒イチジク。「高級ないただきものだったのですが、とても硬くて。1 ~2年お酢に漬けたらイチジクの香りが移って、ドレッシングや肉料理の臭み消しに重宝しています」
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2. 整理整頓は手仕事の箱で
日用品の整理には、手編みのカゴや作家のうつわをうまく活用する。湯のみを入れているのは竹製の弁当カゴ。部屋の一角を飾るシェーカーボックスには、ソーイングキットやメジャー、コードなどの生活用品を。本来の用途にとらわれない自由な発想がカギ。
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3. 調味料もうつわに
キッチンの出窓に飾られた白い陶器たちも、立派な実用品。フランスのアンティークや作家もののうつわに、きび砂糖や海塩などの調味料が入っている。「仕事柄、キッチンで過ごすことがほとんどなので、本当に好きなものだけを置きたくて」
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4. 白×木で見せる収納
いろいろなものが棚にあっても雑多な印象にならないのは、トーンや素材が絞られているから。色は白とベージュ、素材は陶と木、そしてガラス。プラスチック製品は極力置かない。目が散るものには、白い布をかぶせて収納する。「逗子は湿気が多いので、うつわはカビないように見えるところに重ねておきます。そのほうが家族も使いやすいですしね」
1971年、兵庫県生まれ。自然派食品店勤務後、ケータリングユニットを経て、2008年に料理家として独立。近著に『デイリーストック』(グラフィック社刊)、『器は自由におおらかに』(家の光協会刊)など。
Instagram:@tamanakagawa
*「フィガロジャポン」2021年9月号より抜粋
photography: Akemi Kurosaka (Stuh)