Kawatsura Japan vol.2 伝統と革新が交差する、川連漆器のクリエイション。

Interiors 2022.02.28

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世界を舞台に独自のクリエイションを展開する、デザインエンジニアの吉本英樹さんによる新作プロダクトが、この春誕生する。日本の伝統工芸である漆を用いたフロアライト「ARC」だ。

制作を手がけるのは、前回の記事で紹介した、秋田県湯沢市で800年の伝統を持つ川連漆器の職人たち。吉本さんはこれまでも数度、川連漆器とコラボレーションしている。その代表作が、気鋭のクリエイターを多数輩出するデザインコンペティション「レクサス デザイン アワード」のトロフィーで、国際的に高い評価を獲得した。今回の「ARC」では、川連漆器のどんな魅力を引き出そうとしているのか。職人が集まる川連町を訪れた吉本さんを追った。

vol.1 「秋田の土地が育んだうつわ、川連漆器の魅力とは。」はこちら

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ろくろで表面を削り、仕上げ挽きしたばかりのお椀の木地。酒器から盆まで漆器もさまざまだが、日本の食と縁深い「汁椀」は川連漆器を代表する品のひとつ。

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“儚い美” を体現する、アートのようなライト。

吉本さんと待ち合わせたのは、「川連漆器伝統工芸館」。800年におよぶ川連漆器の歴史と技法にまつわる文献や資料が展示されている場所だ。「ARC」の制作を担う職人たちを束ねる、「佐藤商事」の佐藤慶太社長を案内役に、館内を巡る。ふたりの出会いは、吉本さんが拠点を置くロンドン。漆器の魅力を世界にも広めようと、幾度も海外へと足を運んできた佐藤社長と吉本さんが意気投合。以来、数年にわたり、漆器の新しい可能性をともに追い求めてきた間柄だ。

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「川連漆器伝統工芸館」にて、ロンドンに拠点を置いて世界を舞台に活躍するデザイン・エンジニアリング・スタジオ「Tangent」代表の吉本英樹さん(右)と、「佐藤商事」の佐藤慶太社長(左)。川連漆器の魅力を伝えるために対話を重ねてきたふたりが、今回手がける「ARC」とは。

フロアライト「ARC」は、漆塗りの台座に弧を描くLEDライトが組み込まれた、曲線と直線のバランスが美しいデザイン。心に残るその意匠には、川連漆器の歴史に対して吉本さんが抱いたオマージュが込められている。

「川連漆器の歴史を紐とくと、鎌倉時代に弓や刀といった武具に漆を塗っていたことが起こりである、という記録が残っています。弓を思わせる『ARC』のデザインは、そういった歴史に思いを重ねて生まれてきました。弓を引いたときの張力によって生まれる曲線は、矢を放つと同時に失われてしまう。その“一瞬の儚さ”に、日本らしい繊細な美を感じたんです」

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現在、制作が進行する「ARC」のプロダクトデザインスケッチ。照明として光を放ちながら、居住空間にアートのような存在感をもたらす。

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モダンなデザインを下支えする、匠の技。

従来の漆器のイメージをくつがえす、革新的な「ARC」のデザイン。800年間の伝統をいまへと繋げてきた職人の手仕事が、その制作を下支えしていく。

佐藤社長から、代表的な伝統技法について話を聞いた。たとえば、漆を塗る前の土台となる木地。川連で用いる木地は、樹齢200年を超える大木を切り出して使うのが一般的だという。お椀や酒器などつくる物に合わせておおよその形を削り出した後、短くて1カ月、長い時は半年もの間、煙で燻して燻煙乾燥を行う。この工程が生木の水分を飛ばし、木地の狂いを減らすのだ。佐藤社長は言う。「何百年と続いてきた方法ですが、すすの炭素が木の成分に入り込むことでねじれを防ぐことが、近年の科学的な解析でわかってきました。経験から導き出された先人の知恵に驚かされます」

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ろくろに木片を取り付け、外側を荒く引いて内側をくりぬくことで、大まかな椀の形に成型する。荒挽き後のお椀を積み重ね、じっくりと煙で燻し、安定させる。

仕上げ挽きとして最後の成型を行うのは乾燥を終えてから。木地師の加瀬谷辰雄さんはこの道48年。ろくろの前に座り、幾度も表面に手を滑らせて感触を確かめながらカンナをかけてゆく。「木は自然の物ですから、1本1本すべて具合が違う。触って固さを確かめながらでないと割れてしまうことも。何十年も続けると、指先や手のひらが“いい加減”を教えてくれるんですよ」

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削り終えたばかりの椀を手に取る加瀬谷さん。仕上げる部位によって使い分ける多種多様なカンナや割り型など、工房にある道具はすべて自らの手で作り上げた物。
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乾燥させた椀をふたたびろくろに取り付け、表面を削って美しく仕上げる「仕上げ挽き」の工程。

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光を受けて輝く、漆ならではの美。

漆特有の光沢を生みだす「塗り」は、漆を塗って乾かしては研ぐ、というプロセスを繰り返すことで滑らかに仕上げる技法。50年以上の経験を持つ塗り師の石山竹一さんは現在75歳。吉本さんがデザインした「レクサス デザイン アワード」のトロフィーの塗りも石山さんが担当した。熟練の技の持ち主でも、レーザーカッターで表面を加工した木材を塗るのは初めてで、苦心したと笑う。

「レーザーで正確に加工した木地に、手作業で漆を塗ると、ほんの少しの揺らぎでも目立つのだとわかりました。いい塩梅に仕上がるまで何度も何度も試しましたが、うまく塗れた時はうれしくてね。新しい挑戦をするっていうのは、いくつになってもおもしろいものですよ」

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べんがらを加えて赤く色付けた漆をお椀に塗る石山さん。漆が均一に付くよう、ハケを縦横に動かす迷いのない手さばきに見とれる。
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作業中は、塵ひとつ付けないために細心の注意が必要に。漆が溜まることのないよう、曲線や角も均一に塗りあげる巧みな手技に引きこまれる。

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伝統と革新、それぞれの担い手が見る未来。

この「塗り」が生みだす表情に、吉本さんは漆が持つ唯一無二の美を見出している。

「漆をひとつの塗装技法として見た時、光を反射する美しさはどんな塗料とも一線を画しています。しかも“艶あり”“艶消し”と、塗りの仕上げによって光の柔らかさも変化する。レクサスのトロフィーを制作した時、グランプリトロフィーには『白檀』を採用しました。木地を銀粉でコーティングし、その上に透漆を塗ることで、光を受けると独特の煌めきが生まれる仕上げです。その風合いが本当に魅力的でした。今回のフロアライト『ARC』は、照明として光を放ちながら漆にしか出せない繊細な美を体現する、そういう姿を思い描いています」

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吉本さんが手がけた「レクサス デザイン アワード」のトロフィー。ファイナリスト用トロフィー(左)川連漆器 艶消し黒色仕上げ、グランプリ用トロフィー(右)川連漆器 白檀仕上げ

吉本さんが生みだす革新的なデザインを、川連の職人たちの伝統が形にするプロジェクト。佐藤社長は、川連漆器のみならず、日本の伝統産業の未来をかけて取り組んでいる、と話す。

「吉本さんのデザイン視点や発想が加わることで、私たち自身も川連漆器にこんな可能性があったのか、と気付かされています。日本の多くの伝統産業がいま、存続の危機に瀕している時代です。私たちが新しい挑戦を続けることで、漆器の魅力を再発見してもらうきっかけになってほしいですし、日本の伝統産業が培ってきた技の素晴らしさに気付いてもらう機会を増やせたらうれしいですね」

800年続く歴史の流れにジョインする。そんな刺激的な経験を心から楽しんでいる、と吉本さんは瞳を輝かせる。

「川連漆器の制作はすべて手作業で行われていますが、『ARC』を作る場合、どこかに必ず機械加工を取り入れる必要が出てくるでしょう。でもそれは機械が伝統工芸において次の数百年のスタンダードになる、という意味ではないんです。この後800年経っても、いまと同じように職人の手作業が残る未来を絶対につくらなくてはいけないし、そのために必要なのは漆器の魅力に光を当てること。伝統を変えてしまうのではなく、800年の歴史の中に存在しなかったものを生みだして、脈々と続いてきた流れを少しでも広くする。それが僕の役割だと思っています」

この手で、次の歴史を作る。そんな思いを内に秘めた、伝統と革新それぞれの担い手が生みだす新作「ARC」。3月の完成に向け、期待が高まる。

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次回の記事では完成した「ARC」について、吉本さんのインタビューをお届けする予定。こうご期待!
吉本英樹 Hideki Yoshimoto
デザインエンジニア。1985年和歌山県生まれ。東京大学航空宇宙工学専攻修士課程修了後、英国ロイヤル・カレッジ・オブ・アートにて博士号を取得。2013年に「レクサス デザイン アワード」を受賞、2015年にロンドンにてデザイン・エンジニアリング・スタジオ「TANGENT」を設立。2020年より東京大学先端科学技術研究センター特任准教授に就任、工学とデザインの融合分野で国際的に活躍する。
www.tngnt.uk

川連漆器についてもっと見る

●問い合わせ先:
佐藤商事
tel: 0183-42-2147
https://sikki.com

photography: Aya Kawachi, Naohiro Ogawa director: Takeshi Taniyama director of photography: Tomohiro Yagi editing & text: Aki Kiuchi

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