サステイナブルに繋がる、 美しいものづくり。
Interiors 2022.11.11
リサイクル素材を使っていたり、既存のアイテムをリユースしてアレンジしたり、自然由来の素材を活かしていたり……。ものづくりにおいて独自の美学を貫きながら、サステナビリティが宿る6組のものづくり。
Utsukushii Madobe
美しい窓辺 / 手仕事クリエイターズラボ
壁左から:ウォールデコ(W25×D13×H10cm)¥14,300、(W30×D15×H20cm)¥14,300、上に載せた白いベース(φ11×H20cm)¥9,680、ミラー(φ26cm)¥12,100、コーナーウォールデコ(W36×D25.5×H13cm)¥16,500 床左から:コンソールテーブル(W20×D26×H72cm)¥27,500、フラワーベース(φ15×H22cm)¥9,680、コンソールテーブル(2点セット、W55×D40×H53cm、φ20×H73cm)¥47,300、上に置いたポット(植物付き)(φ10×H9cm)¥4,180、一輪挿し(φ9×H16cm)¥5,280/以上アーツ&カルチャルマネジメント社
お気に入りとともに風景を織りなす再生オブジェ。
世界のインテリア雑貨や家具、アクセサリーなどのショップを展開するアッシュ・ペー・フランスの内装やデコレーション、グラフィックを制作していたチームが独立したのは2010年のこと。ユニークかつ巧みな造形力をもつ彼女たちがコロナ禍のなか、自然と手を動かし始めて生まれたオブジェシリーズが「美しい窓辺」だ。材料となるのはダンボールやペットボトル、新聞などの身近な素材。それをもとに花瓶や壁掛け鏡、家具などの多岐にわたるオブジェを形作る。6名のスタッフがそれぞれに作業を行い、旅の記憶などの自身の内なる財産を造形の原点とし、一点一点同じものにはならない。お気に入りのものを窓辺において心を弾ませたいという思いがプロジェクト名となった。
代表の井上知佐子は見た目よりもはるかに軽いアイテムを手に、「自分で塗り直しても家具の脚を切ってもいい。そんな自由度の高さも魅力のひとつだと捉えていただけたら」と語る。
「私たちのアイテムは単体で楽しむのではなく、ぜひみなさんのオブジェやアクセサリーなどとともに楽しんでほしい。そこに思いも寄らぬ出合いがあって、魅力的な部屋の一角になる。そんな『美しい窓辺』を作っていただきたいのです」
クリエイティブエージェンシー、アーツ&カルチャルマネジメント社内のプロジェクト。同社が手がけるディスプレイ素材の再利用を含め、新たに制作したオブジェなどを通じて生活を豊かにする雑貨として再生、販売。
Instagram:@utsukushii_madobe
アーツ&カルチャルマネジメント社 info@acm2010.com
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Takatoshi Kuronuma
クロヌマタカトシ / 彫刻家
木彫の作品、燕(W30×D17cm)、粘土作品の雀(W15×D9cm)ともに価格未定/ともにクロヌマタカトシ
動物の背景にある広大な自然と対話する彫刻。
彫刻家、クロヌマタカトシの作品には悠久の時が流れる。動物や人物をモチーフに、流木の造形を活かした彫刻、製材された木材による木彫、そして粘土を用いた塑像を制作してきた。いま彼は、これら異なる表現を横断することで、それらの境目が溶け合う作品制作を目指そうと考えている。「僕がいま探っているのはそれらの中心にある何か。そこを表現したいと考えています」と、その思いを語る。
クロヌマの作品には動物が多く登場するが、彼が見つめるのは動物の背景にある広大な自然だ。彫刻を通じて自然と対話したいと願うからこそ、モチーフに野生動物を選ぶ。流木はそこに何かを見いだすために多くの時間を要する。そこに流れる時間や朽ちて生まれる造形に目を向け、アトリエに積んだ無数の流木と対話を重ねながら制作までに数年をかけることも。一方で粘土は瞬発的に形を探り、クロッキーを描くように短時間で形を見いだすのだそう。いずれの作品にも、「どこか原始宗教的な祈りの存在を作れたらという思い」が共通する。
「コロナ禍にあるいま多くの人が心安らげる存在を求めているのを感じます。そこにこたえることができればうれしいです」
1985年、神奈川県生まれ。2008年より建築の仕事に携わり10年から木彫での制作を開始。11年に初個展。9月にうつわ菜の花(神奈川)、12月に921GALLERY(岡山)で個展開催予定。写真左が流木の作品、白鳥。Instagram:@takatoshi_kuronuma
クロヌマタカトシ https://takatoshikuronuma.com
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atelier rei
アトリエレイ / テキスタイル作家
左上から:リユーステキスタイルラグ 椅子敷 グレー×イエロー、ピンク×ネイビー×グリーン(各W40×D40cm)各¥18,700、スクエア型(W37×D37cm)¥16,500、ロングスタイル 赤(W120×D45cm)¥49,500/以上アトリエレイ
廃材から生まれた創造性あふれる一点もの。
洋服のお直し、そしてリメイクを主軸に活動するアトリエレイ。デザイナーでありアーティストの渡辺鈴子の手にかかると、わずかな袖や丈の直しで服のイメージはがらりと変わり、創造性豊かなリメイクによってその服はかけがえのない一点ものに生まれ変わる。その制作のなかで生まれるさまざまな廃材もまた、渡辺にとっては新たなものづくりの大切な素材だ。「私たちの仕事には、作りながらにして余剰品を出してしまうジレンマがあります。そのジレンマから使う人が楽しめる循環を目指そうと考えたのです」と、渡辺はオリジナルプロダクトについて語る。
たとえばハンドニッティングで作られたラグは、太さや細さ、厚みが異なる素材を編んで絵を描くようにグラフィカルな面を作り上げた。しっかりとした網目は耐久性があり、ニット素材ならではの快適な足触りを実現している。これらは色と形の組み合わせを検討した末に生まれたもの。彼女はさまざまな素材に触れながら、「目的を明快にもつことも、もたないこともあります」と創造の原点を話す。
「手を動かすことで見える風景があります。アート性も考えてはいますが、何より日常的に使えるものでありたいのです」
2015年に開業した洋服にまつわる幅広い制作を行うアトリエ。洋服の修理、リメイク、オーダーメイドをはじめ、オリジナルのウェディングドレス制作などを行う。現在はオリ
ジナルプロダクトも手がけており、全国に多くのファンをもつ。Instagram:@atelierrei
アトリエレイ tel:052-734-7034
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Ryota Fujimura
藤村亮太 / 陶芸家
左から:唐子3連器(H17.5cm)¥22,000、エッグスタンドソーサーカップ(H13.7cm)¥33,000、茶碗10連器(H22.2cm)¥49,500、水玉お猪口壺(H10.3cm)¥6,600、サンプリング器(H18.3cm)¥38,500/以上藤村亮太
不要になった食器を再構築するユニークなオブジェ。
使われなくなった食器や廃棄された土を素材に制作する作家、藤村亮太。いけばな草月流の草月会館造形教室で花器の制作に携わりながら、東日本大震災をきっかけに既存のうつわのあり方に疑問を抱くようになって作家活動を始めた。全国各地に陶磁器の産地が点在する日本は、世界有数の焼きものの国だ。それは同時に、余剰とされるうつわや土を生み出してもいる。藤村はこれらに目を向け、ユニークな組み合わせをもってうつわを再焼成することで作品を作りだす。
もともと収集癖があるという藤村は、「ダメなものほどなんとかしたいという性格」だと自らを語る。日本のうつわは高温で焼成されることから焼き直しにも強いが、温度を抑えて焼成される海外のうつわは再焼成によって崩れることが多い。そのため作品の多くに和食器が見られる。「僕は自分自身のセンスにそれほど期待していない」という藤村は、無作為に組み合わせたうつわで作品を成していく。うつわにはもともと用途が備わっているため、再構成後も何かしらの役割を継承していることも多いが、ユニークな造形にこそ目を向けたい。用の美とは対極的な視点がうつわの楽しみ方に新たな可能性をもたらしている。
1981年生まれ、東京都出身。2008年多摩美術大学大学院美術研究科修了。いけばな草月流の草月会館造形教室助手、陶芸家・小川待子のアシスタントを経て独立、現在のスタイルにいたる。神奈川県鎌倉市で制作を行う。Instagram:@ryotafujimura
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O’ Tru no Trus
オートゥルノトゥルス / アートユニット
左から:顔のオブジェ(W30×D26×H54cm)¥74,800、真鍮・ロープ・石のオブジェ(W41×D15×H76cm)¥154,000、サンゴのオブジェ(W20×D10×H80cm)¥99,000/以上水犀
ものが行き着く最後の形が唯一無二の存在に。
流木や貝、動物の骨……海に流れ着いた漂流物を真鍮と組み合わせて美しいオブジェを作るのが、種村太樹と尾崎紅によるアートユニット、オートゥルノトゥルスだ。彼らは漂流物を「ものが最後に辿り着いたかたち」だという。
かつてカヤックで日本中を旅した種村は、海の近くで暮らすうちに漂流物のおもしろさに惹かれて拾い集め始めたという。彼らが現在暮らす沖縄、それまでに暮らしていた淡路島、そして他の国や地域。季節や海辺によって漂流物は驚くほど異なり、いつも違うものと出合える楽しさがあるそうだ。一方尾崎はそこに造形的な美しさを見いだし作品を作りだした。「漂流するうちに人工物が劣化し、表情が自然物に近づいていくんです」と素材の魅力を語る。海岸でともに素材を集め、尾崎がデザインし、種村が形を作る。漂流物は直感的に拾い集め、水洗いのみで手を加えることはない。デザインもまた、「私にとってはダンスを踊るような感覚」と尾崎は笑う。彼らにとって、漂流物を拾うことからデザイン、制作までは一直線に繋がる行為。漂流物に美しさを見いだし、それらを繋ぎ、形にすることにも美を見いだす。彼らが感じた美しさを封じたオブジェは、唯一無二の輝きを放つ。
沖縄を拠点に活動する、種村太樹と尾崎紅によるアートユニット。旅先の海で見つけた漂流物と真鍮を組み合わせ、オブジェやウォールジュエリーなどを生み出す。ユニット名は種村が見た夢の中の言葉に由来する。Instagram:@otrunotrus
水犀 tel:03-5846-9118
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Sei Nishimura
西村青 / ガラス作家
蛍光灯ガラスをリサイクルした作品。左から:ボウル「Palm bowl M」(約φ20.5cm)¥9,900、ボウル「Frill bowl M」(約φ13cm)¥6,600、タンブラー「Tumbler-slit」(約H11.5cm)¥4,950、タンブラー「Tumbler-0-SS」(約H8.5cm)¥4,400、ベース「Vase-rail- S」(約H15cm)¥8,800、ゴブレット「Goblet-X-」(約H11.5cm)¥14,300、ベース「Vase-rail- L」(約H22.5cm)¥17,600/以上西村青
ガラスが割れた時の美しさを形にしたい。
歴史や美術が好きで、歴史と工芸の関係からガラスに関心をもったという西村青。「有史以来、人はものづくりへの欲求をもち続けています。ものがあふれる時代にありながら、なお作りたいという欲求にロマンを感じます」という彼は、ピーター・アイビーの工房で働きながら吹きガラスで作品を制作する作家だ。 工房で使う蛍光灯のリサイクルガラスを用いており、早く冷え固まる特性から作品はシャープな表情をもつ。しかしミニマルな美しさを備えるアイビーの作品に対し、西村の作品はどこか装飾的だ。彼にそのインスピレーションを与えてくれるのは「ガラスが割れた時の美しさ」だ。「それはガラス特有のものです。その美しさを装飾に置き換えたいと考えました」という。ガラスのわずかな厚みの差で色の濃淡が生まれ、薄さの中にも奥行きがある。フラットなガラスにはない立体感を極薄の表面に施した作品は、いずれも繊細ながら力強い魅力をもつ。
これまではタンブラーやグラス、ボウルなどの明確な用途をもった形を作ってきたが、「これからはフォルムだけを意識した作品も作っていきたい」と今後の展望を語る。その作品は、繊細でソリッドな彼の視点をより研ぎ澄ますものになることだろう。
1990年、奈良県生まれ。高校卒業後にイタリアへ留学後、富山ガラス造形研究所入所。2014年よりピーター・アイビーの工房に勤務し、吹きガラスによる作品づくりを行う。5/26までスパイラルマーケット(東京・青山)で個展開催。Instagram:@sei_glassworks
*「フィガロジャポン」2022年7月号より抜粋
photography: Masaki Ogawa styling: Yuki Nakabayashi text: Yoshinao Yamada