アニエス、家族の思い出に囲まれた美しい17世紀の家。

Interiors 2024.01.20

パリから車で1時間弱。緑に囲まれた郊外のシックな町に、アニエスの愛する我が家を訪ねて。

>>【前編】アニエスが語る、 服とアート、そしてパリ。

アニエス・トゥルブレ
Agnès Troublé

デザイナー・フォトグラファー・映画監督

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1941年、ヴェルサイユ生まれ。17歳で結婚し、19歳で双子のママに。21歳でシングルマザーとなり、エル誌のスタイリストを経て、35歳でアニエスベーを起業。デザイナーとして、アート蒐集家として世界的に知られる。階段下で18世紀の大理石の天使像とともに。

「ここに上がってごらんなさい」

階段に腰を下ろしてのポートレート撮影が終わると、手招きされた。階段を3段ほど上がると、アニエス・トゥルブレは階段の1段目を指差して微笑んでいる。

「大理石の模様の中にCœur Volant(羽ばたくハート)の形が見えるでしょう? 最近気付いたばかり」

そのせいか、最近の彼女の手書きサインの横には、翼の付いたハートが添えられていることが多い。Cœur Volantは、彼女の自宅のある通りの名前でもある。

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白い壁、淡いブルーの鎧戸に、真っ赤に色づいた葡萄の葉が美しい。アニエス本人が撮影した庭からの写真。©agnès b.

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ヴェルサイユのおばあさまの家で生まれ育ったアニエスは、いま、隣町に住んでいる。

「この家に移ったのは30年ほど前。ここはルイ14世のお医者さまが住んでいた17世紀の建物なのよ」

広い庭園から眺める2階建ての母家は、真っ赤な葡萄の葉に覆われている。庭を歩けば、温室があり、果樹園があり、彫刻のある噴水やプール、そして、アニエスがコラージュを制作する小さなアトリエがある。伝統のフランス式庭園のように整えすぎることなく、格式ばらない自然な佇まいを残した庭の風情は、アニエスの世界そのもの。子どもの頃、 ヴェルサイユ宮の広大な庭園が遊び場だった彼女にとって、この17世紀の邸宅と庭園は子ども時代と家族の思い出を映し出す鏡なのかもしれない。

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玄関ホールに何げなく置かれた彫像。クラシックと現代アートが難なく混じり合う空間。

1階にはふたつのサロンがある。温かな暖炉がある小さなサロンは、音響がいいから音楽室に。時にはミュージシャンを招いて演奏してもらうこともある。もうひとつ、18世紀のご先祖の肖像と父親の写真が見守るソファのある広いサロンは、寛ぎの時間を過ごすリビングルーム。

「祖母の家から持ってきた家具が、この家にはたくさんあります。暖炉の上の鏡も、玄関の隣のシャンデリアも」

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ソファにクッションがリズミカルに並ぶリビングルーム。壁には18世紀の家具や肖像画と現代アートが同居する。

18世紀風の古い家具や肖像画に優しい表情を加えるのは、カーテンやソファのナチュラルテイストのファブリック。そして数々の現代アートが同居している。

「17歳で結婚して、パートタイムでギャラリーで働いたの。双子が生まれる前の話よ」

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ハーモニー・コリンのデッサン『無題』(2013年)。手前にはウサギの骨やアフリカの人形が並ぶ。

その時初めて担当した画家、アンタイの作品はリビングルームの壁を飾る。この日彼女が着ていた黒いセーターのモチーフとなったハーモニー・コリンのデッサンは、 ダイニングルームの壁に。同じ部屋には、ジャン=ミシェル・バスキアの作品がかかり、アニエスの写真集『レ・ドローレス』の主人公となったクレール・タブレのポートレートも見える。友人はアーティストばかりというアニエスは、文字どおり、アートとともに暮らしている。

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アフガニスタンの柱のあるダイニングルームにはバスキアや王度の作品。

彼女自身の作品もまた、家族の思い出とともにインテリアを親密なものにしている。子どもの頃のモノクロ写真、子どもたちの写真。ずっと昔から拾い集めてきたお気に入りの小石や小枝や、貝殻、紙の切れ端。中には訪ねてきた友人が真っ黒に焦がしてしまったピザのかけらまで  年前に始めた石板のコラージュアートもまた、あちこちに姿を見せる。それらすべてが、壁に貼られて手書きのメモが添えられていたり、サイドテーブルや暖炉の上に置かれたりして、空間を彩っている。

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「私が11歳の時のアベ・ピエール♡」とメモ書きされ、矢印が付けられた写真は、敬愛する慈善活動家のアベ・ピエール神父。

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2階の廊下にそっと置かれたテーブルには、家族の思い出の写真がさりげなく並ぶ。

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アニエスの家には人懐こい空気がある。

「昔から、物を集めて組み合わせるのが好きだった」という彼女は、17世紀クラシックも現代アートも、潰れた空き缶も、遠い国で見つけた人形も、思いどおりに組み合わせてしまう。共通するのは、アニエス・トゥルブレの審美眼が選んだオブジェの美しさと、家族や友人、人々への温かな眼差し。この家は、彼女がクリエイトした最大のコラージュなのだ。

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無造作に積み上げられた本、モノクロの家族写真。どんな場所からも、家族がアニエスを見つめている。

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キッチンの収納棚はモロッコ旅行にインスパイアされたアニエスが特別にブルーにペイントさせたもの。大きな木のテーブルは蚤の市から。おばあさまから譲られた椅子が囲むテーブルに、家族が集う様子が目に見えるよう。

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おばあさまの家から来たシャンデリア。棚に並ぶ食器もおばあさまから譲られたものが多い。

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フランス革命の頃の皿。天使の持つラッパに「La Paix(平和)」の文字が。

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暖炉に火が入った、暖かそうなバスルーム。真っ白に塗られた壁に、ライトブルーの洗面台が爽やか。絵葉書が飾られて。

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バスルームの一角に飾られた写真もブルーの色合い。白い壁、ブルーの写真、赤いストライプのシャツでトリコロールに。

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銅製のバスタブが主役。バスルームは合計2つある。

>>【前編】アニエスが語る、 服とアート、そしてパリ。

*「フィガロジャポン」2024年2月号より抜粋

photography: Ayumi Shino text: Masae Takata (Paris Office)

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