サンルイのクリスタルガラスで、ロマンティックな彩りを。
Interiors 2024.09.21
王侯貴族たちから広まったフランスのテーブルウェアには長い歴史を誇るブランドがあり、現在も当時のモチーフが残る。その源泉を辿り、製法やデザイン、魅力を解き明かしてみよう。火と水が織りなす錬金術のような工程を経て作られるサンルイのクリスタルガラス。いまも変わらず受け継がれる手仕事の技は、ロマンティックな彩りを与えてくれる。
SAINT-LOUIS
サンルイ
森に囲まれたヴォージュ地方にサンルイの前身となるミュンツタール・ガラス工房が開かれたのは1586年のこと。1767年にはルイ15世から「サンルイ王立ガラス工房」の称号を与えられ、熟練の技を持つ職人たちはより透明で上質なガラス作りに励んだ。やがて、鉛など金属系の化合物を使って輝きを引き出したクリスタルの製造技術が確立され、1829年に「サンルイ王立クリスタル工房」と改名されて以降は、クリスタルの製造のみを手がけるようになる。
その後発表されたグラスセット「トリアノン」は、テーブルセッティングの概念に革新をもたらし、数々の受賞を果たした。以後サンルイは業界におけるパイオニア的存在となっていく。工房では1400℃を超える高温の炉で不純物を取り除き、長い竿を持った吹き職人によってクリスタルの原型が形作られる。その後、大量の水を使って表面の曇りを取り去る作業へと続く。この火と水の対照的な作業は、ホットワークとコールドワークと呼ばれる。さらに繊細かつ多彩なカットや装飾が施され、さまざまな製品へと形を変える。
それぞれのコレクションには歴史を彩ってきたストーリーが込められており、フランスが誇るクリスタルのサヴォワールフェールが息づく。エルメスグループに属してからはインテリアオブジェにも力を入れており、ランプやシャンデリアなど各種照明も人気を博す。400年以上にわたり受け継がれてきた職人の魂は、現在も唯一無二の透明な輝きを放つ。
TOMMY
1928年、第1次世界大戦の休戦記念日を祝うために発表された「トミー」は、ワーテルローの戦いで活躍したイギリス兵士を表す、トミー・アトキンスにちなんだ名前。その10年後、当時のフランス大統領アルベール・ルブランがイギリス国王ジョージ6世とエリザベス王妃を迎えてヴェルサイユ宮殿で昼食会を催した際、2200個ものグラスが準備された。職人が手作業でカットを施すこのコレクションは芸術品のような優美さをたたえている。スターカット、ダイヤモンドカット、ベベルカット、パールカットなど熟練の職人による高度な技が集結。
APOLLO
サンルイのクラシカルなコレクション「ティスル」にモダンな解釈を加え、1979年に誕生した「アポロ」は、ヴェネツィアンストライプが生み出す端正な佇まいで、光の加減によって注いだ液体が美しく反射する様も魅力。2011年にはデザイナーのゴドフロワ・ドゥ・ヴィリユーとステファニア・ディ・ペトリロが同シリーズのセレモニーグラスのパリソン(杯部)に着想を得て、大胆かつ遊び心のある照明器具を生み出した。昨年新たに加わったティーセットは、茶葉の種類によって大きさの異なるグラスを使い分けながら、お茶の新たな楽しみ方を提案している。
*「フィガロジャポン」2024年9月号より抜粋