2025年ミラノデザインウィーク「フォーリ・サローネ」で話題になったインスタレーション5選。
Interiors 2025.05.25
毎年4月にイタリア・ミラノで開催されるミラノデザインウィーク。近年、見本市会場(ロー・フィエラミラノ)で展示していたブランドがミラノ市内(フォーリ)での展示にシフトしていくなど、市内での盛り上がりは更に加熱している。特に今年話題になった5つを紹介しよう。
■ロロ・ピアーナ
話題のスタジオが、ついに老舗ロロ・ピアーナとコラボレーション。

2003年にアメリカ出身のブリット・モランと、イタリア出身のエミリアーノ・サルチによって設立されたディモーレスタジオ。住宅、商業施設などのインテリアを手がける建築・デザインスタジオで、ここ数年デザインウィークでの展示では長蛇の列ができる注目のスタジオだ。

そんなディモーレスタジオは、さまざまなブランドとコラボレーションを行い、市内5カ所で展示を行なっていた。なかでも、カシミアをはじめとする上質な生地づくりの歴史をもつ老舗、ロロ・ピアーナとのコラボレーションは話題で、ディモーレのキャリアにとってもエポックメイキングな展示となった。毎年、ロロ・ピアーナは本社社屋でプレビューを行っている。自然光の差し込む開放的な吹き抜けの空間が特徴なのだが、今回はあえて光が入らないようすべてを締め切って開催。劇場の緞帳のような赤いカーテンで仕切られた空間を抜けると、その先にはまるで映画の世界に迷い込んでしまったかのような世界が広がっていた。

インスタレーションのタイトルは「La Prima Notte di Quiete(静寂の最初の夜)」。ロロ・ピアーナの上質なカシミヤやウールなどの素材を使い、ディモーレがデザインした家具が並ぶ。円形のベッド、ベルベットなどの光沢感のあるファブリックを使うなど、70年代風のインテリアが並ぶ。電話のベルが鳴り、割れたガラス、バスタブから水があふれるなどの演出がされ、まるで映画のワンシーンを見ているような、現実と虚構の間のような世界観が多くの人を魅了していた。
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■細尾
西陣織がイタリアで魅せた、シックでラグジュアリーな表情。

ディモーレスタジオとのコラボレーションで、もうひとつ印象的だったのが、京都の西陣織の老舗であるHOSOO(細尾)とのコラボレーション「Hemispheres Collection」だ。ミラノ在住のアーティスト、オザンナ・ヴィスコンティのアトリエが会場。キャストブロンズ製の家具やオブジェをつくる彼女の邸宅風のアトリエに、ディモーレとの共同で生まれたHOSOOのテキスタイルを使った家具が並んだ。

今回発表された33種のテキスタイルは、HOSOOの創業家で現当主でもある細尾家が代々受け継いできた帯の図案がデザインソースとなっている。これらの図案は長い時を経て受け継ぐため、あえて未着色で保管されていた。ディモーレは淡いグレージュ、セピア、スモーキーなブルーやグリーンなどの色を選び、何代にもわたって引き継がれてきた図案に、現代的で洗練された印象をもたらした。

西陣織を現代的に表現しようとすると、綺羅びやかな世界観が強調され、日本人ならば特に違和感を感じるような派手なものになってしまいがちだ。しかし今回はディモーレスタジオが得意とする、シックでラグジュアリー、どこかノスタルジーもある世界観と、西陣織がもつ華やかさが見事に調和されていた。また、オザンナは枝や花びらなど植物をモチーフに制作する作家で、花や竹などの植物をモチーフとする西陣織と共通する部分があったことも影響しているだろう。イタリアの観点から解釈された日本の伝統は、新たな境地を生み出していた。
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■マリメッコ
マリメッコが魅せる、ポップなベッドの世界観。

マリメッコで最も有名なプリントの「ウニッコ」は、2024年に誕生60周年。マリメッコはミラノデザインウィークに出展、ニューヨーク拠点のアーティスト、レイラ・ゴハーとコラボレーションし、「All the things we do in bed(ベッドでするすべてのこと)」と題したインスタレーションを開催した。

ミラノ最古の劇場、テアトロ・リッタが会場。会場には18枚のマットレスが並べられ、実際に「ベッドで過ごす」体験を楽しめるというものだ。これは兄弟や友人とマットレスを並べて作る「Siskonpeti(シスコンペティ、姉妹ベッド)」という北欧の習慣からインスパイアされたもの。ベットを彩るテキスタイルは、ウニッコのデザイナー、マイヤ・イソラの1960~70年代のカラーサンプルから選ばれたストライプ柄を現代的な色合いでリバイバルしたものだ。今年秋にはパジャマ、スリーピングマスク、寝具、食器、ダイアリー(日記)などが発売される予定だ。

ポップでカラフルな世界観が話題となり、瞬く間に長蛇の列ができていた。並んでいる途中には、フィンランドではお馴染みの細長いキャンディ(グミ)、ベッドで聴くためのオリジナルのスポティファイのプレイリストやポッドキャストまで提供されるというユニークな気配りも。プレイリストは、寝る前のリラックスな音楽かと思いきや、踊りたくなるようなダンスチューンの数々。映画を見たり、お菓子を食べたり、「寝る」だけにとどまらないベットルームのシーンをマリメッコらしく表現し、大きなインパクトを残した。
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■ノリタケ
話題のアルコバで、ノリタケとフェイ トゥーグッドの特別なコラボがお披露目。

2018年に設立された、デザインとものづくりの未来を探求するための国際的なプラットフォームALCOVA(アルコバ)。ここ数年のデザインウィークでは、歴史的建造物や廃工場、病院跡地など普段は入ることができない場所を会場に、さまざまな作家・デザイナーの作品を展示している。特別なロケーションと展示作品のクオリティが高いと話題になり、アクセスの悪い場所だが、近年、フォーリ(市内)での展示のなかで最も注目の場所となっている。今年は昨年に引き続き市内から電車で1時間半ほどのヴァレードで、4カ所にわたって展示を開催。日本を代表する磁器メーカー、ノリタケによる展示も行われ、ますます注目が集まっていることを感じさせた。

ノリタケは堀雄一郎をクリエイティブディレクターとして迎え、昨年11月から「ノリタケデザインコレクション」を展開。これはマーク・ニューソンなど世界で活躍するデザイナーを起用した新たなコレクションで、今回このアルコバの会場ではフェイ トゥーグッドによる限定の「ローズ」を中心に複数作品を発表した。

陶芸は土から手で形作られ、日常的に使われるものでありながら、持つ人にとってお守りのような意味が込められている、彫刻的で原始的な工芸だとフェイは捉えているという。「ローズ」は、ノリタケのアーカイブとフェイの自宅のイングリッシュガーデンからインスピレーションを得て制作された。自然そのものの美しさをシンプルに表現した水彩画風のバラのデザインは、デザイナー以前に「作り手」である彼女のパーソナルな部分も感じさせるコレクションと言えるだろう。
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■ラルフ ローレン
ラルフ ローレンは、アメリカ西部のスピリットがテーマのコレクション。

1983年にホームコレクションを発表し、40年以上にわたり、トラディショナルで上質な世界観を提示してきたラルフ ローレン。今年のデザインウィークでは、ミラノ本社の「パラッツォ ラルフ ローレン」での展示を開催。アメリカ・ハンプトンの別荘を思わせるラグジュアリーなスタイリングから、イギリスの邸宅まで多彩なスタイルの世界観を提案した。

なかでもアメリカ西部のスピリットを反映した2025年秋発売の「キャニオン ロード コレクション」に注目したい。ラルフ ローレンは「キャニオン ロード コレクションは、私が長年愛してやまないアメリカ西部の雄大な美しさ、ユニークな遺産、そして何世紀にもわたってその土地と伝統を守り続けてきた先住民族を表現しています。西部の最も本物の表現に命を吹き込むことは、これらの伝統を実践する職人たちと協力し、彼らのストーリーを世界と共有することを意味します」と語る。

ラルフ ローレンでは数年前からアーティスト イン レジデンス プログラムに取り組んでいる。2023年にはその一環の「ポロ ラルフ ローレン × ナイオミ・グラシズ」コレクションを発表。ナバホ族の織物アーティスト、ナイオミ・グラシズを迎え、伝統的なナバホの芸術性と文化を称える特別なコラボレーションを行った。今回はその第三弾で、ナバホ族の織物に使われる文化的シンボルを取り入れたファブリック、フロアカバー、装飾アクセサリーなどを展開している。更に同コレクションでは、オーク材や上質なレザーを使用したコンソールテーブル、ダイニングチェアなども発表。ワイルドになりすぎない、上質なクラフトマンシップを反映するインテリアが会場を魅了した。
text: Michiko Inoue