北欧・世界のインテリアのトレンドを知る、3days of designで気になったものは?
Interiors 2025.08.25
毎年6月にコペンハーゲンの街の各地で開催される、国際的なデザインイベント3days of design。北欧ブランドが中心となり最新作やコンセプトを発表するイベントで、ここ数年、ミラノデザインウィークと並び注目されているイベントだ。
普段見ることができないデザイナーたちの事務所が開放されたり、インテリアのブランドのショールームでは、コーヒーやパン、ワインも提供され、アットホームな雰囲気。今年のテーマは「KEEP IT REAL(リアルを大切に)」、人間らしさやリアルな体験を称賛し、個々の表現や共感を重視することをテーマに掲げた。
「ミラノ化」が止まらない、世界から注目されるデザインイベント
どちらも「アザーサークル」の展示作品。左、中央:デンマークの人気デザインブランド「ボリア」とチャーリー・ロバーツのコラボ。ソファに座る人までが木彫でつくられたユニークな作品。 右:ベルギーのデザインデュオュラー・ヴァン・セーヴェレンとBD Barcelonaのコラボによるキャビネット。
コロナ禍以前から、ミラノデザインウィークは出展作品も多く来場者も多すぎてゆっくりと見られないといった問題を抱えており、数年前からヴィトラや北欧のブランドはあえてミラノに出展せずこの3daysで新作を発表している。
しかし、ついに今年はイタリアの老舗ブランドモルテーニまでもが3daysに出展。さらに街の中心部から離れた場所に「アザーサークル」という大規模な展示会場も誕生。デザイン・アート・食・などさまざまなジャンルの企業・アーティストが出展する会場だ。作品のクオリティも高く、加熱する中心地を避けた立地、まるでミラノデザインウィークの「アルコヴァ」のコペンハーゲン版とも言える。3daysが着実に「ミラノ化」していることは確かだ。
一大イベントへと成長した3days of design。今年の来場者数は4万5000人と言われているが、入場登録が不要なためこれ以上の数である可能性が高い。そんな注目のイベントから、「3days らしさ」「今年らしさ」を感じた5つの展示を紹介。
北欧ブランドの定番となったHAY、リバイバルされた名作に注目
左、右:アメリカ・ニューヨーク出身のアーティスト、イラストレーターのエマ・コールマン。店内のガラスには彼女のペンディングが施された。
HAYは、コペンハーゲン中心部の旗艦店「HAY House」で新作がお披露目。営業中の店内での展示ということもあり、多くの人で賑わう場所となっていた。店内を鮮やかに彩ったのが、アメリカ人のアーティスト、エマ・コールマンと共作したテーブルウェアコレクション「La Pittura(ラ・ピットゥーラ)」。La Pitturaはイタリア語で「ペインティング」を意味する。彼女のルーツや歴史的な陶器、自然がインスピレーション源で、有機的なフォルムとカラフルな陶器を展開した。
左:背面のデザインに注目したいソファ。 右:会場では写真ようにスタッキングするプレゼンテーションも。
これまで名作の復刻を発売してきたHAYだが、今回もいくつかの復刻版が登場。なかでも話題だったのが、イタリア人の巨匠、マリオ・ベリーニの1960年代の名作ソファ「アマンタAmanta」の復刻版だ。こちらはC&B Italia(後ののB&B Italia)から発売、MOMAのパーマネントコレクションにも登録されている名作で、モジュラーソファの先駆けであり背面が彫刻的な曲線を描くdesign。近年再注目されてているレトロなロースタイル(低めのフォルム)のソファだ。HAY版では、99%リサイクルABS樹脂のシェル・94%バイオマス由来のフォームなど、サステナブルな素材にアップデートされた。
左、右:アウトドアでも使えるので、「とりあえず一脚」買ってもでも後悔しないアイテム。
また、もうひとつ復刻版で紹介したいのが、デンマーク人デザイナーのニールス・ヨルゲン・ハウゲセンが1977年にデザインしたスチールチェア「Xラインチェア」。以前はMagnus Olesen社が生産し、70年代の"ハイテク・ムーブメント"を象徴する一脚だ。極細の金属ワイヤーで10脚もスタッキングすることができ、インドアでもアウトドアでも使える。今回、グリーン、ブルー系など新たなカラーバリエーションが追加された。1960〜70年代のデザインが再注目されていることを実感。
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90年代リバイバルも感じさせる「リアル」なスタイリングが話題に
左、右:朝には朝食風景、夜には即席バーを屋外に設けるなど、時間や気分によって少しずつ内容を変えていた。
リバイバルと言えば、もうひとつ注目したい展示がある。口コミで話題となった展示のひとつが、イギリス人のビジュアルアーティストでアートディレクターのシャーロット・テイラーの展示だ。彼女はロンドンやコペンハーゲンを拠点に活動しており、今回はコペンハーゲン中心地のヌーラ・レジデンシーアパートメントで、「Home from Home」を開催した。
会場は3層のメゾネットで、キッチン、バスルーム、ベッドルーム、さらにワークスペースがある空間。料理に失敗し丸焦げになったクッキー、脱ぎっぱなしの服など、まるで誰かが住んでいるかのような生活感あふれるインスタレーションを展開。実際に彼女自ら会場で生活しながらキュレーションしており、40名以上のデザイナーやブランドによる家具・オブジェ・アート作品を取り入れている。
左、右:ごちゃごちゃ感があるのにクールに見える不思議な展示。
会場にはR&BやHIPHOPが流れ、クロスワードや、手書きのカレンダーなど、ひと昔前の90年代〜2000年代初めの雰囲気を感じさせる。吸い差しのタバコや刺さったナイフなど、独特の毒気とユーモアもあるディテールも楽しめた。シンプルかつ洗練された北欧のインテリアとは一線を画し、まさに3daysのテーマ「KEEP IT REAL」な展示だった。
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韓国人デザイナーによる、キュレーションの妙
左:アジアからヨーロッパ、さまざまなデザイナーの作品を一堂に展示。右:パンとバターのような「完璧な組み合わせ」とは?
シャーロット・テイラーの会場の向かい、韓国料理店の「オウリ」で行われていた展示も口コミで話題になったもののひとつだ。ベルリンを拠点とする韓国人デザイナー「Ae オフィス 」のふたりと、デザイナーのピョリ・ジョンが企画した展示だ。
タイトルは「ブレッド&バター」。パンとバターのような「完璧な組み合わせ」を、世界各国の12組のデザイナーが提案している。ボウル&トレイ、カップ&ソーサー、ワインホルダー&トレイ、重ねて保管できるボウルや収納ボックスなど、多様なダイニングオブジェクトが発表された。
左:韓国とオランダを拠点に活動するオブジェクトデザイナー、ハン・リーの「バランスカップ」(バランスするカップ&ソーサー) 右:韓国出身の工業・プロダクトデザイナーキヒョン・キムのスツール。
あえて作品は大テーブルに置いていて、その配置の仕方がまさに絶妙。異なる作家が生み出し、かたちも素材もさまざまだが、まるで年齢も国籍も違う人たちがひとつのテーブルで食事を楽しんでいるような、不思議な一体感のある展示だった。今後はソウルなど他都市でもこの試みを展開する予定だという。
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ロイヤルコペンハーゲンは、250年続く伝統を現代にアップデート。
左:新作「コントゥール」は日本でも発売中。「海の静かな力」や「水のリズム」からインスピレーションを得てデザインされたアイテム。 右:限定で発売されたミニチュアサイズの1点物のミニプレートは行列ができていたほど人気に。
今年ブランド創業250周年を迎えたロイヤルコペンハーゲンは、ブランドの原点ともいえる「フローラダニカ」の貴重なアーカイブから、最新作「コントゥール」までを展示した。インテリアのみならず、老舗ブランドはリブランディングや現代にあわせたプレゼンテーションが課題だ。その点、ロイヤルコペンハーゲンは現代の感覚を上手くキャッチアップし成功したブランドとも言えるだろう。
左:貴重な石膏型も展示。 中央:ブルフルーテッドの絵付けの様子を見学できる。 右:店内には新作「コントゥール」から生まれた巨大なモニュメントが登場。
クリエイティブ・ディレクターのヤスパー・トロン・ニールセンは、「この展示はロイヤル コペンハーゲンのクラフツマンシップへのオマージュであり、250年の歴史を旅するような体験を提供します。受け継がれた伝統技術が今なお大切に守られる一方で、新たなイノベーションも紹介し、磁器という素材の可能性を再定義している」と語っている。
単に製品を見せるだけでなく、制作のスケッチから道具、造形、絵付けまでを店内で表現。ブランドの顔とも言えるブルーフルーテッドは、現在も職人が手作業で絵付けすることで知られており、店内ではその熟練の職人技を間近で見れるプレゼンテーションを開催。さらに絵付けを体験できるワークショップも開催され、多くの人で賑わっていた。
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サウナまで登場! 3daysらしさを感じたフィンランドデザイン
フィンランドの4つのブランドが合同出展。木工家具の「メイドバイチョイス」ガラス製家具の「エッシス・バイ・ラシリンッキ」、テキスタイルブランドの「フィンアルテ」、サウナメーカーの「アイトサウナ」の4社だ。
3dayではショールームでコーヒーが提供されたり、座ってワインを楽しんだりと「おもてなし」も手厚く、訪れる人もホストも楽しむ文化祭のような雰囲気がある。そんなリラックスした雰囲気を特に感じたのが、展示「The Made by Choice Sailing Society」だ。
フィンランドのブランドが行う合同の展示で、コペンハーゲンのクリスチャンスハウン地区桟橋、オイスターレストランの隣の屋外が会場だった。そこに実際に入ることができるサウナまで登場。水着を持参すればサウナに入り目の前の海に飛び込むこともできるというものだった。
左:フィンアルテのラグにメイドバイチョイスの家具の組み合わせはピッタリ。 右:奥にはアイトのホームサウナも。
ちょうど会期は夏至の前ということもあり、本場フィンランド流の「ミッドサマーサウナ」を味わってもらおうという企画だ。本格的なサウナもさることながら、注目したいのが「フィンアルテ」だ。
フィンアルテは1985 年に設立されたテキスタイルブランド。フィンランドの伝統的な織物「ラグラグ(ryijy)」の技法を使い、大胆かつカラフルなデザインが特徴。環境配慮にこだわり、リサイクル素材を使った鮮やかなラグやテキスタイルを展開している。若手デザイナーや地元アーティストとのコラボレーションも積極的に行っているそうだ。現在は創業者の娘 ラリッサ・イモネンが代表を務めている。会場では40周年記念のアニバーサリーコレクションや、新作が発表されていた。
3日間という短期間で、老舗ブランドから若手まで揃った3days of design。来年も、初夏の6月に、リラックスしたアットホームな雰囲気でデザインのトレンドを発信し続けていくだろう。
text:Michiko Inoue