ウイルスと闘う世界のいま。#16 不安な日々を明るく照らす、ファッションの力。
Travel 2020.05.08
文・坂本みゆき(在イギリスライター)
イギリスでは新型コロナウイルスによって命を落とした人の総数が、イタリアを抜いてヨーロッパで最大最悪となってしまいました。
新たな感染者や1日に亡くなる方の数は、減ったと思えばその次の日には激増したり。政府はピークは越えただろうと言っているもののその実感はまったくありません。終わりはいまだに見えず。むしろまだまだ続くのだろうというのが、暗澹たるものの率直な気持ちです。
そんななか、心にぽっと明かりを灯してくれるのが「ファッション」のニュースです。
まずはマスク。たかがマスクと侮るなかれ。マスクが珍しいイギリスでは、いまちょっとした「トレンドアイテム」になっているのです。
日本では言うまでもなくウイルスの流行以前から多くの人にとって日常的な品でしたが、イギリスでは季節を問わずこれまで街で見かけることはほとんどありませんでした(している人がいてもアジア人に限られていました)。
それは、マスクは医療従者や患者がするもので、健康な人が外出時に着けるものではないという考えが浸透していたからだと思います。ウイルスの感染が爆発的に広まった3月から4月初めにかけても、着けている人は私の住む町では1割程度。
しかし他のヨーロッパのいくつかの国で先駆けて義務付けられたり奨励されたりするのを受けるようにして、イギリスではまずは4月下旬にロンドン市長サディク・カーンが「感染を広げないためにもマスク着用をしてほしい」と発言。その後、ボリス・ジョンソン首相が「マスクは疫学的にも、人々がオフィスに戻る時にも役に立つはず」として、一気に脚光が当たるように。
極小のコロナウイルスは医療用でない限りマスクの布の繊維を通り抜けてしまうので、予防では役にたたないとも言われています。しかし感染した人が着用の場合には、くしゃみなどでウイルスの拡散を防ぐ可能性は高まるとも。無症状のまま保菌していることを知らずに外出してしまった場合、他人に移してしまうことは減ると考えて良いようです。
日本でもおなじみの使い捨てのものを使っている人も多いのですが「こだわっている」人もちらほら。
心地よいリラックスしたスタイルを提案し、かつてメーガン妃が着用していたことでも話題となったロンドン発のブランド「ラベンダーヒル・クロージング」はコットンのマスクをネットで販売。ひとつ売れるごとに、ヘルプが必要な女性や子どもたちのためのチャリティに同じマスクを寄付しています。
コットン100%の生地を3層に重ねて肌触りよく仕上げたマスク。人気沸騰で売り切れが続き、現在は予約販売となっている。3つセットでポーチに入って20ポンド。
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ロンドン・ファッションウィークでも人気のデザイナー、クリストファー・ケーンは、過去のコレクションで使ったカラフルなファブリックと黒いシックなリボンを組み合わせた「手作りマスクキット」をインスタグラムで告知して希望者に配布。現在は終了していますが、マスクのパターンはダウンロードできるようになっています。手作りマスクがまだまだ一般的ではないイギリスでこれはとても役立つ情報!
長めのリボンは耳の後ろや後頭部で結んでアクセントに。遊び心あふれたマスクはファッションの楽しさを思い起こさせてくれるよう。
そのうちロックダウンが解除された暁には、クールなマスク姿を集めた「マスクファッション・スナップ」ができるかも(笑)。もちろんソーシャルディスタンシングに気をつけながら。
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また、ロンドンの老舗セレクトショップ「ブラウンズ」は、英国ファッション協会とのコラボレーションで「ア・ファミリー・アフェア」という記事をネットに掲載。12人の若手デザイナーをチョイスして、彼らのデザインのルーツや影響を受けたものなどを自由に紹介してもらっています。
「Alighieri Jewellery」のデザイナー、Rosh Mahtaniは、彼女の24時間を通してインスピレーション源を映像で公開。ドリーミーな世界が広がる。
その内容はインタビューやお気に入りのプレイリストから、おばあちゃん直伝の料理レシピまで。デザイナーたちの素顔を垣間見られると同時に、いろいろなルーツ、テイストがあって多様性にあふれた様は、まさにロンドンそのもの。そして画面から伝わってくる若い活力はまるでビタミン剤のよう。元気を授けてくれます。
まだまだ不安が続く日々。それでもなんとかやり過ごし、お互いに助け合っていこう!という声がファッションの現場から聞こえてくるようです。
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texte : MIYUKI SAKAMOTO, title photo : alamy/amanaimages