アール・ドゥ・ヴィーヴルを感じる、ジヴェルニー近郊の隠れ家ホテル。

Travel 2022.02.19

18世紀末に建てられたその小さな城の持ち主は、カトリーヌ・ドヌーヴだった。ジヴェルニー郊外にある陽光降り注ぐ庭と美しいインテリアの邸宅は、40室だけの心地いいシックなホテルとして、新しいスタートを切った。

220112-domaine-de-primard-001.jpg
ウール川を望むメゾンのキッチンスペースの壁にはジアンのヴィンテージ皿が飾られており、個室としての利用も可能。食卓のプレゼンテーションもたいそう美しい。

ジヴェルニーから車で30分、ウール渓谷にシャトー・プリマールはある。前の持ち主は、フランスの名優カトリーヌ・ドヌーヴ。是枝裕和監督作『真実』(2019年)でも、美しい邸宅に暮らす大女優として、フランスのアール・ドゥ・ヴィーヴルの景色になじんでいた。映画の中に登場した落ち着きのある重厚なインテリアとは異なり、彼女が35年間にわたって愛したこのシャトーは光が眩い緑と水辺に抱かれた場所。40ヘクタールの敷地に川が流れ、川沿いに18世紀末に建てられたディレクトワール様式(ルイ16世からナポレオン時代への短い間に流行した繊細でシンプルな装飾様式)の建物が佇む。シャトーの周囲には庭園、その先にはお伽噺に出てくるような森が広がる。

220112-domaine-de-primard-02.jpg
シャトー・プリマールはウール川のほとりに建つ。

シャトー・プリマールは、フレデリック・ビウスとギヨーム・フシェのふたりが起業したレ・ドメーヌ・ドゥ・フォンテニール・ホテルグループによって、生まれ変わった。このホテルグループは、たった5年で特筆すべき再生ホテルを世に送り出し話題となっていて、シャトー・プリマールが6番目となる。

レ・ドメーヌ・ドゥ・フォンテニールは、投資した古い建物が持つ歴史や構造を生かし、環境に配慮しながら、現代の生活に合うようにここをリニューアルした。庭園は、パリのカルーゼル・デュ・ルーヴル庭園などで知られるベルギーの著名な造園家ジャック・ヴィルツが、ドヌーヴの依頼で35年前に造った。クマシデの生垣にツゲのトピアリー、ホテルの建物に辿り着くまでに迷ってしまいそうな小路には、いまも造園家のこだわりが残る。ヴィルツは建物周辺の庭を十全に作り込んだうえで、周囲の自然と調和させることを好んだ。自然を模した庭園はだんだんと野性的な木立に変わり、やがて森に溶け込む。ウール川のほとりにいたると、見事なまでの無造作な自然の風景が広がる。そのために、庭師もずっとここを手がけてきた人物を作業監督に指名したほどだ。

220112-domaine-de-primard-04.jpg
バラの温室に設けられたティーサロン。プリマール庭園の責任者であるジェラール・ジェルメーヌにガーデニングを、妻のシルヴィにブーケ作りを習う教室も開催する。
220112-domaine-de-primard-07.jpg
川を見下ろす小さな橋。

---fadeinpager---

18世紀の建物の修復は、南フランスでこのような古い邸宅や城の改修で評判が高い建築家アレクサンドル&セリーヌ・ラフルカドが手がけた。室内装飾はサンローランの店舗デザインなども担当した経験を持つベリル・ルラスール。庭園同様に建物も歴史を尊重し、部屋のレイアウトや暖炉、床、木工品、バスタブなどにまで18世紀の建築様式の特徴を残し、戸外との調和にこだわった。花柄の壁紙のエレガントなサロン、陶製カタツムリ、暖炉や窓辺にはヒヨドリの置物、そしてリビングルームの壁には欧米の薬局ではおなじみのアンティークオブジェである石膏のキノコ。家具はフレンチメイドを厳選した。

220112-domaine-de-primard-05.jpg
フランス製にこだわった内装。ローテーブルや丸テーブルはシャロル製陶、カーテンやアームチェア、壁紙はピエール・フレイ、食器類はジアンとジャン・ルイ・コケ。
220112-domaine-de-primard-03.jpg
客室の色調はグリーン、スカイブルー、ペールピンク、そしてエクリュ。吊り下げ照明器具はイタリアの陶芸家パオラ・パロネットの作品。

---fadeinpager---

全体的に牧歌的な雰囲気が漂う中、18世紀の版画が現代アート作品や肖像画、新古典主義の絵画とミックスされている点には独自のセンスがあり、さりげなくリュクスで、フレンチシックな雰囲気に包まれている。敷地内のビストロやレストランのメニューは、パリのホテル、ル・ブリストル内のエピキュールの3ッ星シェフ、エリック・フレションが考案。テロワールを感じさせることをモットーとして、肉の串焼き、ノルマンディ近海の魚介類、パーマカルチャー菜園で採れた新鮮な季節の野菜など、地元の食材をふんだんに使った素材重視の盛りだくさんな料理だ。

「ウール川を望むメゾン」と命名されたシャトー棟、「湖のメゾン」という農家棟、スパが併設された納屋棟、そして果樹園のメゾン棟……。40室だけのプチリュクスなホテルはオープンしてすぐに評判となり、ハイエンドな人たちの人気の滞在先となっている。フレデリックとギヨームは、今後2年以内にサン=レミ=ドゥ=プロヴァンスとイタリアのキャンティ地方に新しいホテルのオープンを計画しているそう。人々を癒すこんなヴァカンスリゾートが、ヨーロッパにじわじわと増えていくことが楽しみだ。

220112-domaine-de-primard-06.jpg
レストランは温室をイメージした空間。料理メニューの考案は星付きシェフのエリック・フレション。フレションのチームによる料理教室もある。
220112-domaine-de-primard-08.jpg
アウトドア家具はテクトナとフェルモブ。プールからはシャトーや、ジャック・ヴィルツが設計した庭園が見える。
---fadeinpager---
220112-domaine-de-primard-09.jpg
動物は敷地内を自由に行き来している。※ここでの滞在は、ほかにもさまざまな楽しみ方がある。スパ棟ではアルプスの植物を使ったトリートメントやマッサージが受けられるオーストリア発信のスパ、スザンヌ・カウフマンでリラクゼーションも。城の脇にある浮桟橋に設置されたバー・ヴーヴ・クリコでシャンパンを愉しんだり、庭園内にはワインセラーもある。自転車や乗馬、ボート、カヌーなどでウール渓谷の散策や、近隣のジヴェルニーでモネの家に訪れたりやアネ城も見学できる。ロベール・エルサン・ゴルフ場もほど近い。

220112-domaine-de-primard-10.jpg

Guillaume Foucher & Frédéric Biousse
ギヨーム・フシェ & フレデリック・ビウス


ギヨームは仏国立美術館で経験を積み、2009年、絵画から彫刻、写真までの現代クリエイションを扱うラ・ギャルリ・パルティキュリエールを設立。フレデリックは、カルティエ、コントワー・デ・コトニエ社長を経て、15年までSMCP 社を経営。エクスペリエンスドゥ・キャピタル社の共同創始者として現在もモード界で活動している。14年にふたりはホテル業に進出、レ・ドメーヌ・ドゥ・フォンテニールを立ち上げた。現在ヨーロッパに7つのホテルをオープンしている。
www.lesdomainesdefontenille.com
Domaine de Primard
route Départementale 16, 28260 Guainville
tel:02-36-58-10-08
全40室 
reservations@domainedeprimard.com

*「フィガロジャポン」2022年2月号より抜粋

photography: Gaëlle Le Boulicaut (Madame Figaro) text: Marie-Sophie N’Diaye (Madame Figaro)

Share:
  • Twitter
  • Facebook
  • Pinterest

いいモノ語り
パリシティガイド
Business with Attitude
フィガロワインクラブ
BRAND SPECIAL
Ranking
Find More Stories