Nature Retreat|自然に帰る旅。 尾道の絶景とグルメを堪能する、瀬戸田の旅へ!
Travel 2022.04.29
穏やかな海と山を擁し、レモンをはじめ柑橘類が豊富な瀬戸内。昨年、生口島に注目の宿アズミセトダが開業。土地の歴史を受け継ぐ宿を拠点に、生口島、向島、大三島の恩恵を満喫したい。
アズミセトダから徒歩15分ほどの向上寺は聖観世音菩薩を本尊とし、1400(応年7)年頃開かれた臨済宗の寺。潮音山公園の展望台からは、国宝の三重塔とともに瀬戸内の海と瀬戸田の町を一望できる。向上寺での禅体験アクティビティも。
【広島県】生口島・向島
広島県尾道市の町、生口島の瀬戸田。温暖な気候と透明度の高い穏やかな海に囲まれたこの町は、かつて塩田業が盛んで内海航路の重要拠点としても賑わっていた。日本一と言われるレモンの産地で傾斜地にはたくさんのレモンの木が立ち並び、その他ミカンなど多くの柑橘がすくすくと育つ。2021年3月にアズミセトダが開業し、瀬戸田の町は歴史を受け継ぎながら新たな道を歩み始めた。
尾道市瀬戸田に立つアズミセトダは、築約140年の建物を受け継ぎ現代に蘇らせた宿。製塩業を営んでいた堀内家の邸宅で、数寄屋造りに基づき風の抜けや光など自然を生かす建築に仕上げた。入ってすぐのレセプションの壁は、深みのある群青のような漆喰が印象的。
アマンをはじめ数々のホテルを世界各地で手がけたホテリエ、エイドリアン・ゼッカによる“日本旅館”は、瀬戸田港の近く、築約140年の堀内邸を譲り受け再生した宿。少し歩けば海はすぐそこ、軽やかな潮風が感じられる。宿の前の通りは瀬戸田港から耕三寺へ続くしおまち商店街で、古きよき風情を醸す。町の人たちが集う場所にあるから、瀬戸田の暮らしと触れ合える──だからこそここに宿を構えた。
部屋に入ると、坪庭が目の先に。雪見障子で庭の植物を楽しめる。木をふんだんに使った室内にはほのかな木の香りが漂い、なんとも清々しい。
ダイニング脇、中庭に面した渡り廊下。庭に立つ鞠垣(古の時代、蹴鞠をする庭の周りにめぐらせた竹垣のこと)から差し込む光が柔らかく館を照らす。
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製塩業と海運業を営んでいた堀内家の邸宅は1876年に建てられたが、京都の大工をはじめ腕利きの職人が手がけたためしっかりとした造りで、改修の際、大きな梁はそのまま残し、外の木柵も当時のもの。中庭には見事な鞠垣を配し、光と風を心地よく通し、桜、紅葉、柳、松が季節を描く。この宿にいるだけで、瀬戸田の四季をさまざまに感じることができる。
バスルームは障子で寝室と仕切られる。洗面台は2台。アメニティはホテルオリジナル。家具は地元の職人が作っているものが多く、素朴な美しさ。
部屋の窓際にある檜風呂。シャワースペースと湯船が分かれ、広さも十分。坪庭を眺めながら至福のひとときを。
ダイニングから庭を望む。部屋、ダイニング、東屋を繋ぐ動線は、一日の光の移ろいを感じられる心地いい場所。
銭湯ユブネの壁画はミヤケマイが手がけた。
吉野の檜と、柱に杉を使った客室は木のぬくもりであふれ、雪見障子から覗く坪庭は一幅の絵画のよう。部屋にある檜風呂に浸かるのもいいが、宿向かいにある銭湯ユブネで寛ぐのもおすすめだ。館内には数寄屋造りの東屋もあり、多目的に使用可能。壁は唐紙、扉には板絵。改修を手がけた建築家・三浦史朗が、エイドリアン・ゼッカの書斎がここにあったなら……と思いを馳せて造ったという。
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“絢爛な寺社を抜け、大理石の丘から見下ろす瀬戸田の町と青い海”
宿のダイニングは天井が吹き抜けで、大きな梁を生かしたデザイン。飾り窓を配し、昼から夜にかけて室内の趣を変えてゆく。日が落ちると仄暗い照明があたりを優しく照らし、あたたかな空気の中、横田シェフの料理をいただく至福のディナータイムへと。魚は宮窪漁港と草津港から、野菜とイノシシは大三島、今治の貝、瀬戸田の柑橘など、シェフ厳選の食材が約8〜9皿のコースで楽しめる。宿で食事をいただくのもいいが、ソイルセトダの食堂ミナトヤもおすすめ。モーニング、ランチ、ディナーがあり、カフェ利用もできるので、気軽にコーヒーを飲みに立ち寄りたい。スタッフや旅人との交流も楽しめるスポットだ。
8〜9皿のディナーコース(宿泊料に含む。外来利用は¥16,500)から。「マナガツオと蕪」。アサリが絡み、魚介と野菜の旨味がぎゅっと詰まったソースが絶品。
「タコのタコス」。適正温度で火入れしたタコは、バターで味付けたジャガイモのペーストと一緒に。手に持ってかぶりつくのがおすすめ。嚙み切れるやわらかさ!
朝食(宿泊者のみ)のお膳は、平飼いの温泉卵、太刀魚の煮付け、牛のしぐれ煮、キクイモ・コンニャク・シイタケの煮物、タコの煮物、梅干し、魚のアラ出汁と麦味噌の味噌汁、白飯。
ディナー時には、横田悠一シェフがダイニングに出て料理の仕上げをしてくれる。
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天気がよければ、散歩に出かけよう。向上寺のある潮音山公園の展望台で絶景を堪能したら、しおまち商店街を歩いて耕三寺へ。浄土真宗本願寺派の耕三寺には、国登録有形文化財の堂塔が立ち並ぶ。奈良・平安時代の浄土教の寺院をオマージュし建てられた堂塔伽藍は、繧繝(うんげん)模様や丹色(にいろ)を採用し、豪華絢爛な姿で魅了する。境内には四季を彩る花々が情趣を添え、幽玄な世界が広がる。耕三寺を抜けて奥へ進めば、大理石の庭園、未来心の丘。真っ白な大理石の彫刻と、青い空、青い海が描く風景は、見たこともない不思議な世界。
耕三寺境内裏手にある未来心の丘。5000㎡もの大理石の庭園から望むのは、壮大な白と青のコントラスト。向かい側右手には高根島が。異国情緒あふれる大理石の庭園は、広島県出身の彫刻家、抗谷一東が手がけた。膨大な量の大理石は、抗谷がアトリエを構えるイタリアから採掘し運んだ。抗谷は、周りの風景や、風、雨、光などここにある自然と対話し彫刻を創造したという。てっぺんにそびえ立つ「光明の塔」は、「“日天”が放つ光(希望)の塔」とされている。
耕三寺は浄土真宗本願寺派の寺院。境内にある21の建築のうち、15もの建物が国登録有形文化財だ。技術者・実業家の耕三寺耕三が母親への感謝を込めて僧籍に入り建立し、檀家を持たず、博物館として町の人々に親しまれている。敷地内には桜、百日紅、ツツジ、紅葉、紫陽花など四季折々の木々や花々が育ち、美しい風景を描く。国登録有形文化財のひとつである本堂は、京都の宇治平等院鳳凰堂を原型として建立。極彩色を施し、威風堂々とそびえ立つ。
圧倒的な存在感の孝養門。日光東照宮陽明門を基に作られた。
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大三島へ渡る前に、訪れたい場所がある。島をふたつ戻って向島へ。向島町立花にあるナギは、深煎りのコーヒーと季節のお菓子を楽しめるカフェ。コーヒーを淹れる穏やかな音が響く一軒家には、木漏れ日が優しく差し込み、窓の外には凪いだ海が広がる。ここで過ごす時間は、しまなみの旅のかけがえのない記憶となるだろう。生口島へ戻り、レモン谷に立ち寄ってから、「神の島」大三島へ。
生口島の絶景スポット、レモン谷は、大三島へ渡る多々羅大橋の手前に位置する。そこに畑を持つれもんだに のうえんは、約40年前から自然農法で極上のレモンや柑橘を育てている。アズミセトダでは、この農園を訪れてレモンについて学べるアクティビティも開催している。
Azumi Setoda
広島県尾道市瀬戸田町瀬戸田269
tel:0845-23-7911 全22室 全室バスタブ付き
1名約¥82,000~(2食付き)
https://azumi.co/setoda
耕三寺博物館(潮聲山 耕三寺/ 未来心の丘)
Kousanji Museum (Kousanji Temple / The Hill of Hope)
広島県尾道市瀬戸田町瀬戸田553-2
tel:0845-27-0800
開)9:00~17:00 ※潮聲閣のみ10:00~16:00
無休
料:一般¥1,400 ※潮聲閣は追加¥200
www.kousanji.or.jp
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生口島で朝食を楽しみ、因島を越え、向島の隠れ家カフェへ。
ソイルセトダ|SOIL SETODA
瀬戸田港の目と鼻の先の海辺に立つソイルセトダは、宿、食堂、コーヒーロースター、雑貨屋等を擁する複合施設。港の食堂ミナトヤは、地元の農家や漁師から食材を仕入れ、薪火で仕上げた料理が特徴。ランチでいただける新鮮なタイを使った「鯛茶漬け」は、日ごとに替わる柑橘を使った出汁と合わせたフレッシュな味。朝昼晩、通いたい食堂だ。
全面ガラス張りで景色を楽しみながら食事をいただける。
モーニングの「自家製ベーグル、レモンポークのローストハム、焦がしレモンドレのグリーンサラダ、季節野菜とクリームチーズのペースト」¥800。肉厚なポークは食べごたえあり。
お菓子も販売。「自家製フィナンシェ」¥300
広島県尾道市瀬戸田町瀬戸田254-2
tel:0845-25-6511
ミナトヤ|MINATOYA
営)8:30~16:00L.O.(月、火) 8:30~16:00L.O.、18:00~20:30L.O.(木~日)
※モーニング:8:30~10:30L.O.、ランチ:12:00~14:00L.O.
休)水
https://soilis.co/locations/setoda
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ナギ|nagi
尾道市の向島に、なんとも心地いい場所がある。東京から移住してきた夫婦が営むカフェは、高台に立つ平家の古民家を改装し、窓から瀬戸内の海と因島を望むゆったりとした空間だ。店主が焙煎した深煎りのコーヒーと、地域で採れる食材を月ごとに選んで作られるお菓子が、穏やかな時間の流れとともに、五感を癒してゆく。
「場そのものを作りたかった」という店主が集めたアンティークの家具やインテリアが並ぶ。窓の外には桜の木。春にはガラスで抜いた屋根もピンクに染まる。
店主は深煎りにこだわる。ネルドリップでじっくりと。道具の佇まいも美しい。2杯目からは¥500に。
古道具や作家のうつわもこの空間のインテリア。
季節菓子3種とコーヒーのセットで¥3,000。「苺と熟成バルサミコ酢」。コーヒーは「朝凪」「夕凪」など約9種からセレクト。土日月の3日間、3回の時間に分けて各限定3組の完全予約制。
●ホテルの宿泊料金、滞在プランは、客室タイプ、時季、サービス内容で異なるため、予約時にご確認ください。
●ホテルによって、別途サービス料や宿泊税、入湯税などがかかる場合があります。
●掲載店や施設の営業時間、定休日、価格、料理などは、取材時から変更になる可能性があります。
●取材・撮影時はコロナ対策に十分配慮し、換気に注意のうえ少人数で行っています。
●写真でマスクを外している場合がありますが、通常スタッフはマスク着用のうえ感染対策を行っています。
*「フィガロジャポン」2022年5月号より抜粋
photography: Mitsugu Uehara