Nature Retreat|自然に帰る旅。 大地の恵みを丸ごと味わう、雲仙岳のおいしい旅。

Travel 2022.05.03

白い雲を纏って、悠然とそびえる雲仙岳。この活火山は日本有数の温泉をもたらし、豊穣な土と清らかな水が、おいしい野菜を育む。なかでも、この地に根ざした在来種野菜は格別だ。島原半島北部を巡り、目と舌で雲仙の恵みを味わおう。


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春は菜の花やウンゼンツツジ、夏はヤマボウシ、秋は紅葉が彩りを添え、冬は霧氷の幻想的な世界と、四季折々の表情を見せる雲仙岳。1990年の噴火で警戒区域に指定されていたが、2015年に新登山道が開通した。

【長崎県】雲仙 前編

長崎県の半島群のうち南東に位置し、有明海に突き出る形の島原半島。北部を巡れば、青い海を背景に走る黄色の島原鉄道と、野菜畑やミカンの木、景色が織りなすカラーパレットが眩しい。中央にそびえる雲仙岳頂上部の普賢岳が、白い雲に隠れたと思えば、すぐに顔を出す。雲仙岳は、半島北部のどこからも望むことができる方位磁針的な存在だ。晴れた日は、雲仙岳を指針にドライブへ。苔生した木々と岩が神秘的な岩戸神社など、中腹に点在する自然豊かな風景も見逃せない。そして活火山である雲仙岳の麓は、昔は“温泉”と書いて“うんぜん”と読んでいたほどの温泉郷。橘湾に沈む夕日が美しいレトロな町並みの小浜、外国人避暑地として栄えた情緒的な雲仙、水路が張り巡らされた城下町の島原と、西から東へ、独自の魅力を持つ3つの温泉地を訪れたい。そこかしこで源泉が湧き、白く熱い湯けむりがたなびく様は大地の力強さを感じる。一方で、おいしい湧水もこんこんと流れ出し、町の人たちに親しまれている。

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島原半島の北部を有明海沿いに走る島原鉄道。列車の本数は1時間に1~2本。なかでも、古部駅はすぐ後ろに諫早湾が迫る見晴らしのよさで、車窓からも美しい景観を望める。

海と山に囲まれた島原半島は食の宝庫だ。カサゴやワタリガニをはじめ、日々、有明海で新鮮な魚が収穫される。雲仙岳がもたらす火山性の土壌はミネラル豊富で、野菜の栽培にも最適。清らかな湧水や温暖な気候も相まって、イチゴやジャガイモ、タマネギ、アスパラガスなどの名産地に。雲仙岳の麓で40年間、在来種野菜を守り続ける伝説的な農家の存在も、いま雲仙野菜の魅力を世に知らしめていると言えるだろう。

島原半島は町ごとの個性が豊かだと、みんな口を揃えるが、知れば知るほど魅力は尽きない。近年は、島原半島の玄関口である諫早市や江戸期の面影が強く残る神代小路に一棟貸し宿が登場し、ゆったりと滞在できるアドレスも増えた。西の橘湾から、雲仙岳を回って東の有明海へ。雲仙を巡る旅は、豊かな大地の恩恵に気づかせてくれる。

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岩戸神社の氷柱に包まれた木の枝や苔の美しさに目を見張る。奥の洞窟はひんやりとした空気が漂うが、氷柱から水が滴る様は春の息吹を感じさせる。

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岩戸神社|Iwado Shrine

雲仙温泉から車で約20分、雲仙岳の北側の森の中。樹齢300年を超える檜や杉の巨木と苔生した岩に囲まれた参道を進み、急な石段を上がると、うっそうとした緑に包まれた神殿が現れる。この奥の高さ35mもの洞窟が御神体であり、縄文時代の住居跡とも言われている。冬の間に氷柱となった木の枝や苔から水が滴り、静寂な森に響き渡る水音。自然の神秘的なエネルギーに圧倒される。

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深い緑に囲まれ、巨岩の前に佇む神殿。古くから、「岩戸さん」の愛称で地元の人々に親しまれてきた。

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樹齢300年を超える巨木が生えた森。太い幹から四方に伸びた力強い枝を苔が覆い隠し、時の流れを感じさせる。

岩戸神社|Iwado Shrine
長崎県雲仙市瑞穂町西郷丁2322
tel:0957-38-3111
(雲仙市観光物産まちづくり推進課)
無休
入場無料

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“雲仙岳と有明海、橘湾をさまざまな角度から眺める”

風の宿り|Kazenoyadori

島原半島の玄関口にある諫早市。半島の西海岸を囲む橘湾の起点であり、強い潮風が常に駆け抜けていく場所だ。住宅や店舗デザインを手がける浜松建設は普賢岳噴火により諫早市に移転し、ミカン畑だった約3000坪を切り開いて、カフェや雑貨店が点在する風の森を立ち上げた。そして2019年、この森の一角に、ライフスタイルホテル風の宿りを完成させた。約350坪の敷地にある3棟すべてが、1日1組の貸し切りに。日本家屋を思わせるエントランス棟の引き戸を開くと、メインラウンジと、その先のステイルームまで見通せる。3つある寝室は扉で仕切れるものの、メインラウンジは全面、ステイルームも両側ガラス張りという設計で開放感たっぷり。朝は、裏にそびえる山とその奥に覗く雲仙岳から太陽が昇り、遠くで橘湾の海がキラキラと光る。あらゆる窓から切り取られた風景と風を感じながら滞在したら、いざ、島原半島を巡る旅へ。

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エントランス棟とステイルームの間にある、ガラス張りのメインラウンジ。どの棟からも他の棟の気配を感じられる設計。

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引き戸を開けばプライベートな空間。

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シンプルな内装が心地いい寝室。

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長崎で大人気の豚料理専門店ミッシのケータリングも予約可能。自家製チーズとイチゴ、シェフが釣ったヒラスズキ、一頭買いした山のウエノ豚のロールキャベツや豚バラ焼きなど、地産地消の旬な食材のコース¥44,000~。シェフ自ら出張し、目の前で調理してくれる。

風の宿り|Kazenoyadori
長崎県諫早市森山町唐比北269-1
tel:0957-51-5990
全3棟 1棟露天風呂付き
3棟¥66,000~ ※1組2〜6人
https://kazenoyadori.com

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トキトキ|TOKITOKI

古い武家屋敷が立ち並び、国の重要伝統的建造物群保存地区にも指定されている神代小路。17世紀、島原半島内で唯一佐賀の鍋島藩領だった異色の地域で、島原の乱では幕府軍として戦った歴史を持つ。「よう来ござったのまぁい」など、小さな一帯ながら周辺にはない独特な方言も残る。昨年、鍋島邸の隣の、お目付け役だった旧伊藤邸が一棟貸しの宿として生まれ変わった。建築家である現オーナーが改修し、築190年のお屋敷ながら快適な滞在が叶う。樹齢約200年の槙の木や緋寒桜、八重桜など、花木が池を囲むように設えられた庭は、当時の景観を残す。水路の清らかなせせらぎに耳を澄まし、情緒あふれる町を歩いてみよう。2月、3月は緋寒桜が町中に艶やかなピンクの彩りを灯し、甘い香りに誘われてメジロが訪れる。梅、椿、八重桜、山桜と続く開花で桃色はどんどん薄くなり、新緑の季節へと移り変わる。

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四季の窓と名付けられたリビングの大きな丸窓から、緋寒桜が見事な庭を切り取って。

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天井や柱、障子など、座敷は江戸期当時の状態を残したという。庭を望める縁側はぽかぽかと暖かく、のんびりと昼寝したくなる。

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緋寒桜がひと際目を惹く。かぎ型の石垣や矢竹の生け垣の屋敷が多く、敵からの侵入を防ぐ工夫が凝らされていたとわかる。

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朝は、神代商店街の老舗、松栄旅館が手がけた地元の食材をふんだんに使った和朝食が届く。キッチンもあるので、食材を購入して料理することも可能だ。

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寝室はダブルとツインの2部屋を用意。江戸期の暮らしを再現しながらもモダンに設えられている。

トキトキ|TOKITOKI
長崎県雲仙市国見町神代丙132-1
tel:090-9762-3525
全1棟 バスタブ付き
1棟¥57,954〜
1棟¥63,344〜(朝食付き)
※1組2~6人
https://tokitoki-patina.jp

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刈水庵|Karimizuan

小浜出身のデザイナー、故・城谷耕生が開いた喫茶併設ギャラリーショップ。ミラノから帰国後、雲仙にスタジオを構えて活躍し、九州の伝統工芸の職人との共同作業に力を入れた。200種類以上メニューを書き出し、あらゆる家庭料理に合わせて設計した波佐見焼シリーズなど、ギャラリーでそのサステイナブルなデザイン学を紐解く。城谷のプロダクトのほか、イタリア、韓国の友人の作品も紹介。

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2階の喫茶室から、小浜温泉街と海岸を見下ろして。さまざまな国のヴィンテージやデザイナーズ家具を古民家に調和させた城谷のセンスはさすが。

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喫茶室では、城谷の手がけたうつわでティータイムを楽しめる。5種のドリンク&お菓子セットを用意。「雲仙ほうじ茶セット」¥600 

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韓国生まれ、小浜在住の陶芸家オクウンヒの静謐で美しい白磁に注目。ボウル小¥7,700、大¥16,500、ピッチャー各¥16,500

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刈水地区にある古民家を改装した店。モダンで実用的な食器から海外作家のもの、ヴィンテージ、デザイナーズなど、城谷が生前にセレクトした家具が並ぶ。

刈水庵|Karimizuan
長崎県雲仙市小浜町北本町1011
tel:0957-74-2010
営)10:00~17:00
休)火、水
www.karimizuan.com

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牧場の里あづま|Ranch Azuma

雲仙岳の中腹、標高400mの丘陵地帯に広がる牧場が自然公園に。西側には橘湾と諫早湾、ジャガイモ畑にそびえる大きな風車、東側には有明海、島原半島の対岸にうっすらと見える多良岳。頂上部まで登ると、斜面に放牧された100頭ほどの牛が草を食む長閑な光景の後ろに見渡す限りの絶景が広がる。長崎の万里の長城と称される、全長480mの展望遊歩道からの眺めも素晴らしい。

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島原半島の全景が見られる四季折々の花が咲く、花の丘広場も見どころ。

牧場の里あづま|Ranch Azuma
長崎県雲仙市吾妻町川床名
tel:0957-38-3111(雲仙市財産管理課)
無休
入場無料

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雲仙地獄|Unzen Jigoku

雲仙温泉街一帯を真っ白な噴気で包み込む雲仙地獄。エネルギー源は橘湾の海底のマグマ溜まり。強い硫黄臭を漂わせながら、地の底から蒸気と熱気が激しく噴き出す様子はまるで生き物のようでパワーに圧倒される。熱と酸性水の影響で白くなった岩石や噴気孔の周りに付着した黄色の湯ノ花など、噴出の間に覗く地表の美しさにも注目。ネコたちが地熱で暖を取って眠る、愛らしい姿も。

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雲仙地獄を中心に、約30の地獄巡りを。高温蒸気で作った温泉卵が名物。

雲仙地獄|Unzen Jigoku
長崎県雲仙市小浜町雲仙320
tel:0957-73-3434(雲仙温泉観光協会)
無休
入場無料

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“おいしい湧水や多様な泉質の温泉は、活火山が生み出す自然の恵み”

炭酸泉|Carbonated Spring

日本一熱い105℃の温泉が湧く小浜で、唯一低温の温泉が湧く刈水地区。自然湧出の炭酸泉は25~27℃の低温で、地表付近で急に冷やされた火山ガスと地下水が混ざって生じたもの。辺りには硫黄臭が充満し、白濁した冷泉がゴポゴポと音を立てている様子は圧巻だ。皮膚を引き締めて皮脂や汗の分泌を抑え、肌のキメを整えてくれるので皮膚病に効くといわれる。地元では、入浴剤として愛用されているそう。

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サッと手を通しただけで、しっとりと洗い上がる。ボトルを持参すれば、汲んで持ち帰ることも可能。

炭酸泉|Carbonated Spring
長崎県雲仙市小浜町北本町999-3
tel:0957-65-5540
(島原半島ジオパーク事務局)
無休
入場無料

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上の川湧水|Kaminokawa Spring

炭酸泉から徒歩3分。小浜ではおいしい湧水もいたるところで自噴するが、温泉街の裏通りにあるこの湧水は、1629年に書かれた『キリシタン殉教史の悲話』にも登場するほどの古い歴史がある。いまでも町の人たちの重要な生活資源であり、こんこんと湧き続ける水を汲みに近隣住民から料理店の店主まで訪れる。透明度の高い水の中には小魚が泳ぎ回り、夏は子どもたちがよく遊びにやってくる。

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苔生した巨岩と木々に覆われた神秘的な景観。近所では、「庄屋元前の湧水」の通称で親しまれる。

上の川湧水|Kaminokawa Spring
長崎県雲仙市小浜町北本町849
tel:0957-74-2111
(雲仙市小浜総合支所)
無休
入場無料

●ホテルの宿泊料金、滞在プランは、客室タイプ、時季、サービス内容で異なるため、予約時にご確認ください。
●ホテルによって、別途サービス料や宿泊税、入湯税などがかかる場合があります。
●掲載店や施設の営業時間、定休日、価格、料理などは、取材時から変更になる可能性があります。
●取材・撮影時はコロナ対策に十分配慮し、換気に注意のうえ少人数で行っています。
●写真でマスクを外している場合がありますが、通常スタッフはマスク着用のうえ感染対策を行っています。

*「フィガロジャポン」2022年5月号より抜粋

photography: Mana Kikuta

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