伝統と革新を織り交ぜて。島食材が紡ぐおいしい文化。
Travel 2022.12.05
琉球王国時代から受け継がれる宮廷料理に、地のものを最大限活用し、家族の健康を守ってきた郷土料理。近年では西洋料理の技法で島食材に向き合う料理人も登場した。沖縄が誇る食文化と、それを支える料理人の想いとは。
琉球王国の“おもてなし料理”を忠実に再現。
[ 那覇市 ]琉球料理 美榮
登美が収集した琉球漆器に盛られる「東道盆」(写真はでいごコース¥15,000に含まれる4人前盛り)。琉球王国時代、中国の冊封使や薩摩の在番奉行をもてなす料理として発展した。外形は円、四角、六角、八角とさまざまで、奇数で区切られたうつわに料理が盛られる。手前から時計回りに、昆布巻き、揚げカマボコ、青カマボコ、ぽーぽー、カステラカマボコ、ゴボウ巻き。中央は卵黄をまぶした「山吹鯛」。
最後の琉球国王・尚泰王の四男、尚順男爵の料理に縁を持つ琉球料理の老舗。創業者・古波蔵登美(こはぐらとみ)は旧首里士族の育ち。料理上手な母の影響で、美食家として知られた彼女は、1958年に美榮を創業した。「琉球料理研究会」に所属するなど、生涯を琉球料理の研究に傾けた人物でもある。60年より現在地に移転した店舗は、いまも創業当時の風情を色濃く残す。
創業当時の面影を残す店内。
「琉球料理は、宮廷で来賓の接待の際に提供する、いわば“おもてなし料理”。そのため下ごしらえに膨大な手間と労力をかけています。薩摩と中国の影響を受けていて、味付けの要はカツオ出汁と豚出汁。素材の味を大切に引き出すため調味は控えめに仕上げるものが多いです」と、厨房を担う3代目料理長の平川浩司。
その代表格とも言えるのが琉球漆器で供される「東道盆(とぅんだあぶん)」。グルクンなどの魚を、水洗いからすり身になるまで手間をかけて仕上げた蒸しカマボコや、カジキマグロの昆布巻きが美しく盛られる。「登美が書き残したレシピを忠実に継承することが自分の役目」と平川料理長。沖縄の工芸品や絵を好んで収集した登美の息づかいを感じる空間で味わう奥深い風味に、時の流れを忘れる。琉球料理の神髄に触れられる貴重な一軒だ。
昼は¥5,500~、夜は¥9,000~のコースがある。全コース料理で提供される「なかみの吸物」。豚の腸(なかみ)を何度も水洗いして脂身を除いたものをオカラで揉み、ショウガと茹で&洗いを何度も繰り返すなど下処理に相当な時間を費やす。カツオと豚出汁を合わせた香り高い椀に仕立てる。
料理長の平川浩司(左)と、登美の意志を伝承する接客担当の石川薫。
沖縄県那覇市久茂地1-8-8
tel:098-867-1356
営)11:30~14:00最終入店、18:00~20:00最終入店
休)日 ※ほか不定休あり
要予約
http://ryukyu-mie.com
---fadeinpager---
身近にある食材を生かし、命を育む料理を伝えていく。
[ 金武町 ]カフェ がらまんじゃく
土曜と日曜に供する料理は、写真の「がらまんじゃく定食」(¥3,000)と、「季節の島野菜定食」(¥2,500)の2種。合わせて1日10食限定。殺菌効果を期待できる月桃の葉の上には、漬物、ムカゴの和え物、ゴーヤのきんぴら、フェンネルとヒバーチで和えたササゲ、島豆腐の素揚げと島らっきょ、シナモンやクローブと合わせたカボチャの煮物など。薬膳の考え方で作られたカボチャの一品は、身体を温める作用がある。汁物の中身は庭でとれたハンダマ(水前寺菜)とシメジ。中央上の味噌は、調理中に出る野菜の切れ端などを集めて作った自家製。
「母は生前、店に来てくれるすべての人を自分の子どものように想っていました」と、2代目オーナーシェフの山城百今都(とまと)。初代オーナーの山城清子は、子どもたちの健康を守りたいと、カフェ がらまんじゃくを2009年に創業。琉球王国の御殿医が書いたとされる文書を読み、辿り着いたのが医食同源だ。その土地の人には、地元のものが身体に合っているという考えに基づき完成したのが、庭の長命草、フーチバー(ヨモギ)、畑でとれた島野菜など、動物性を一切使わない料理。22年からは娘の百今都が母の遺志を引き継ぎ、変わらない味を提供している。
センダンや杉を多用し、釘を1本も使わない昔ながらの工法で建てられている。
「五味を大切にしています」という見た目にもカラフルで楽しいお膳は、フェンネルやヒバーチ(島コショウ)などスパイスを巧みに使い、力強い野菜の味の中に、酸味や甘味が複雑に絡み合う。バタフライピーといった花や野菜で色付けした混ざり合う五色のご飯は、五大陸を表し、先代の清子オーナーの人種融合への願いも込められている。母から受け継がれてきたものを大切にしながら、今後は月曜日限定で、現代風にアレンジした野菜中心の新メニューの提供も予定。「命を育む料理を」という使命のもと、2代目としてさらなる高みを目指している。
がらまんじゃくの庭はまさに食材の宝庫。月桃、長命草などが育ち、生命力に満ちあふれている。
母・清子のもとで約5年料理を手伝い、今年2代目を引き継いだ山城百今都。
沖縄県国頭郡金武町金武10507-4
tel:098-968-8846
営)12:00~14:00L.O.
休)火~金
要予約
https://garamanjaku.com/cafe.php
---fadeinpager---
トップシェフが魅せる、沖縄食材の新しい世界。
[ 恩納村 ]イノベーティブ シルー
料理はすべて、¥18,000のディナーコースから。カクテルペアリングは¥8,000。ひとつのテーマに沿って、同時に2皿が供されるユニークなスタイル。紺野乃芙子作のうつわで運ばれる「ナス 山羊」。手前は、フレンチの定番キャビア・ド・オーベルジーヌを沖縄食材で表現した一品。紫色のシートの中にナスのピューレが入り、下には島豆腐とヨーグルトで作ったソースが敷かれる。奥はフランスでもポピュラーな羊肉料理メルゲーズを、県産山羊で表現したもの。ラッシーのイメージで作ったハママーチとスパイシーヨーグルトのカクテルと。
2ツ星のフロリレージュのシェフ、川手寛康が監修を務め、2019年の開業から瞬く間に話題店となったシルー。現場を一手に引き受けるのは大阪府出身の東慎也料理長だ。
「年間を通して温暖で、植物が生命力に満ちた沖縄は、食材ひとつとっても個性があり、力強さもある。すべての食材がメイン級です」と、料理人として沖縄で調理をすることの喜びを語る。ゴーヤ、バナナ、イラブー(海ヘビ)など、西洋料理では珍しい沖縄食材がほぼすべての皿に登場するが、コースを通して味わうと、イノベーティブかつ新境地の料理だとわかる。脂身まで甘やかな皮付きの島豚ローストには、島バナナとチャツネを添えてエキゾティックに。一緒に味わう豚ミンチとゴーヤのミルフィーユには、イラブーでとった出汁と豚の血をソースにし、深みのある逸品に。
シルー(沖縄の方言で白を意味)という名にふさわしい清々しい店内からは海が望め、美しい夕焼けを見ることもできる。
「豚は鳴き声以外すべて食べる」習慣が沖縄にはあるが、そんな逞しき食文化に敬意を払い、食材を余すことなく活用するのも川手シェフと東料理長の考え方。ハママーチ(琉球ヨモギ)などを使ったミクソロジーカクテルとのペアリングも秀逸だ。ラグジュアリーホテルの舞台で沖縄食材の新たな可能性を示す同店は、新時代のデスティネーションレストランと言える。
豚のあらゆる部位を味わえるメイン料理「島豚 ゴーヤ」
都内ホテルや沖縄県内のホテルで研鑽を積んだ、東慎也料理長。
沖縄県国頭郡恩納村名嘉真1967-1 ハレクラニ沖縄内
tel:098-953-9530(レストラン予約)
営)17:00~20:30L.O.
無休
要予約
www.okinawa.halekulani.com/dining/shiroux
---fadeinpager---
“心地いい循環”を作る、土地の旬から成るフランス料理。
[ 宜野座村 ]ザ・ひらまつホテルズ&リゾーツ 宜野座
ディナーコースは¥18,980から用意。内容は季節によって替わる。メイン料理は本部産のブランド牛を使った「沖縄県産もとぶ牛のロースト」。肉質が柔らかく、脂にほどよい甘味があって後味も軽やか。「余すことなく使い切ることができるよう、今後は一頭買いを考えているところです」と木下料理長。付け合わせは、旬の地野菜を約12種。やんばる産の島コショウと屋我地島の塩で風味付けしている。ワインはグラス¥2,600から用意する。
やんばるのふもと、朝日やムーンロードが美しい東海岸に広がる宜野座(ぎのざ)村。海を目前に臨むオーベルジュが2018年に誕生した。開業以来、地元食材を駆使したガストロノミーが評判を呼び、遠方から足を運ぶリピーターも少なくない。その原動力となる料理の采配を担うのは、ひらまつ各店で修業を積み、開業と同時に料理長に就任した木下喜信(よしのぶ)。「生産者と心地いい循環を生む旬菜旬消」をモットーに、県内各地の生産者を積極的に訪ね歩く。
前菜の「沖縄県産島ダコのセビーチェ」。タコは低温で火を通すことで生に近い食感にし、焼いたナスの香り、グレープフルーツの酸味、歯ごたえのある沖縄県産のマイクロリーフの食感を重ね、シェリービネガーで仕立てた。
「沖縄は特に野菜やフルーツの風味がパワフルで魅力的。初めて出合ったものも多く、料理に想像を超えたニュアンスや風味をもたらしてくれます」と木下シェフ。「沖縄県産島ダコのセビーチェ」に使うやんばる産ナスはフルーツのような甘味があり、柑橘の酸味、低温調理した島ダコの食感と絶妙なハーモニーを奏でる。県産粕入り発酵飼料で育てた、地元のもとぶ牛を使ったメインも好評だ。また、採卵期間を終えた廃鶏は味の奥行きを出すブイヨンに活用するなど、サステイナブルな試みにも力を注いでいる。ホテルならではの非日常を味わうリュクスな世界観はそのままに、沖縄の食文化を愛する者として、持続可能な未来を探りながら日々挑戦し続けている。
レストラン棟から見えるのは、海や手付かずの原風景。
琉球料理の知恵を取り入れたフレンチにも取り組む木下喜信料理長。
沖縄県国頭郡宜野座村字松田1425
tel:098-968-5600
営)17:30~20:00最終入店
不定休
要予約
www.hiramatsuhotels.com/ginoza
*「フィガロジャポン」2022年12月号より抜粋
●掲載施設の開館・営業時間、閉館・定休日、価格、料理、商品などは、取材時から変更になる可能性があります。
●施設によって、別途サービス料や宿泊税、入湯税などがかかる場合があります。
●取材・撮影時はコロナ対策に十分配慮し、少人数で行っております。また、写真でマスクを外している場合がありますが、通常スタッフはマスク着用のうえ感染対策を行っております。
photography: G-Ken, Wataru Oshiro (camenokostudio) text: Akari Matsuura