ポーランド冬の旅「聖マルチンのロガル」

Travel 2022.12.17

こんにちは。写真家の在本彌生です。写真家として活動を始めて以来、世界のありようや人々の生き様に触れ、確かめ、味わうべく、国内外を飛び回り取材、撮影してきました。2020年春以降、コロナ禍で簡単には各地を訪れることができなくなっていましたが、徐々に以前の様な探求の旅を再開し始めました。あちこちで見知ったこと、気づいたことを写真とともに綴ってまいります。

221216_Image.jpg

221216-porland-01.jpg

冬を迎えたポーランドを巡りました。12月の声と共にどこの街も通りはイルミネーションに彩られ、きらきらと華やぎ、人々は楽しげ。それぞれの街の広場や大通りで11月末から開催されるクリスマスマーケットにも、たくさんの人が集っていました。

221216-porland-02.jpg

---fadeinpager---

ヨーロッパ各地で例年開かれているクリスマスマーケットですが、ポーランドでは比較的最近開かれるようになったと聞きます。クリスマスツリーをデコレーションするためのジンジャークッキーのオーナメントや、ガラスボール、ポーランドならではのソーセージや焼きチーズの出店をどこでも見かけました。

221216-porland-03.jpg

221216-porland-04.jpg

キリストの生誕を祝うクリスマスですが、それをきっかけに親しい人同士が集う時間が生まれるのは何より嬉しいこと。家族連れ、友だちと、恋人同士で街に繰り出して、出店を眺めたりホットワインを飲んだり。人々の笑顔があちらこちらに溢れて寒さなんて気にならない!クリスマスマーケットには朗らかで幸せな時間が流れていました。

221216-porland-05.jpg

221216-porland-06.jpg

---fadeinpager---

古都ポズナンで、名物の「聖マルチンのロガル」というペストリーに出合いました。このお菓子、ポーランドでは聖マルチンの日、11月11日に頂く風習があるもので、菓子職人たちはこの日が近づくと猛烈に忙しくなるのだそう。

221216-porland-07.jpg

この度「聖マルチンのロガル」について詳しくお話を聞かせてくださったのは、国内で2名しかいないという「公認ロガル職人」のシャムスキー氏。創業1965年の老舗 “WISE CAFE Mercure Poznan Centreum” で菓子作り一筋30年、6年前に先代の後を継ぎ、チーフパティシエ、管理責任者に就任されました。
「聖マルチンのロガル」はイーストを使った折りパイ発酵生地と、白い芥子の実のペーストのフィリングを二枚重ねてロールし焼き上げ、アイシングとたっぷりのクラッシュナッツをふりかけて仕上げます。見るからにふっくらと丸みを帯びてボリューム感があり、手に取るとずっしりといているロガル、ひとつをひとりで食べきるとなかなかの達成感なのです。伝統菓子なので甘さもしっかりとありますが、芥子のフィリングを味わうと和菓子の餡に似た印象もあり、寒い季節に渋めの紅茶やコーヒーと相性抜群、ひと口ごとにエネルギーに満たされ、暖かな風情の漂うお菓子です。

221216-porland-08.jpg

221216-porland-09.jpg

「聖マルチンのロガル」と呼べるペストリーは厳密に規定されたサイズ(一個150gから200g)や材料を厳守して、ポズナンで公認職人の元で作られたものと定められていて、WISE CAFEは2013年に登録更新したレシピに則ってロガルを焼いているとのこと。今年、お店で11月11日の「聖マルチンの日」に向けて仕込んだロガルの量はなんと8.5トン!実に41250個分だったと言います。ポズナンの銘菓だけに、この地では一年中頂くことができますが、他の土地に住む人たちからすると、公認「聖マルチンのロガル」は、滅多に口にすることのないありがたいお菓子なのでしょう。

221216-porland-10.jpg

それにしても、何故にこの「聖マルチンのロガル」にそんなに厳格な規制があるのでしょう… 。ペストリーの形はクロワッサンのようですが、聖人マルチンがこの地方を旅していた時に乗っていた馬の蹄鉄を失くしたという逸話があることから、その蹄鉄を模したと言われています。19世紀の終わり、ポズナンの聖マルチン教会の司祭が、聖マルチンにちなんだものを貧しい人々へのお布施にできないものかと考え、そのアイディアに共感した菓子職人が考案して作ったのが蹄鉄形のロガルなのだそう。すなわちロガルはチャリティーの精神からはじまったお菓子なのです。厳格な規制の理由はこうした経緯があるからだったのですね、やっと納得しました。聖マルチン様、きっと人々がこのロガルを口にしたときの幸せな表情をご覧になって喜んでいらっしゃいますね。

在本彌生(ありもとやよい)
東京生まれ、写真家。アリタリア航空で乗務員として勤務する中で写真と出会う。2006年よりフリーランスの写真家として本格的に活動を開始。世界各地であるがままのものや人のうちに潜む美しさを捉え、写真展、写真集、雑誌などで作品を発表している。著書に写真集「MAGICAL TRANSIT DAYS」(アートビートパブリッシャーズ)、「わたしの獣たち」(青幻舎) 「熊を彫る人」(小学館)など

photography, text:Yayoi Arimoto cooperation:ポーランド政府観光局

Share:
  • Twitter
  • Facebook
  • Pinterest

清川あさみ、ベルナルドのクラフトマンシップに触れて。
フィガロワインクラブ
Business with Attitude
2024年春夏バッグ&シューズ
連載-鎌倉ウィークエンダー

BRAND SPECIAL

Ranking

Find More Stories