手仕事と伝統、ポーランドで宝探しの旅 ポーランドでめぐる、聖なる木造教会。

Travel 2023.10.03

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カルパチア地方のポヴロジニク教会。細かくカットした板を規則正しく並べて壁や屋根にする「こけら葺き」手法がなんとも美しい。

ポーリッシュ アーキテクチャーは驚きの連続だ。おとぎ話の絵本に出てきそうな摩訶不思議なデザインの教会。さらにはスロバキア国境近くに建つポーランド歴代大統領の別荘がなんとも粋なモダニズム建築であったり。人気都市のクラクフ歴史地区には麗しいアール・ヌーヴォー装飾の教会が……。ポーランドで見つける宝探しの第二回目は、世界遺産の木造教会群、スキーリゾート地ヴィスワの歴代大統領の山荘などの魅力を紹介する。

第一回:可愛いレースを求めて、ポーランドへ。https://madamefigaro.jp/lifestyle/travel/230920-Koniak%C3%B3w-lace.html

 

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マウォポルスカ地方の「木造り街道」へ

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ポーランドの語源は「平原」から来ているという。その名のとおり国土のほとんどは大平原だ。たとえばワルシャワから車でどの方向へ走っても、牧歌的で美しい田園風景が延々と続き、車窓を眺めているだけで物語の中に入り込んでしまったような不思議な気分になる。しかし南部の国境近くにやってくると様子は違ってくる。なだらかな山々が広がってきて、かわいらしい伝統的な木造りの家々が辺りの森や渓谷に溶け込んでいるのが印象的だ。

ポーランド南部は「マウォポルスカ(小さなポーランド)」と呼ばれていて、総1,500㎞以上の6つの「木造り街道」が存在する。そこには中世後期から建てられたカトリック教会や東方正教会、博物館、城など250以上の古い木造建築が残る。なかでもビナロバ、センコヴァ、ブリズネ、デンブノ、ハチュフ、リプニツァ・ムロヴァナにある点在する大変貴重な木造教会6つが「南部マウォポルスカの木造教会群」として2003年ユネスコ世界遺産に登録されており、ポーランド南部の人気観光スポットのひとつとなっている。木材が豊富なこともあってか、およそ400年以上も昔から村の大工たちが石造ゴシック教会を模し、自らの建築技術を駆使してこれらの教会を造ったのだという。

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16世紀初めの多彩装飾画は必見、ビナロヴァの教会

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ポーランドきっての観光地クラクフから南東へ車で約2時間弱。まずは、人口約1,600人のビナロヴァ(Binarowa)という町にある「ビナロヴァ聖天使ミカエルの聖堂」を訪れた。まずはその外観に驚愕。屋根と壁全体がモミの木から作られた薄いこけら板に覆われている。カタチも材木も初めて目にする建築スタイルだ。

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中に入ってまたびっくり。聖書に説かれたキリストの苦難の道のシーンや、花と草木模様が壁と天井にびっしりと描かれている。これが大変彩り豊かで華やか。花や植物に卵などを加えた顔料が使われているという。これらの多彩装飾画の価値が認められ世界遺産に登録されたという。

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教会は1,500年頃に建てられた。19~20世紀の戦火を免れその姿を現在まで残していて、いまでも村人に愛される現役の教会だ。建築様式は後期ゴシック式。祭壇の聖母マリア像の額や長い指にその特徴が伺える。この地がマリア崇拝の中心地だったことも特筆すべき点。説教壇や司祭の王座の彫刻も見事で、下部が石造、上部が木造りの洗礼台は500年以上もの間、洗礼に使用されているそうだ。

ビナロヴァ聖大天使ミカエルの聖堂
Charch of St. Michael the Archangel
(Parafia św. Michała Archanioła w Binarowej)


Binarowa 409, 38-340 Biecz, Poland
tel: +48 13 447 63 96
営)9時 ~17時(水)、9時~18時(木〜土)、12時~17時(日)※昼休み13時~13時30分 ※ミサ聖祭の開催中は入室禁止。
休)月、火
※英語ガイドの手配可能(+48 69 238 52 44)
http://www.parafiabinarowa.pl/

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土曜日という名のスペースをもつセンコヴァの教会

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次の教会は、ビナロヴァから南へ車で約30分のセンコヴェにある。1520年建造。外観の特徴は、緩やかなカーブを描くこけら葺きの大きな屋根だ。なんとも美しい!  よく見ると、建物の内部の周りをぐるりと囲むように庇の下(軒下)に広い空間が設けられている。これは「土曜日(ソボタ)」と呼ばれている。その理由は、日曜日に遠方からミサへやってくる人々が土曜日の夜に泊まるスペースだったそうで、その名が付けられたという。モミの木を使い、釘を1本も使わずに建てられている。

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中に入ると、前のナビロヴァに比べてかなり質素ですっきりとした印象だ。実は、第一次世界大戦時にオーストリア軍から支配された際、貴重な遺品はすべて持ち去られ、馬小屋として使用されていたために内部の壁面の絵画がほとんど消失している。しかし、よく見るとわずかながらうっすらと人の面影を見ることができる。

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中心にある聖体(キリスト像)や周りの装飾品は17世紀に造られたもの。祭壇には聖ヤコブと聖フィリッポ、聖母マリアなど、そして、左脇にはアダムと右の脇にはイヴが祀られている。教会のメインの部屋から奥の方へ進むと、建設当時と変わらない姿を残す吹き抜けのドーム型空間に出る。上を見上げると、釘を使わない木組み構造がひと目で理解できる。

センコヴァの使徒聖ピリポと聖ヤコブ聖堂
Church of SS. Philip and Jacob the Apostles in Sękowa
(Kościół pw. Świętych Jakuba i Filipa w Sękowej)


13, Sękowa 12, 38-307, Poland
tel: +48 60 954 63 89
営)16時~17時(月、火、水、金)、8時~9時(土)
休)木、日 ※ミサ聖祭:7時、18時(平日)、7時、9時、10時30分、12時、16時(日、祝日)
http://www.parafiabinarowa.pl/

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村の風景とともに楽しむ、玉ネギ型ドームのポヴロジニク教会

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上記のセンコヴァからさらに車で南南西へ約1時間走るとカルパチア地方に入る。ポーランドの温泉保養地クリニツァ・ズドルイのすぐ南にある「ポヴロジニク教会」を見学した。ポヴロジニク教会は、ユネスコ世界遺産「ポーランドとウクライナのカルパチア地方の木造教会群(2013年登録)」のひとつだ。前述の2つの教会とは少し文化圏が異なっていて、こちらは丸太を使ったレムコ様式と呼ばれる建築スタイルで、拝廊・身廊・至聖所という3つのパートが直線上に並んでいる。

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ポヴロジニク教会は1604年建造。カルパチア地方では最後にできた教会で、こちらも釘を1本も使わずに建てられている。一番奥の祭壇から向かって左の聖具室には、壁と天井一面に聖書の教えが描かれている。当時文盲の人も多かったため、絵によって教えを説いたそうだ。

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この教会を訪れた後、ちょうどミサが始まる時間で村人が一斉に教会に入ってきた。村人たちが無心に祈る姿は尊く、教会内には創建当時と変わらないであろう神聖な空気が漲っていた。

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ここでは、周りの村の景色とともに教会全体の景観を楽しんでいただきたい。遠くに見えるゆるやかな丘や家々、子どもたちの遊ぶ姿。古くから教会が常に村の中心であったことを感じられるはずだ。

ポヴロジニク使途聖ヤクプ教会
Greek Catholic Charch of St.James the Less in Powroźnik
(Powroźnik Cerkiew pw. św. Jakuba Młodszego Apostoła)


DW971 28, 33-370 Powroźnik, Poland
tel: +48 50 886 64 02 
営)9時~17時(火、水)、9時~18時(木、土)
休)月、金

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ポーランド歴代大統領の山荘で、モダニズム建築の美を堪能

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ポーランドの白馬、ともいわれる人気スキーリゾート地ヴィスワは、スロバキアとの国境付近に位置する風光明媚な保養地。ヴィスワの見晴らしの良い丘に、ポーランド歴代大統領の別荘「レジデンツィア・プレジデンタ」が建つ。元はハプスブルク家の狩猟小屋跡地だった場所に、1929年から1931年にかけて建設された別荘で、シレジア県からポーランド初代大統領イグナツィ・モシチツキ氏とその後継者たちへ贈られた。保養のための別荘として、また他国の要人をもてなす迎賓館としての役割も果たしてきたという。上写真は筆者たちが泊まったホテルから見るヴィスワの景色。

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メインの設計はポーランド人の建築家アドルフ・シシュコ=ボフシュが担当し、アンジェイ・プロナシュコとヴウォジミエシュ・パドレフスキの協力を得てデザインされた。1938年に改装され、ナチス占領期間中は第三帝国の将校や職員の住まいとなっていたという。

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玄関を入ってすぐのサロンは「プロナシュコ」といい、建築家の名前が付けられている。
天井に備わるライト、テーブル、椅子、ガラス窓、シックな配色……一つひとつのディテールすべてが洗練され尽くしている印象だ。これまで伝統的な木造教会を巡ってきていたので、それとは対照的なスタイリッシュ過ぎるインテリアに、ただただ感動。ポーランド建築の奥深さを実感させられるとともに、この時代のモダニズムデザインの美しさを堪能できたことの喜びでいっぱいだった。その素晴らしさを写真で見ていただこう。

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サロンのテーブルと椅子はバウハウス様式。

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階段エリアも必見。欄干やさりげなく配された美術品など、一つひとつ色合いやバランスも秀逸!

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こちらはダイニングルーム。

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2階の執務室とミーティングルーム。机の上のタイプライターもオリジナル。ポーランドの名産品である琥珀が埋められた家具もある。

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こちらはバスルーム。インテリアショップのショールームかと思うほど。窓から見える植物との色もマッチして美しい。

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初代大統領イグナツィ・モシチツキ氏の肖像画も。

レジデンツィア・プレジデンタ
Rezydencja Prezydenta

Zameczek, 43-460 Wisła, Poland
tel: +48 33 854 65 00
email: Castlewisla@zamekwisla.pl
営)11時、12時30分、14時(水〜土)
休)日~火
※レジデンスとチャペルの見学はメールから要予約。無料。

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クラクフの聖フランシスコ教会はヴィスピアンスキーの才能が爆発!

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聖フランシスコ修道院の貴重なアール・ヌーヴォーのステンドグラス美術と壁画は必見。

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このスタンドグラスを制作したスタニスワフ・ヴィスピアンスキー(1869-1907)はポーランド出身の画家で、グラフィックアートや家具デザインのみならず、劇作家や詩人、市議会議員など多分野で活躍した人物。

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日本のガイドブック等ではほとんど紹介されていないが、建築好きの方には見逃せないスポットだ。

聖フランシスコ教会
Bazylika i Klasztor Franciszkanow

plac Wszystkich Świętych 5, 31-004 Kraków, Poland
tel: +48 12 422 53 76
営)5時45分〜19時45分(月〜土)、6時15分〜20時(日、祝日)
(※各場所によって開館時間・見学時間が異なるので現地で要確認)
休)なし
https://franciszkanska.pl/

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今回訪れた建築スポットはほんの一部。長い歴史の中で三度も国土を失った経験をもつポーランドは、国土を復活させる度に自国のオリジナリティを再確認しながら独自のカルチャーを育んできた。建築の分野でも目が離せない国である。ぜひともこの国に足を運び、貴重な建築遺産を体感していただきたい。

photography: Yayoi Arimoto text: Sachiko Suzuki (RAKI COMPANY)

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