京丹後で体験する、クワイエットラグジュアリーな旅へ。
Travel 2023.12.06
京都府北部に位置する京丹後市を中心とした近畿地方最北端のエリアでいま、豊かな自然と共生する新しいリトリートが話題を集めている。2023年には、古来より継承されてきた古与曾米の一種が化粧品原料に使われるなど、ビューティのジャンルでもニュースに。
まだあまり広く知られていない京丹後の新たな可能性を求めて、フィガロボーテスターのひとり、ビューティエディター安倍佐和子が訪ねた。
京丹後地方でもっとも有名なのが天橋立、そして城崎温泉や日本のヴェネツィアとも呼ばれる伊根など、日本海に近いエリアにはメジャーな名所がずらり。ルートはいろいろあるけれど、今回は、新しいリトリートスタイルが話題の久美浜町にあるウォーターサイドコテージ「ヘロン」と、京丹後の中央、希少な古与曾米を継承する芋野郷赤米保存会を中心に、京丹後を巡ってみた。
日本三景のひとつ、京都府宮津にある天橋立は、イザナギノミコトがイザナミノミコトに会うために作った梯子伝説「昇竜観」が残る。2024年の干支にちなんでさらに話題のスポットに。
夕日ヶ浦海岸は、美しいサンセットが拝める観光スポット。波が立つことから、多くのサーファーが集まるサーフポイントでもある。
心地いい空間、新鮮な食材......五感が喜ぶオーベルジュ。
美しいサンセットが拝めると有名な夕日ヶ浦海岸から車で約20分、京都府文化的景観に指定される久美浜町は、久美浜湾に面したエリア。海なのに波はなく、まるで清流川沿いに立っているかのようなコテージ「ヘロン」は、近隣でもつとに有名な複合型ホテル「ホリデー ホーム」の立ち上げに関わった須田悦子さんがオーナー。魚介をはじめ、京丹後ならではの豊かな食材に、敷地内にある自家農園で収穫された有機野菜をシェフが調理し、もてなしてくれる、まるで友人の家に遊びに来たかのような居心地のいいオーベルジュだ。
「ヘロン」のオーナーである須田悦子さんは、関西エリア情報誌の編集長を長く努めた方。衣食住へのセンスあふれるこだわりも見どころだ。
自然素材にこだわった「ヘロン」。敷地内どこにいても呼吸が楽で、一歩外に出るとその差を感じることができるはず。
コテージは平屋建ての2室。天井や床に杉材を使用した柿渋塗りで、壁は本漆喰というすみずみまで天然素材にこだわったつくり。いつもより呼吸が深く、身体のすみずみまで酸素が巡っているかのように清々しいのは気のせいではない。料理はデザートまですべて手作りで、夕食、朝食ともにすべてがおいしく、素材の味が色濃く感じられた。ワインは厳選されたナチュールが揃い、シグニチャーである渡蟹のパエリアは絶品だ。
朝食のひと皿。須田さんこだわりのエッグベネディクトは、新鮮有機野菜とともに。
こちらも朝食のひと皿で、柿ときのこのマリネに、梨とルッコラ、胡桃のサラダ。どれもみずみずしい素材の味を活かした記憶に残るもの。
豊富な魚介類をふんだんに使ったパエリアが絶品で、この味を求めて通い続けるリピーターも多い。季節によって松葉ガニ(写真左)、ハマグリ(写真右)など、具材が変わるのも楽しみ。
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いにしえに思いを馳せる、稲作発祥の地へ。
もう1カ所、京丹後の隠れたスポットが、丹後市弥栄町芋野。ここは、神話の時代から稲作発祥の地と知られ、希少な古与曾米(古代米)の保存活動や資料館が整備されている。人気の観光スポットではないけれど、生きた文化遺産を間近で体感できる貴重な場所、この地の希少米、瑞雲黒米から優れた美肌成分がみつかったことから、美容ツウの間でも話題に。稲刈りや田植えのタイミングで訪れるのがおすすめだ。
稲刈り直後の希少米、瑞泉黒米の田んぼ。瑞泉黒米から抽出した成分の力を発酵によって開花させ、配合した化粧品「FAS」が、注目を集めている。
平城京跡から発掘された木簡に、丹後国武野郡芋野から献上された貢進米の記録が。芋野郷へは、米栽培の歴史を刻む記念碑を目安に。
京丹後は、卑弥呼が統治していた邪馬台国があったと言われる地域。豊かだが厳しい自然が残る地で、交通網もけっして快適とは言えない。でも、だからこそ古き良き時代に思いを馳せながら、真のリトリートを体験できるのだろう。風音や波音に耳を澄ませ、月明かりでゆっくり語らう時間や、道すがら出会う、小さな道の駅で産地直送の米や野菜を購入するなど、ごくあたりまえの幸せを実感。ステレオタイプな観光とは違う、クワイエットラグジュアリーな旅を経験することができる。
京都府京丹後市久美浜町2983-1
tel: 0772-82-0101
◯ベーシックプラン(1泊2食付き) 1名¥30,800〜、B & Bプラン(1泊朝食付き) 1名¥27,500〜(いずれもツインルーム2名利用の場合)
www.heron.jp
芋野郷赤米保存会
akagome.localinfo/jp
京丹後市観光公社
www.kyotango.gr.jp/sightseeing
photography & text: Sawako Abe