東京発・2泊3日、高野山―熊野をめぐるスピリチュアルな旅。【前編】

Travel 2024.10.22

和歌山への旅を考えているなら、リアルな旅の様子を記録した「和歌山リアルとりっぷ」をチェック。今回は、『フィガロジャポン』の元エディターが、世界遺産登録20周年の記念すべき年にぜひ現地に訪れたいと、東京発、2泊3日、公共交通を使って初めての高野山―熊野へ。事前に知っておきたい注意点やアクセス、見どころなどもまとめているので、素敵な旅を実現する参考にぜひ。

*記載のデータは2024年10月現在のものです。

高野山へは新幹線でGO!

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今回目指すデスティネーションのひとつ、高野山。世界遺産にも登録されている一大宗教都市とは、一体どんなところなのか!?

東京から高野山への行き方は、飛行機と新幹線の2択があるけれど、今回は新幹線を選択。片道5時間かかるので、ポイントはできるだけ朝早く東京を出ること。

たとえば、東京発・朝6時台の新幹線に乗車すると、高野山到着は11時30分ぐらい。高野山は見どころ盛りだくさんなうえ、仏閣の拝観時間はだいたい16時30分最終受付・17時閉門と早いので、頑張って早起きをして、午前中に到着したいところです。

新幹線にはお弁当を買って乗るのがおすすめ。乗車時間を活用してぐっすり寝てから、ゆったり朝or昼食をとって旅に備えましょう。意外に身体はラクだし、乗り換えはあるけれど電車は効率と接続がいいのです。

ということで、東京から新幹線で新大阪へ。地下鉄御堂筋線に乗り換えてなんば駅に着いたら、今度は南海電鉄高野線に乗り換えて極楽橋へ。ここでケーブルカーに乗り換えて高野山というルートでいざ出発。途中、新大阪でおいしいものの誘惑があるけれど、脇目もふらず、まっすぐ高野山に向かってください。

そして、荷物はコンパクトにまとめるのが鉄則です。今回のルートは標高1,000m級の高野山から太平洋側へ和歌山を縦断するワイルドなコース。バスや電車を乗り換える際にも身軽に動けるよう、リュック+スニーカー+帽子が高野山―熊野の旅のおすすめスタイルです。

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極楽橋駅の天井絵。さまざまなモチーフの宝来が。
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苔むした線路と徐々に深みを増していく森が美しい。

高野山ケーブルカーが出る極楽橋駅は、標高535mで夏でも少しひんやり。ここは俗世と聖域の境界だと言われていて、乗り換え口は俗世とみなして天井に色彩豊かな絵が描かれる一方、ケーブルカー乗り場側は聖域とみなして赤と白の天井絵が描かれています。

赤と白の絵は「宝来」という高野山独特の切り絵がモチーフ。日照時間が短く稲作ができない高野山では、しめ縄をつくる稲わらを入手するのが難しいことから、代わりにさまざまな縁起物をかたどった宝来を飾る風習があるのだそう。

ケーブルカーがのぼる急勾配の坂道は、鬱蒼とした森に包まれて、いよいよ聖地・高野山に向かっているんだという実感がじわじわ湧いてきます!

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お大師様に見守られる聖地・高野山とは?

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奥深い山を上っていくと、いきなり一大宗教都市が現れます。

そもそも高野山ってどんなところなんでしょう? 

高野山は、今から約1,200年前に、高野山真言宗の開祖・空海によって開かれた修行の場。空海というより、弘法大師という称号のほうがお馴染みかもしれません。空海は、書家・教育者・アーティスト・ディベロッパーとしても活躍した万能の天才で、中国から日本へ密教をもたらした高僧として知られています。

密教は当時の最先端の仏教で、それまでの仏教が「修行を積んで悟りを開かなければ仏になれない」と教えていたのに対して、「自分の中には仏性があり、仏と自分はひとつである」と説いたのです。

今ある自分と、自分の中にある理想の仏の姿にはギャップがありますよね。それに気づくことが大事で、理想に向かって修行を積んでいけば、思いやりの心が芽生えたり、心穏やかになったりと、仏の姿に近づけるというのです。

日本に伝わった密教には、空海が開いた真言宗と最澄が開いた天台宗があり、真言宗の教えは真言密教と呼ばれます。空海は、真言密教の布教活動を都(京都)で行い、人里離れた秘境で修行に集中するための道場を開こうと考え、選ばれたのが高野山の地でした。

こうして、かつては300以上の寺院があったという一大宗教都市、高野山が誕生したのです

現在も117の寺院が建ち、多くの僧侶が修行を続けています。世界遺産登録されていることもあり、世界中から高野山を目指してたくさんの人が訪れています。そんな貴重な場所、日本人なら絶対行かねば!

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駅に着いたら、バスが待っている。とにかく接続がよくて驚き!

高野山駅についたら、路線バスで中心部へ。極楽橋〜高野山〜街中と、公共交通の接続が思った以上にスムーズでストレスフリーなのには驚きました。

山道を抜けて最初に見えるのは、一山の総門である朱塗りの大門。その先に、多くの寺院が連なる凛とした町並みが現れます。

街の中に寺があるのではなく、寺院群の中に街がある......「一山境内地」、つまり高野山全体がひとつの寺院であり境内地だといわれていることに納得です。

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高野山真言宗の素晴らしき信仰の世界へ

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金剛峯寺の正門。昔は、この門から出入りできたのは天皇・皇族、貴族・大名と高野山の重職だけだったとか。
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東西約60m、南北約70mの主殿は、圧巻の存在感。
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二匹の龍が奥殿を囲み守っている様を表現した石庭。石は四国、白砂は京都から高野山まで取り寄せたのだそう。
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金剛峯寺で世界遺産登録20周年特別御朱印をいただきました。限定2,000枚の貴重な1枚です。
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高野山の世界遺産登録20周年の特別御朱印をコンプリートして貼り付けられる金剛界・胎蔵界曼荼羅台紙もあります。立派です!

高野山の中でも、信仰の中心とされるスポットは3つ。ひとつは金剛峯寺です。現在はさまざまな宗派のある真言宗の中でも、高野山真言宗の総本山にあたります。

正門をくぐると、檜の皮を幾層にも重ねた檜皮葺(ひわだぶき)の屋根を頂く主殿の、どっしりした存在感に圧倒されます。

中に入ると、たくさんの広間それぞれに美しい襖絵が描かれていて見ごたえたっぷり。国内最大級を誇る石庭・蟠龍庭(ばんりゅうてい)では、雌雄一対の龍をイメージした大きな岩が奥殿を守るように取り囲んでいました。

見学が終わったら、忘れず御朱印をいただきましょう。世界遺産登録20周年となる今年は、期間限定の特別御朱印がいただけます。限定御朱印は金剛峯寺のほかにも、壇上伽藍や奥之院など計6箇所の授与所でいただくことができますよ。

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壇上伽藍のシンボル、根本大塔。
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お堂へは塗香を手に擦り込み、お清めしてから入ります。天上界はきっといい香りで包まれているんだろうと想像。 
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大迫力の立体曼荼羅。胎蔵界大日如来像を金剛界の四仏が取り囲み、柱には堂本印象が描いた金剛界の十六大菩薩が。

ふたつめのマストスポットは、壇上伽藍。ここは、空海が高野山で最初に着手した真言密教の根本道場です

敷地内にはたくさんの建物が立ち並びますが、ひときわ目を引く朱塗りの塔が、「根本大塔」。高野山のシンボルともいえる存在です。

中に入ると、金色の御本尊・大日如来の周りを、仏像や柱に極彩色で描かれた菩薩が取り囲んでいます。

密教の世界観をビジュアル化した「曼荼羅」には、慈悲を表す「胎蔵界」と智慧を表す「金剛界」のふたつがあります。ここではそのふたつを併せた「両界曼荼羅」を立体で表現、密教の世界を違う側面から見せている......とのことですが、ちょっと理解が難しい! そこで、金剛峯寺の方に解説をお願いしました。

「そうですね、胎蔵界は『思いやりの心』を、金剛界はそれを『実行すること』を表しているといったら伝わりやすいでしょうか。お大師様が構想された「立体曼荼羅」は、それまで平面で表現されていたふたつの曼荼羅を立体にして、その空間に身を置くことで、伝えたかった密教の世界を感覚的に捉えられるようにしたのではないかと思います」

なるほど、つまりは、思いやりの心があるだけでなく、それを実行するのが仏の世界ということでしょうか。1,200年前に革新的な3Dアートで人々に仏の世界観をみせた空海、すごすぎます。

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奥之院。木立の先が、空海が入定しているという御廟。
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生身供が運ばれる様子。お大師様は今も奥之院で人々のために祈りを捧げています。

そして、3つめのスポットが、空海の御廟がある奥之院です。御廟とは高貴な人の霊を祀る場所だけれど、真言宗では空海は亡くなったのではなく「入定」しているといいます

入定とは、永遠の瞑想に入るという意味。高野山で空海は今も生きていて、人々を救済するために祈り続けているのです。そのため、毎日2回「生身供(しょうじんぐ)」と呼ばれる食事が捧げられています。

「高野山は今もお大師様はおられて、信仰が生きている場所だということを感じてほしい」と金剛峯寺の方。その言葉を聞いた瞬間、すっと何かが心に入って、この場所の "息吹"を感じたような気がしました。

ちなみに、奥之院は街の中心部から少し離れているため、バスで向かうのがおすすめ。参道の正式な入り口は一の橋ですが、ここから御廟までは徒歩約30分。中程の入り口である中の橋でバスを降りれば、御廟まで15分くらいです。

参道には織田信長や豊臣秀吉始め、名だたる戦国武将や高僧などの墓所や供養塔が立ち並んでいます。生身供の時間は6時と10時30分なので、運ばれる様子が見たければ早起き必須です

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東京の展示会ではあり得ない近さ! 高野山霊宝館の特別公開では、凛々しい制多伽童子をかぶりつきで見られて大興奮でした。

高野山の寺院に伝わる貴重な仏像や仏画が収蔵されている高野山霊宝館も仏像好きならずともぜひ訪れてほしい場所です。

ここでは多くの貴重な仏像がガラスケースなしで展示されていて、なんと快慶による躍動感あふれる四天王立像もケースなしの常設展示です。贅沢すぎる......。 

世界遺産登録20周年を記念して、期間限定で運慶による国宝・八大童子像のうち4体と快慶の繊細かつ格調高い孔雀明王像も特別公開されています。特別公開は10月14日までですが、企画展などでお宝が里帰り公開される機会も多いそうなので、ぜひチェックしてみてください。

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高野山にはおいしいものもいっぱいです!

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高野山café雫のオシャレな店内。人気のスポットですが、意外と回転がいいのですぐ座れました。
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高野山精進カレー。ごま豆腐のデザート付き。

東京を朝早く出た目的は、高野山のおいしいものを食べるためでもあります。

2022年にオープンした高野山café雫では、この街のキャラクター「こうやくん」をかたどった最中や、「高野山精進カレー」をチェック! 

精進料理では肉や魚はNGというけれど......とろりとしたルーを口に入れると、ほんのりスパイシーでおいしい! 地場で生産されている山椒が辛味を、富有柿が甘みや旨みを醸しているのだそう。大豆ミートもたっぷり入っていて、まろやかなキーマカレーのようなおいしさです。

2023年にオープンした角濱ごまとうふ総本舗 小田原店」では、塩味、味噌味、白湯風味と3種類のグルテン&アニマルフリーの「高野山ヌードル」がいただけます。

コクのあるスープにモチモチの米粉を使った麺がよく絡む! 大豆由来の白湯風タレをベースに、ごま豆腐の原液でスープをつくっているのだそう。

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濱田屋のごま豆腐。わさび醤油か和三盆をかけて食べられるのですが、どちらも美味!
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フレッシュで繊細なごま豆腐は温度にも非常に敏感で、賞味期限が3日と短いので、まずはイートインでいただきましょう。

明治中期創業の濱田屋」のごま豆腐は必食です。ここのごま豆腐は生身供にも使われています。

皮を丁寧に剥いた白ごまと吉野本葛、高野山に湧く清水のみを使い、製造時には毎回お経を唱えながら心を込めてつくっているそう。

店内で食べることもできます。あぁ、年じゅう食べられるお大師様がうらやましい!

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みろく石本舗 かさ國のやきもちは、手のひらサイズで小腹がすいたときにぴったり。

明治時代に創業した和菓子店「みろく石本舗 かさ國もおすすめ。

ほどよい甘みの粒あんをやわらかい餅でくるんで表面を焼いたやきもちや、くるみの粒が入ってたっぷりきなこがかかったくるみもちなどが有名で、気軽にペロリといただけます。

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創業文化年間(1804〜18年)という歴史あるお店です。
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小堀南岳堂では宝来が購入できます。ポストカードサイズのものと、A3サイズの大判の2種類あり。家に貼ったらご利益がありそう。

食べ物だけではありません。書店兼文具店「小堀南岳堂」では、極楽寺駅で見た宝来をたくさん取り扱っていて、お土産にぴったり

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漢方薬局の小滝弘法堂ご主人夫婦。とにかく親切でいろいろお話しくださいました。
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その名も弘法灸というお灸を発見。1本からバラでも購入できます。

「陀羅尼助丸」「腰専門」「延命仙」......と、強烈なネーミングの薬が並ぶ、漢方薬局「小滝弘法堂」はなんと創業大正13年。自然界の動植物を薬効成分とした、添加物なしの伝統薬を扱っています。

オリジナルの「弘法灸」は、もぐさを紙で巻いた棒状のお灸で、コリや冷え性に効くと女性ファンが多く、高野町のふるさと納税の返礼品にもなっているのだとか! 

さまざまなお店をめぐると、高野山の精神や自然の恵みが日々の暮らしの中に生きているのが感じられます。

ちなみに、高野山の天気は変わりやすく、散策中に激しい雷雨に見舞われました。聞けば、「雨の日は、お大師様が高野山に留まっているため歓迎されているしるし」らしいので、お心をありがたく受け取るためにも、折り畳み傘かレインコートは必携で出かけましょう。タクシーも走っていますが、営業は夕方17時までなので、16時過ぎには呼べなくなる可能性が高いです。

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宿坊で、静謐でイマーシブな修行体験を

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宿泊した一乗院の隅々まで行き届いたお庭。心が洗われます。
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今回宿泊したのは中庭をのぞむ部屋。静かで心地よい時間が過ごせました。

本来、宿坊は修行僧や参拝者のための宿泊施設ですが、高野山では現在、117の寺院のうち51寺が広く一般観光客を受け入れています。

せっかく高野山に来たのだから、僧たちの修行の場である寺院で、自分の仏性と向き合いたい! そこで、今回は金剛峯寺からほど近い一乗院にお世話になりました。

立派な門をくぐると、修行僧がにこやかに出迎えてくれて、おもてなしの心に癒されます。広間は美しい襖絵に彩られているし、日本庭園には色とりどりの鯉が泳いでいます。ほのかにお香も漂って、隅々まで行き届く配慮に清々しさを感じました。

とはいえ、一乗院を始め、宿坊はホテルではありません。受け入れていただいている、という気持ちを忘れずに。お風呂のない部屋もあるし、大浴場の入浴時間も夕方から21時頃までと短めの場合がほとんどです。

ちなみに、一乗院は21時に閉門と門限が決まっていました。それもすべて都会で乱れた体内時計や感覚をリセットしてくれるいい機会です。ありがたく受け入れましょう。

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阿息観を体験。自分の身体も心も全然うまくコントロールできていないのを実感。修行がまったく足りません。

宿坊では「阿字観」を体験。阿字観とは密教の瞑想法で、「自分の中にある仏とひとつになる」境地に至るための修行のひとつ。ただ、いきなり阿字観を実践するのは難しいので、一乗院では入門編である「阿息観」という瞑想法の体験となります。

この日はご住職自ら指導をしてくださり、道場に座布団を敷いて座って姿勢を整え、ゆっくり腹式呼吸から始めます。そして、「ア」の音を唱えながら長く息を吐いていくのですが、これが難しい! 

アは仏を一文字で表す梵字(古代インド文字)の発音で、アの音を唱えながら瞑想することで宇宙との一体感を得るのが究極の阿字観なのだそう。

「修行を重ねた僧でも難しいので、阿息観では雄大な自然を思い浮かべながら呼吸や姿勢を整えてみてください」とご住職。

澄んだ川のせせらぎをイメージして瞑想していくと、一体感とまではいかないものの、日頃の雑念が徐々に抜けて、心がスッキリ整ったような清々しい気持ちになりました。

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目も舌も喜ぶ美しい精進料理。ここにさらににゅうめん、デザート、御飯がついて、予想以上のものでした。
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年に一度の「観月会」に遭遇。貴重な体験ができました。
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月の美しさが心に染みる......高野山ではいろいろな感性が洗われ、覚醒されました。

宿坊の夕食時間は早く、17時30分から。精進料理の美しいこと! 昆布と椎茸の出汁で旨みたっぷりの吸物、アスパラガスや舞茸ソースを添えた菊菜コロッケなど、どれも丁寧で繊細なお料理が並びます。地産地消にこだわった新鮮で優しい素材のおいしさに、箸がどんどん進んで完食です。

ちょうどこの日は中秋の名月で、夕食後に「観月会」と呼ばれる催しが行われました。本堂の軒先にご住職はじめ5名の僧が集まり、声明を唱え始めます。声明とはお経に節をつけたもので、いわば聖歌のようなもの。それを聞きながら月を眺めると、都会と同じ月とは思えないほど、月明かりと雲の描く夜空が美しく、自然のありがたさが心に染みました。そんな年に一度の貴重な体験ができるかもしれないのも宿坊泊の醍醐味です。

朝の勤行に参加することでも、素晴らしい体験ができます。6時になると僧以外は立入禁止の本堂の扉が開かれます。厳かな堂内の見学が終わると、声明や読経が始まります。数名とは思えない深みがある声明の荘厳なバイブレーションが空間を満たすと、昨日の根本大塔で見た曼荼羅の世界と重なるような、密教の深淵な世界観が垣間見えたような気がしました。

「高野山は世界遺産に登録されていますが、決して"遺産"ではなく、今もお大師様の教えが生き続けている場所。死んでから仏になるのではなく、今を精一杯生きることで仏になれる。そうした教えの一端でも感じて帰っていただけたらうれしい」とは住職からのお言葉。まさに、真理をつかれた思いがしました。

高野山に来るまで、密教は少し畏れ多いイメージがあったけれど、実際に見て、聞いて、体験して感じたのは、「懐の深さ」。

立体曼荼羅の中では、思いやりの心をもって人に接していくことの大事さ、奥之院では敵味方も宗派の違いも関係なく、どんな人も受け入れて供養している空間に、「そもそもすべてが混じり合っているのがこの世界だから」というインクルーシブな精神を、そして宿坊体験では正しい自分で暮らす喜びを教えていただいたような気がします。

そんな思いを胸に、高野山との別れを惜しみつつ、次なる聖地・熊野へと向かいます。

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高野山の麓にある世界遺産

高野山の山麓エリアには4つの世界遺産に登録された社寺があります。

丹生官省符神社は、弘法大師を高野山に導くきっかけとなった高野御子大神(狩場明神)が祀られていて、今でも高野山へ歩いて向かう際にお参りをする習わしがあります。

慈尊院は、弘法大師の母公が亡くなるまで過ごした場所です。

丹生都比売神社は、弘法大師が高野山を開山する際、社地の一部を借り受けた場所。こちらも高野山参詣の際は、先に参拝するのが習わしです。

丹生酒殿神社は、丹生官省符神社を経て高野山へ向かう参詣道である三谷坂の起点となる神社で、天照大神の妹・丹生都比売神が降臨した際、初めて神前に酒を供えたことにその名を由来するといわれています。

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かつらぎ町の丹生都比売神社。高野山にお詣りするなら、山麓エリアも忘れずに巡りましょう!

東京発・2泊3日、高野山から熊野へ、聖地巡礼バスの旅。【後編】

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