東京発・2泊3日、高野山―熊野をめぐるスピリチュアルな旅。【後編】
Travel 2024.10.22
和歌山への旅を考えているなら、リアルな旅の様子を記録した「和歌山リアルとりっぷ」をチェック。今回は、『フィガロジャポン』の元エディターが、世界遺産登録20周年の記念すべき年にぜひ現地に訪れたいと、東京発、2泊3日、公共交通を使って初めての高野山―熊野へ。事前に知っておきたい注意点やアクセス、見どころなどもまとめているので、素敵な旅を実現する参考にぜひ。
*記載のデータは2024年10月現在のものです。
聖地巡礼バスで、いざ熊野へ
和歌山の二大聖地である高野山と熊野を一気にめぐるため、1,000m級の尾根に沿って延びる「高野龍神スカイライン」を走ります。今回は「聖地巡礼バス」で移動するので楽ちんです。ただし1日1本の運行なので、くれぐれも乗り遅れないようにご注意を!
なお、高野山の冬は厳しく、路面凍結や降雪もあるため、聖地巡礼バスの運行期間は4月1日〜11月30日(火曜日、水曜日は運休)となっており、冬の運行はありませんのでこちらもご注意を。(*日程は、年によって変更することもありますのでご確認ください)
ちょうど昨晩宿泊した一乗院から歩いてすぐのバス停「千手院橋(東)」を通過するので、ここで10時1分に乗車。あとは、ゆったりと雄大な山の景色を眺めながら高野龍神スカイラインを走るだけ。
途中、紀州の屋根といわれる「護摩壇山」でバスの乗り換えがあり、さらに日本三美人の湯として名高い龍神温泉の旅館「季楽里(きらり)龍神」で40分のお昼休憩があります。館内のレストランでは、定食やカレー、そばなどランチの利用ができますよ。
バスの終点は、熊野本宮大社のある「本宮大社前」ですが、荷物をもちながらの観光はキツイので、今夜の宿泊先からすぐのバス停「渡瀬温泉」で下車。荷物を預けてから再びバスで熊野本宮大社へ向かいます。
熊野エリアでは、路線バスの本数が少ないので事前にチェックを。宿泊先によっては送迎サービスもあるため、うまく活用するのもポイントです。宿を予約するついでに確認しておきましょう。
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「よみがえり」を目指す熊野信仰とは?
さて、今回旅するエリアは「紀伊山地の霊場と参詣道(さんけいみち)」として、世界遺産に登録されているのですが、なぜかご存じでしょうか?
和歌山、奈良、三重の3県にまたがる紀伊山地は、険しい山や神秘的な滝、奇岩などの圧倒的な景観を誇り、古代から畏れ崇められてきました。そんな自然崇拝を原点として人々の信仰を集め、さらに中国から伝来した密教の修行地にもなり、やがて両者や道教が混じり合った修験道も成立。そして、それぞれ熊野三山、高野山、吉野・大峯という3つの聖地(霊場)が異なる宗教を認め合って共存し、それらを結ぶ参詣道も生まれたのです。
それが今も民衆のなかに息づいている、世界でも類を見ない神聖な場所として、2004年に「紀伊山地の霊場と参詣道」として世界遺産に登録されました。
その中でも、熊野は神仏習合の聖地。熊野には「熊野本宮大社」「熊野速玉大社」「熊野那智大社」の三社があり、それぞれ異なる自然崇拝を起源にしていましたが、平安時代後期に仏教と結び付き、熊野権現信仰が生まれています。
権現とは「仏が人々を救うために、神としてこの世に現れた姿」という解釈です。そうして「熊野三所権現がおわす熊野三山」という言葉が表すように、三社は「熊野三山」と総称で呼ばれるようになり、権現が住む地は浄土だと考えられて、鎌倉時代以降、救いを求める人々が列をなして参詣。その様子は「蟻の熊野詣」といわれるほどの一大ムーブメントだったといいます。
そんな熊野への参詣道が熊野古道。京都や高野山などの各地から熊野三山に向かうさまざまなルートがあり、全長なんと1,000km! そのうち200kmが世界遺産に登録されています。聖地へと向かう修行の道だからこそと、あえて険しいルートが選ばれたのだそう!
熊野でよく「よみがえりの地」というフレーズを目にするのですが、辛い道のりを乗り越えて三社に参ることで、心身が浄化されて生まれ変わると信じられてきたからなのです。
熊野速玉大社は前世の罪を清め、熊野那智大社は現世の縁を結び、熊野本宮大社は来世を救済する......つまり、熊野三山をめぐれば、過去・現在・未来の安寧を得られると考えられていました。厳しい時代に生きていた人々が大勢、熊野を目指したのも納得です。
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熊野本宮大社にお参りし、かつての聖地に思いをはせる
ということで、いざ熊野本宮大社へ! 意気込んで車窓から外を見ると、なんと田園風景の中に巨大な鳥居が! まずはこちらに向かうことにしました。
田んぼの中にドーンとそびえるのは、日本一の高さという34mの大鳥居。背後には、こんもり森が広がっています。「大斎原(おおゆのはら)」と呼ばれるこの地は、かつて本宮大社があったところだそう。
明治時代の大洪水で多くの社殿が流されてしまった際に、被害を免れた4社を移築・再建して、現在の本宮大社がつくられました。まわりの田んぼにはかつて熊野川など3つの川が流れていて、本宮大社はその中洲に立ち、能舞台も備える壮麗な境内だったといいます。
大斎原から徒歩5分の高台にある熊野本宮大社へ。石段の参道を上ると、総門の奥に鎮座する檜皮葺の厳かな社殿が現れます。参道は参拝者で賑やかでしたが、境内は神聖な静けさに包まれていました。やはり神様がおわす地なのだと、身が引き締まります。
多くの神様がお祀りされていますが、参拝順序の案内に従ってお参りしましょう。もし熊野古道を歩いて辿り着いたのなら、有り難みの深さも段違いだったはず......。次回はぜひ、歩いた後にお参りしてみたいです。
帰りの参道では、「二つの参詣道踏破達成」の文字が書かれた輪袈裟のようなものを身につけたオーストラリア人グループと遭遇。声をかけてみると、「私たちは両方達成したんだよ!」と、証明書を取り出して、誇らしげに見せてくれました。
「証明書? 何の?」と聞くと、なんでも世界遺産に登録されている二つの道、熊野古道とスペインのサンティアゴ・デ・コンポステーラの両方の巡礼を達成すると、「共通巡礼達成証明書」がもらえるのだそう。すごい!
「人生と同じで険しい道も楽しい道もあったけれど、とにかく瞬間を楽しむことが大切だと熊野は教えてくれたよ。」と深〜いコメントを残して去っていきました。
参拝のあとは、本宮大社内にある「cafe alma」に立ち寄り、自家焙煎コーヒーでひと息。
和歌山県出身の植物学者・南方熊楠にちなんだかわいいパッケージのドリップコーヒーを発見! お土産用にジャケ買いしました。
宮司が筆で書いたという「今年の一文字」をプリントしたものもあって、令和6年の文字は「運」。あげたい人の顔が思い浮かんだので、こちらもすかさず購入。
本宮大社すぐそばの「めはり本舗三軒茶屋 八咫烏長屋店」では、郷土料理の「めはり寿司」や「さんま寿司」のイートイン、テイクアウトも可能。
高菜の浅漬けでおにぎりをくるんだめはり寿司は、素朴でほっとするおいしさ。さんま寿司は、熊野灘の荒波に揉まれて南下したことで余分な脂肪が落ちたさんまを姿寿司にしたもので、あっさり、さっぱりです。
大斎原を眺め、かつてこの地を詣でた人たちに思いをめぐらしながら、おいしくいただきました。
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温泉ステイで大露天風呂と海の幸を堪能!
実は、和歌山は温泉天国。関西で最も多い源泉数を誇り、さまざまな泉質の温泉が楽しめるのです。熊野本宮大社の近隣にも、硫黄泉の「湯の峰温泉」、アルカリ性単純温泉の「川湯温泉」、重曹泉の「渡瀬温泉」と、それぞれ異なる泉質の3つの温泉があります。
今回宿泊した「ホテルささゆり」は広大な敷地に2つのホテルがあり、西日本最大級の大露天風呂を楽しめます。露天風呂は川を挟んだ対岸のため、なんと吊り橋を渡って向かいます。
大露天風呂を洗い場から見渡すと、奥行きが広すぎて全景が見えない! 1つの大きな湯船ではなく、内湯から始まり、段々畑のように独立した湯船が3つ奥へと連なります。手前はかなり熱めで、それが徐々に温度がさがり、一番奥の湯船は人肌に近いぬるめのお湯に。かけ流しの重曹泉は、「美人の湯」と呼ばれるだけあり、お肌すべすべ効果が期待できます。
大露天風呂だけでも満足なのに、それとは別に内湯と家族用の貸切露天風呂もいくつもあって、全部入りきれない! 貸切露天風呂は各々が普通の旅館なら大露天風呂といっていい広さで、先着順かつ無料なので、プライベート感を味わいたい人はこちらもどうぞ。
温泉につかったあとは、テーブルいっぱいに並んだ夕食の会席膳がお出迎え。
海のものは、和歌山最南端の串本港で水揚げされたものだそう。おぉ、伊勢海老が金箔化粧して姿盛りのお造りになっている!
とりわけ大きな車海老の姿揚げは、脱皮したてのソフトシェルなので殻ごと食べられると料理長直々に説明いただきました。
ホテルささゆりでは、季節ごとにメニューを替えているそう。心をこめて作る料理の数々が1年を通して楽しませてくれること間違いないです。
翌日の朝食も、名物の温泉粥や温泉湯豆腐など、滋味あふれる料理に癒やされました。
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かつての皇族気分で、川の熊野古道下り
その昔、上皇や貴族が熊野本宮大社から熊野速玉大社へ巡拝する際に利用したという熊野川の川舟。熊野川も「川の参詣道」として、世界遺産に登録されています。最終日は、そんな熊野川の川舟下り体験からスタート!
チェックアウト後、ホテルの最寄りのバス停「渡瀬温泉」から8時37分発のバスに乗ると、30分ほどで「道の駅熊野川」に到着。一角にある熊野川川舟センターで受付です。
熊野川舟下りは10時発と14時30分発の1日2回あり、今回は10時発を事前予約したのですが、受付は30分前までに済ませてほしいとのこと。
荷物は預かってくれて、降船地の熊野速玉大社近くまで車で運んでくれるのでとっても便利です。なお、12〜2月は川の水量が少なくなるため運航はお休みとなります。ご注意を。
「今日の熊野川はひときわキレイです」と、同乗するガイド役の語り部さん。本当に美しい、深いエメラルドグリーン! 川岸から熊野杉でつくられた川舟に乗船し、全16kmの行程を1時間30分近くかけて下っていきます。
白波を立てて進むと、あぁ、風が気持ちいい! 途中になかなかワイルドな流れのところもあり、思わずはしゃいでしまいました。
熊野の緑の深い山々や滝、火山活動でできた奇岩など、河岸の眺めは変化に富んでいて、途中、舟を留め、鬼の背骨のように見えるので「骨嶋」と呼ばれる岩に上がる時間もありました。語り部さんの説明も楽しく、時間はあっという間に過ぎていきます。
穏やかな流れになるとモーターを止めて、かつてのように手漕ぎで進み、静寂を楽しみながら語り部さんが篠笛を吹いてくれるというみやびな演出も。
今は優雅に楽しめるこの「川の参詣道」ですが、かつては手漕ぎで4時間近くかかったそう。さらに、昔は陰陽道で熊野に行く日を決めていたので、行くとなったら嵐だろうがなんだろうが決行していたのでとても大変だったといいます。でも、こちらの川もやはり熊野古道。旅が困難なほど救いも大きいと信じられていたそうです。
神様の森として手つかずのまま守られてきた、昔ながらのこんもりした熊野速玉大社の森が見えてきたら、いよいよ終点。水路も大きく開けて、視線の先に見えるのは太平洋!
降船地からすぐの速玉大社の前では、預けた荷物を載せた車が先回りして待っていてくれました。
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旅の終わりは、熊野速玉大社と神倉神社で
熊野速玉大社は、朱塗りの華やかな社殿で、周りの緑とのコントラストが鮮やか。境内にそびえるのは、御神木の梛(なぎ)。この梛は樹齢1,000年、高さ20mと日本最大級で、国の天然記念物に指定されています。
参拝後は、お昼ごはんがてら町を歩きつつJR新宮駅へ。新宮の町には、郷土料理からお寿司、洋食店までグルメスポットがたくさん。時間に余裕があるようなら、荷物を観光案内所(無料)かコインロッカーに預けて、徒歩かバスで神倉神社も参拝しましょう。荷物を預けるその理由は......
見上げると遠く、高さ100mはあろうかという崖の上に赤い神殿の神倉神社の姿が!
神社に行く「石段」は、ロッククライミングのように這いつくばらないと上れないワイルドな部分もあり、心が折れそう! しかし、後半は徐々に比較的なだらかな道となるのでご安心を。全538段は、意外と短時間で上りきれて、ものすごい達成感があります。
神殿の横に鎮座する御神体の「ゴトビキ岩」はすごい迫力。熊野の神様たちが最初に降臨したという伝説が残る地なだけあって、さすがです。神様にご挨拶して振り返ると、眼下には太平洋を望む絶景のご褒美がありました。
熊野速玉大社は、近くにある神倉山の巨岩への自然崇拝が原点。神倉神社は元宮、速玉大社は新宮と呼ばれるようになり、このあたりの地名にもなりました。世界遺産登録20周年記念の特別御朱印は、神倉神社のものと併せて、速玉大社の授与所でいただけるので、忘れずにいただいて帰りましょう。
高野山と熊野という2つの聖地をめぐった今回の旅。異なる宗教だけれど、どちらも紀伊山地という大自然を敬い、計り知れない広い心で訪れる人を受け入れていました。だからなのか、畏怖するというより、温かく見守られているような気持ちになり、心穏やかになれた気がします。
次回はぜひとも熊野古道を歩いて、熊野那智大社と那智山青岸渡寺も参拝、熊野三山を制覇してみたいと思います!
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帰路は、新幹線か飛行機をお好みで
帰路は、JR新宮駅または紀伊勝浦駅からJR特急「南紀」に乗車、名古屋に向かい、新幹線で東京に帰るルートと、新宮駅からJR特急「くろしお」で白浜駅に向かい、バスで熊野白浜リゾート空港(南紀白浜空港)に移動して飛行機で帰るルートの2通りがあります。
空港へはリムジンバスも出ていて、15時5分新宮駅発、もしくは15時35分紀伊勝浦駅発に乗ると、18時30分発の羽田空港行き最終便の飛行機にピッタリの時間で到着できておすすめです。
電車、リムジンバス、飛行機ともに本数が限られており、季節によっては電車は特急運行の有無も変わるので、事前にご確認を。臨機応変に帰り方を選びましょう。