東京発・2泊3日、海も温泉も熊野古道も! 南紀よくばりドライブ旅。【中編】
Travel 2024.11.23
和歌山への旅を考えているなら、リアルな旅の様子を記録した「和歌山リアルとりっぷ」をチェック。今回は、雑誌『フィガロジャポン』の元エディターが、東京から飛行機で和歌山県の南紀エリアへ。世界遺産登録20周年を迎えた熊野古道はもちろん、海も温泉も美食もパンダもクジラまでも! 2泊3日で南紀エリアのいいとこどりドライブ旅を敢行。事前に知っておきたい注意点やアクセス、見どころなどもまとめているので、素敵な旅を実現する参考にぜひ。
*記載のデータは2024年10月現在のものです。
世界遺産に登録された「紀伊山地の霊場と参詣道」とは?
2日目は、今回の旅のメインイベントのひとつ、熊野古道デビューをします!
熊野古道は「紀伊山地の霊場と参詣道(さんけいみち)」として、世界遺産に登録されているのですが、なぜかご存じでしょうか?
紀伊山地は、和歌山、奈良、三重にまたがる秘境。険しい山や神秘的な滝、奇岩などの圧倒的な自然を誇り、古代から畏れ崇められてきました。
そんな自然崇拝を原点として人々の信仰を集め、さらに中国から伝来した密教の修行地にもなり、やがて両者や道教が混じり合った修験道も成立。そして、それぞれ熊野三山、高野山、吉野・大峯という3つの聖地(霊場)が異なる宗教を認め合って共存し、各地を結ぶ参詣道も生まれました。
それらがいまも民衆の中に息づいている世界でも類を見ない神聖な場所として、「紀伊山地の霊場と参詣道」は2004年に世界文化遺産に登録されたのです。
その中でも、熊野は神仏習合の聖地。熊野には「熊野本宮大社」「熊野速玉大社」「熊野那智大社」の三社があり、それぞれ異なる自然崇拝を起源にしていましたが、平安時代後期に仏教と結び付き、熊野権現信仰が生まれました。
権現とは「仏が人々を救うために、神としてこの世に現れた姿」だという解釈。「熊野三所権現がおわす熊野三山」という言葉が表すように、熊野の三社は「熊野三山」と総称で呼ばれるようになり、権現が住む地は浄土だとされて、鎌倉時代以降は救いを求める人々が列をなして参詣したのです。その様子は「蟻の熊野詣」といわれるほどの一大ムーブメントでした。
そんな熊野への参詣道が熊野古道。京都や高野山などの各地から熊野三山に向かうさまざまなルートがあり、全長なんと1,000km! そのうち200kmが世界遺産に登録されています。聖地へと向かう修行の道だからこそと、あえて険しいルートが選ばれたのだそう!
熊野でよく「よみがえりの地」というフレーズを目にするのですが、辛い道のりを乗り越えて三社に参ることで、心身が浄化されて生まれ変われると信じられてきたからなのです。
熊野速玉大社は前世の罪を清め、熊野那智大社は現世の縁を結び、熊野本宮大社は来世を救済する......つまり、熊野三山をめぐれば、過去・現在・未来の安寧を得られると考えられていました。
そこで、今日は熊野本宮大社と熊野速玉大社に参詣します。明日は熊野那智大社・那智山青岸渡寺もまわって、三山をコンプリートするぞ!
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熊野古道初心者にも優しい、発心門王子コースを歩く
熊野古道には難易度の異なるさまざまなコースがありますが、今回は人気No.1だという中辺路の「発心門(ほっしんもん)王子〜熊野本宮大社」を歩きます。このコースでは熊野古道中辺路のラストスパート、熊野本宮大社に辿り着くまでを気軽に体験できるんです!
スタート地点の発心門王子へは、ゴールの本宮大社前からバスでアクセスできます。熊野古道を歩くとき、車はどうしたらいい? と迷うかと思うのですが、本宮大社のすぐ向かい側にある世界遺産熊野本宮館に車を停めておけば楽ちんです!
世界遺産熊野本宮館内に事務局をもつ熊野本宮観光協会では、「語り部」と呼ばれるガイドをお願いすることができます。語り部さんは道中を一緒に歩きながら、文化や史跡、熊野古道沿いの王子社、お地蔵さまや小さな草花の紹介などもしてくれるとのこと。今回は、初めての熊野古道歩きということもあり、お願いしてみました。
ちなみに、語り部の人数は限られているので、遅くとも2週間前までには予約してほしいそう。料金は1グループにつき1語り部のプライベート料金がコースごとに設定されています。
毎週日曜・祝日の9時出発で「朝いち語り部」というリーズナブルな団体ツアーもあるそう。こちらも要予約です。
ということで、白浜のホテルをチェックアウトして、本宮大社へ出発。ドライブ時間は1時間20分程度です。
発心門王子のコースは全長約7km。所要時間は普通に歩いて2時間半〜3時間。語り部つきだと3時間〜4時間半とのことなので、お昼には古道歩きが終わるよう、白浜を8時少し前に出て、本宮大社前を9時20分に出るバスを目指しました。1時間に1本程度の間隔で龍神バスが運行しているので、事前に時間を確認しておきましょう。
熊野本宮観光協会で語り部の方と合流して、バスで「発心門王子」へ。バスを降りてすぐ目の前の道が熊野古道なのですが、「そこからではなくて、こっち。この道の先に発心門王子があるのでお参りしてから始めましょう」と早速案内してくださいました。
ちなみに、「王子」とは熊野三山の御子神様をお祀りした神社のこと。かつての熊野詣は命がけの行程だったため、道中の守護を祈願して、古道沿いに多くの社が建てられました。発心門王子は特に格式が高い王子のひとつとのこと。
「道路を隔てた反対側は、熊野三山の神域のはじまりとされる滝尻王子から続く道です。険しいけれど、きれいなんです」と言うので覗いてみると、かなり急で細い坂道! 足元の土からは、杉の根がグニャグニャと露出していて、け、険しい......。「こういう道は、"木の根道"というんです。熊野古道らしい景観ですね」と語り部さん。
不安が頭をよぎるのも束の間、「発心門王子のコースは、半分は集落の舗装道路を通る道で、全体的に下り坂が多いので歩きやすいですよ」と言っていただき、安心しました!
社に手を合わせたら、さぁ、発心門王子のコースをスタートです。
語り部さんの言葉通り、ゆるやかな坂道は、集落を通る舗装道路と両脇に杉木立が茂る土の道が交互に現れて、歩くのが楽しい〜。日差しが強い日でしたが、杉木立に入ると涼しかったのもよかったです。
道端には小さなお地蔵さんがちらほら。医学が発達していなかった昔は、お地蔵さんに治癒を祈願していたそうで、歯痛や腰痛のお地蔵さんなどもあって、なかなかリアル。
腰痛のお地蔵さんは、腰の部分で石が分かれていて、多くの人が治癒を祈ってお賽銭を挟んでいました。お賽銭を置いていった人たちにシンパシーを感じます。
途中、語り部さんが杉林の中にある「森のベッド」に案内してくれました。地元の皆さんが間伐材でつくったという杉丸太のベッドが30以上も点在しているのですが、これは普通に歩いていたら気づかない!
「気持ちいいので寝転んでみてください」と、勧められるままにベッドに横たわり空を見上げると......目の前に広がるのは、青空を背景にした杉の幹と葉の万華鏡! BGMは鳥の鳴き声と木々のざわめきです。深呼吸すると、清々しい森の香りが心身を浄化してゆくのを感じます。最高のリラクゼーションスポットです。
さらに歩を進めると、行程の中間地点、「伏拝(ふしおがみ)王子」に「温泉コーヒー」という魅力的な看板を発見しました。地元のおばさまたちが切り盛りするお茶屋さんで、海外からの多くの旅行者の方がリフレッシュタイムを楽しんでいました。
温泉コーヒーも魅力的でしたが、「手作り しそジュース」というのもソソる......ということで、こちらをいただいたのですが、真っ赤な色がきれいなうえ、甘酸っぱくてめちゃくちゃおいしい! 正解!
古道の後半には、江戸時代につくられた風情ある石畳や石段も現れます。
当時、これだけの石や岩を敷き詰めるのはさぞや大変だったことでしょう。デコボコしているけれど、雨上がりの濡れた場所や草履でも滑らないよう平たい石だけを敷き詰めているそう。だからとても歩きやすくて、昔の人たちの知恵に頭が下がります。
こうして確実に一歩を踏み締めながら歩く時間は、無の境地。頭の中がリセットされてゆく清々しさを感じました。これは都会の生活ではなかなか体験できない!
ゴールの少し手前、「ちょっとより道 見晴台地」という看板が現れたら、迷わずより道を。5分ほど道をそれて歩くと、丘の上で視界がいきなり開けます。はるか遠くに見えるのは、深い森に守られるようにたたずむ美しい大鳥居の姿――。
「大斎原(おおゆのはら)」と呼ばれるその地は、かつての本宮大社があった場所。熊野川など3つの川の中洲に社殿が立ち、能舞台も備える壮麗な境内だったといいます。
しかし、明治時代の大洪水で多くの社殿が流されてしまい、流出を免れた4社を高台に移築・再建して、現在の本宮大社がつくられたそう。
田園風景の中に立つ巨大な鳥居の高さは、約34mで日本一の大きさを誇るといいます。遠くからでも、その姿は実に神々しくて、1,000年以上にわたって数多の人々が歩いてきた参詣道が日本にいまも残っていることを、誇らしく思いました。
よりみちを終え、古道に戻ります。しばらく下ると熊野本宮大社の裏鳥居が見えてきました。鳥居をくぐって「ゴール!」と言いたいところですが、「そっちじゃないです」と語り部さん。ええええ?
「本来の熊野古道は、鳥居の右手に伸びている細い道なんですよ。生垣のゲートから入って、道がなくなったらゴールです」
ゲートをくぐり、肩幅ほどの細い砂利道を辿ると、まるで古の時間を歩いていまに戻ってきたかのような不思議な感覚に包まれました。こうして、3時間の初めての熊野古道歩きは無事終了しました。
正直、苦しい思いはまったくなく、楽しく気持ちよく「よみがえり」できました。次回は違うコースも歩いてみたいです。
語り部さんいわく、熊野本宮大社周辺の2つの温泉地と熊野古道をまわる「大日山周遊ルート」は、休憩に温泉に浸かれておすすめだそうです。
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熊野本宮大社にお参りし、かつての聖地に思いをはせる
熊野本宮大社の敷地に入ると、すぐに檜皮葺の厳かな社殿の姿が。境内は神聖な静けさに包まれていて、やはり神様がおわす地なのだと、身が引き締まります。多くの神様がお祀りされていますが、参拝順序の案内に従ってお参りしましょう。
熊野本宮大社を出たあとは、熊野古道からも見えた大斎原へ。歩いて数分です。実際に近くで見る大鳥居は、あまりに大きくて、神々しくて、胸にジーンときてしまいました。
帰りがてら、ちょうど時間もお昼どきで小腹が空いたので、すぐそばの「めはり本舗三軒茶屋 八咫烏長屋店」で、郷土料理の「めはり寿司」をいただきました。こちら、テイクアウトも可能です。
高菜の浅漬けでおにぎりをくるんだめはり寿司は、素朴でほっとするおいしさ。地元で長年にわたり愛されている味です。
大斎原を眺め、かつてこの地を詣でた人たちに思いをめぐらせながら、おいしくいただきました。
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世界遺産の温泉、「つぼ湯」がすごい!
熊野本宮大社から車で10分ほどのところにある湯の峰温泉の「つぼ湯」は、実際に入浴できる温泉では唯一、世界遺産に登録されているとのこと! ぜひ行かねばと車を走らせます。
つぼ湯がなぜ世界遺産に登録されているのかというと、熊野信仰との深い関わりがあるから。湯の峰温泉は開湯から約1,800年という長い歴史をもち、本宮大社を目指す熊野古道のルート上にあります。
湯の峰温泉は、湯垢離場(ゆごりば)、つまり参拝前に身を清めるための場として栄え、つぼ湯はこの地のシンボル的な存在だったのだそう。そうした歴史的な価値はもちろん、泉質の素晴らしさも格別とのこと。楽しみです。
湯の峰温泉駐車場で車を降りると、早速ほんのり硫黄の匂いが漂ってきました。谷川のあちこちから湯けむりが立ち上っているのが見え、古きよき温泉街の雰囲気がいい感じ。
つぼ湯は先着順で30分交代制です。バス停近くの橋をわたってすぐの湯の峰温泉公衆浴場で受付。番号札を受け取って、何組待ちかがわかるしくみです。
自分の前の番になったら待合所で待機します。順番がきたら、湯小屋の入口に番号札を掛けるのが決まり。川のほとりにある湯小屋の中、世界遺産の温泉は、意外にも2人でいっぱいになりそうな小さな岩風呂でした。
指でお湯にふれるとちょっと熱かったので、水のバルブをひねって加水し、湯かき棒で撹拌。やや白濁した湯船の底からは、ぷくぷくとお湯が立ち上ってきます。そう、ここは川底から温泉が自噴しているのです。
湧きたての新鮮なお湯は......いままでにないぐらい本当に気持ちいい! 飲んだわけでも舐めたわけでもないのですが、全身が「これはいい!」と喜ぶんです! 熊野古道で歩き疲れたあとに入ったら、まさに「よみがえり」だなぁ、としみじみ実感。
谷川のほとりにひときわ高い湯けむりを上げているのは「湯筒(ゆづつ)」と呼ばれる自噴口。湧き出る90度の熱湯を利用して、ここで茹で卵が作れます。近くのお店でネット入りの卵を買って、ちゃぽんとお湯に落として12〜13分待てば、はい出来上がり。地元の人も利用しています。
引き上げた卵を近くの水道で冷まして、茹でたてほやほやを頬張ると、塩なしでもほんのり塩気と温泉の香りがあって、おいしい! ぺろりと2個も平らげてしまいました。
つぼ湯のあとは、熊野速玉大社に向かいます。ちょうど今夜の宿泊先のある那智勝浦町に向かう国道168号からほど近くにあるので、効率的に立ち寄れます。
約1時間のドライブで、熊野速玉大社に到着です。朱塗りの華やかな社殿は、周りの緑とのコントラストが鮮やか。
境内にそびえるのは、御神木の梛(なぎ)。この梛は樹齢1,000年、高さ約20mと日本最大級で、国の天然記念物に指定されています。
熊野速玉大社は、近くにある神倉山の「ゴトビキ岩」という巨岩への自然崇拝が原点。元宮である神倉神社に対し、速玉大社は新宮(にいみや)と呼ばれるようになり、ここ新宮(しんぐう)市の地名の由来にもなりました。
神倉神社は急な石段をロッククライミングのように登ってたどり着く(!)ことで知られる人気のスポットなので、時間があればぜひあわせて立ち寄ってみてください。
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船でしか行けない島の隠れ宿でリトリート
今夜の宿は、熊野速玉大社から車で30分ほどの那智勝浦町にある「碧き島の宿 熊野別邸 中の島」。なんと、勝浦港の桟橋から出る送迎船でしか行けない孤島の温泉宿です。
桟橋沿いの駐車場に車を停めて船で向かうと、入り組んだ海岸線の奥に、熊野灘の荒波が嘘のような、2つの入り江や岩場に囲まれた場所が現れます。そこにあるシックなたたずまいの建物が中の島。まさに隠れ宿といった趣です。
ホテルには露天風呂、貸切露天風呂、大浴場の内湯、露天の足湯がある中で、この穏やかな紺碧の海が存分に堪能できるのが、ホテル自慢の露天風呂「紀州潮聞之湯」です。棚田状に3つの湯船が連なり、手前は洞窟風呂、奥に行くと目の前に波が押し寄せるオーシャンビューの露天風呂になっています。
洞窟風呂では、湧出口からボコボコ音を立てて勢いよく温泉が吹き出しています。中の島では、露天も内湯もすべて源泉かけ流し。島内に6つの源泉があり、1日700トンものお湯が湧き出るのだそう。
ほんのり硫黄の香りが漂うお湯に浸かると、籠もった空間も相まって落ち着きます。硫黄成分と弱アルカリ性の泉質で、美肌&保湿効果があるとのこと。
湯温は海に向かうほどぬるめになっていて、いちばん海側の湯船は、ゆったりくつろげる特等席です。紀州潮聞之湯の名の通り、打ち寄せる波の音を聞きながら、湯船に身体を沈めると、海とつながっているような感覚に囚われます。
時おり遠くに船が行き交うのですが、ご安心を。紀州潮聞之湯は、視界がオープンなので、女性には専用湯浴み着が用意されています。
階段を登ったところには寝湯もあるので、好きな場所でゆっくりリラックスを。紀州潮聞之湯は男女入れ替え制で、女性の利用は15〜24時。チェックイン後に海ビューを楽しんで、夕食後に星を見ながら寝湯というのも素敵です。
今回は、2019年にできた新館「凪の抄」の一室にステイ。琉球畳が敷かれたシンプルモダンな明るい和洋室は、ソファやベッドでのんびりくつろぐもよし、バルコニーには露天風呂が付いているので海風を感じながらのんびりバスタイムもよし。部屋のどこからでも海を感じながらリラックスできます。
夕食は、熊野をテーマにした割烹料理です。青岸渡寺三重塔に見立てた、国産鰻の白焼きは生姜餡でさっぱり。栗ご飯やさつまいものムースなど、秋を感じる献立も並んでいました。とりわけ「熊野 秋の肉尽くし」と銘打った、松阪牛・伊賀牛・熊野牛のブランド牛三つ揃いのしゃぶしゃぶは、どれも上品な脂身が口の中でとろけて幸せなひととき。メニューは季節ごとに変わるので、四季折々の味覚を楽しめます。
熊野古道を歩き、喧騒から離れた宿で「よみがえり」。3日目も南紀の魅力をとことん味わえるよう、ふかふかのベッドでぐっすり寝ることにします。