東京発・2泊3日、海も温泉も熊野古道も! 南紀よくばりドライブ旅。【後編】
Travel 2024.11.23
和歌山への旅を考えているなら、リアルな旅の様子を記録した「和歌山リアルとりっぷ」をチェック。今回は、雑誌『フィガロジャポン』の元エディターが、東京から飛行機で和歌山県の南紀エリアへ。世界遺産登録20周年を迎えた熊野古道はもちろん、海も温泉も美食もパンダもクジラまでも! 2泊3日で南紀エリアのいいとこどりドライブ旅を敢行。事前に知っておきたい注意点やアクセス、見どころなどもまとめているので、素敵な旅を実現する参考にぜひ。
*記載のデータは2024年10月現在のものです。
熊野詣の最終地、熊野那智大社・那智山青岸渡寺へ
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最終日、3日目は午前中に熊野那智大社・那智山青岸渡寺(なちさんせいがんとじ)をめぐり、熊野三山をコンプリートします。朝の9時にホテルをチェックアウトして勝浦港へ。ここから車で約20分で、目的地最寄りの「大門坂駐車場」に到着です。
大門坂といえば、熊野古道の中でも最も美しいとされる石畳の階段が続き、熊野那智大社・那智山青岸渡寺、那智の滝へと歩ける大人気のコース。
往復2時間半から3時間ほどで初心者にもぴったりなコースですが、今回は時間が足りないので少しだけお試し。実は、午後にじっくりまわりたいところがあるのです。
駐車場から民家が並ぶ道を通り抜けて2〜3分歩くと、杉木立に囲まれた大門坂が現れます。これぞ熊野古道といった風景です。ウワサ通りに美しい〜。
人気のコースなだけあって、個人の方から団体、老若男女に外国人の方など、いろいろな方が上っていきました。大門坂駐車場で無料レンタルの杖が借りられるので、2本使いでガシガシ足早に歩くご年配の方もいらっしゃいました。たくましい......。
少しだけ坂を上って大門坂気分を味わったら、記念撮影して足早に車に戻ります。実は、通行料800円を払うと社務所前の駐車場まで車で行けるんです〜。古にはなかった文明の利器を使って5分ほどで一気に那智大社まで上がります。
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熊野那智大社からは、眼下に雄大な熊野の山々が見渡せて、いい眺め。大門坂から上がってくる参詣者の姿も見えました。ここは、那智の滝に対する自然崇拝を起源とする神社で、もとは滝の近くに社殿があったのが、1,700年ほど前に現在地に遷されたのだそう。
まずは、鮮やかな朱塗りの社殿に向かって手を合わせてから、すぐ横の御神木をお詣りします。樹齢約850年という大樟は、根もとの内部が空洞化していて、無病息災などを願って御神木の中を通り抜ける「胎内くぐり」ができるんです。
真っ暗な穴を抜けて眩しい地上に出ると、生まれ変わりを体験したような不思議な気分になりました。
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那智大社と隣接する那智山青岸渡寺(なちさんせいがんとじ)は、那智大社とともに熊野信仰の中心地として信仰を集めた、まさに神仏習合の聖地でした。
それが明治初期の神仏分離令によって別々になり、青岸渡寺は寺院として独立しましたが、今でも熊野三山といえば、熊野本宮大社、熊野速玉大社、熊野那智大社と青岸渡寺の三社一寺なのだそう。なので、ここで熊野三山を正式にコンプリートしました! やったー!
青岸渡寺本堂の後方には三重塔が建ち、那智の滝を望む景観も見えますよ。
青岸渡寺では、11月から1か月間は、世界遺産登録20周年を記念して、普段完全非公開の瀧寶殿が数十年ぶりに開扉されます。国の重要文化財である那智経塚から出土した金剛界立体曼荼羅をはじめ、青岸渡寺の秘宝を見ることができるので、お見逃しなく。
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最後に那智の滝へ。坂道や石段を15分ほど下ります。
到着すると、鳥居の奥に轟音とともに流れ落ちる滝の姿が! 133mという日本でも指折りの落差を誇る滝は大迫力です。滝そのものが御神体とされ、社殿はありません。
命を育む水の流れは神々しさに満ちていて、現代の生活では失いがちな大自然への畏敬の念を呼び覚ましてくれます。
足早にまわること、約1時間。大門坂はちゃんと歩かなかったけれど、それでもかなりの充実ぶりで、人気コースなのもうなずけます。
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紀伊勝浦駅周辺でランチタイム。まぐろとみかんジュースにうなる!
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ランチは、車で勝浦まで戻ります。那智勝浦は、生まぐろの水揚げ量日本一で知られる勝浦漁港がある町。駅周辺には新鮮なまぐろを使ったランチが食べられるお店がたくさんあるんです。
今回は、コンクリート打ちっぱなしのオシャレな空間で、おいしいまぐろをいただけると評判の「熊野のめざめ」へ。もともとこのビルで人気の民宿「まぐろと地酒の宿 民宿わかたけ」を営むオーナーが2023年にオープンしたお店です。
木桶にまぐろの刺身が並ぶ「本日のまぐろ定食」や本まぐろを塩焼きにした「本まぐろトロ塩焼き定食」など、おいしそうなメニューが並びますが、今回は「KUMANOのどんぶり」をいただくことにしました。
那智勝浦の生まぐろを浅くツケたものに、新宮産のしらすがたっぷりのったどんぶりは、上にダイダイを絞って食べるのですが、これがさっぱりしておいしい! 素材が新鮮だからこその味わい。大正解です。
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ダイダイで思い出しましたが、和歌山県といえば、日本のみかんの総生産量の2割を占め、なんと20年連続生産量日本一のみかん王国なんです。
ちょうど紀伊勝浦の商店街に「紀州みかんのソムリエ 中西商店」という気になるネーミングの専門店があったので立ち寄ってみました。
壁一面には種類の異なるみかんの写真が貼られていて、それぞれの特徴が紹介されていました。すべて店主が味見して仕入れた、紀南地方のみかんとのこと。酸味が強いものから甘味が特徴のもの、それらを交配したニューエイジなど、みかんってこんなに種類があったんだとびっくり。
しかもそれもほんの一部で、お店の人いわく、紀南では1年を通じてみかんが穫れるのだそう。ただ、品種によって旬の時期が異なるだけでなく、同じ品種でも生産者によって味は変わるし、同じ生産者のものでも収穫の早い時期には爽やかな酸味、日が経つと甘味が前に出てくるなど味が徐々に変化するので、「今しか味わえないおいしさというのがあるんです」とのこと。
店頭では、旬のみかんだけでなく、お店イチオシの果汁100%ジュース数種類も購入可能。早速、八朔と夏みかんを交配してできた「サマーフレッシュ」のジュースをいただきました。
これが、まるで初夏の爽やかさをそのまま味わいにしたかのような軽やかな酸味がおいしい! 東京でもおいしいみかんジュースは飲めますが、ここまで脳にガツンとくるほどとは思いませんでした。ソムリエ、さすがです!
「果汁100%のジュースは、旬の時期に瓶詰めして、たとえば夏なら酸味の強いものなど、飲んでいちばんおいしいと思う時期に出しているんです。もうすぐ違う種類のジュースに切り替えようと思っていたので、今飲めてよかったですね」とソムリエ。
日本一の産地の実力を見せつけられました。
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美しい自然の中で、自然体のクジラとたわむれる幸福な時間
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午後はさらに南下して、太地町にある「くじらの博物館」へ向かいます。実はここ、今回の旅のクライマックスとして、ぜひ行きたかったところなのです。
もともと日本人は、大昔から富をもたらす神様「えびす」として、クジラを崇めていました。浜辺に打ち寄せられたクジラの肉をありがたい糧とするだけでなく、皮や骨、ひげまで余すところなく利用してきたのです。
それがやがて暮らしのために捕鯨するようになります。江戸時代初期にここ太地で組織的に銛などを使用して捕獲する「古式捕鯨」が開発されました。これは、船団を組んでクジラを囲み、網を絡めてクジラの動きを止めた後に銛を打つという漁法。勇敢で船を操る技術に秀でた熊野水軍の末裔たちが、漁を担ったといわれています。
くじらの博物館では、そんな太地の捕鯨の歴史やクジラの生態にまつわるさまざまな展示がされているだけでなく、クジラ(やイルカ)と実際にふれあえるのです!
クジラ(やイルカ)、と書きましたが、その理由は、博物館の方の一言。「クジラもイルカも一緒なんですよ〜」。えええええ!?
話を聞くと、クジラもイルカもどちらも鯨類に属していて、大人になった時の体長が4m以上のものはクジラ、4m以下のものはイルカと呼ぶのが一般的なのだそう。とはいえ、その区別は曖昧で、だいたいの大きさで便宜的に呼び分けているそう。知らなかった!
博物館のエントランスに入ると、海と山が織りなす景観が美しい天然の入り江が広がります。ここにクジラやイルカがのびのびと自然体で暮らしています。自然環境があまりにすばらしいので博物館の方に聞いてみると、なんと、この辺り一帯は吉野熊野国立公園の一部とのこと。
そんな贅沢なロケーションの中、イルカやクジラたちとのふれあいプログラムが体験できるというので、早速受付をして、まずは「ビーチでふれあい」からやってみることにしました。
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「ビーチでふれあい」は、ウェダー(胴付き長靴)を着用して、トレーナーと一緒にザブザブと海に入ります。もうそれだけで楽しい! トレーナーがベルで合図すると、すぐにすいすいとバンドウイルカのルナちゃんがやって来てくれました!
OKの合図が出たら、ふれあいタイムのスタートです。まずはやさしく背中をナデナデします。ルナちゃんの肌は、長靴のようなキュキュっとした触り心地ですが、ほんのり温かくて哺乳類なんだなぁと実感。イルカの体温は36〜37度と、人間とほぼ同じなのだそう。
背びれや尾びれも掴ませてくれるんですが、こっちは結構固い!
しかしルナちゃん、人懐っこいです。触りまくっても嫌がらず、むしろ向こうから身体をスリスリしてくれるんですぅ。うれしい〜。
15分ぐらい一緒にいたでしょうか。最後は胸びれでバイバイしながら泳ぎ去っていきました。行かないで〜。
クジラやイルカは種類によって性格が異なり、バンドウイルカは人懐っこく好奇心旺盛なのだそう。スジイルカは神経質で臆病なため飼育が難しく、日本で飼育しているのはここだけだといいます。
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続いて、桟橋で餌あげ体験へ。魚をかざすと海中からクジラたちがニョキっと現れます。 出てきたのは、丸っこい頭がかわいいハナゴンドウでした。
珍しい白色の子もやってきたので、ついついその子にひいきめに餌をあげたら、もう大喜び。身体の半分ぐらいまで、ニョキニョキ水面から出てくるではないですか! 餌をあげているこちらも大喜びです!
最後はクジラショーへ。ショーは10時30分、12時30分、14時30分の1日3回。午後の14時30分が最終回なので、そこに間に合うように午前中は急ぎ足だったんです。
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ショーがはじまると、熊野灘に生息するコビレゴンドウ、ハナゴンドウ、オキゴンドウの3種が登場。まず、それぞれのクジラの生態や身体の特徴を説明してくれるのが、さすが博物館のショーという感じ。
それにしても、やっぱりクジラは大きい! 内容は、一般的なイルカショーと同じですが、身体が大きいので、ジャンプひとつとってもダイナミックでものすごい迫力! 大きいのに目の前でくるくるスピンもしちゃうので、観客一同拍手喝采です。
トレーナーのいる台にスルリと上がってきたり、最後に尻尾を振って挨拶したりと、愛嬌もたっぷり。15分があっという間のすばらしいショーでした。
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入り江の奥の海洋水族館「マリナリュウム」では、クジラやイルカたちが水中トンネルの上を泳ぎまわっています。
ここは、お天気の良い日が最高なんです。天井から光が差し込むと、まるで海の中に光の矢が放たれたかのような幻想的な青い世界が見られます。たたずむと、まるでクジラやイルカたちと一緒に海の中にいるかのよう。
白一点、アルビノの白いバンドウイルカが通り過ぎました。名前はスピカちゃん。大人気で、ぬいぐるみがショップで売られるほど、博物館のアイドルになっているんだそう。ぜひチェックしてみてください。
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クジラは「一頭で七浦が潤う」といわれるほど莫大な富をもたらすいっぽうで、捕鯨はつねに命の危険を伴う過酷な仕事でした。
太地の人々は、生活を守るために必要な数だけを捕獲し、やっとのことで捕獲したクジラは町全体で捌いて分け、余すところなく利用し、その恵みを神に感謝するために、慰霊碑を建て、手を合わせてきたといいます。
博物館本館は、そんな400年以上にわたってクジラとともに生きてきた太地の文化を、絵巻、古書、日用品などさまざまな展示から知ることができる貴重な場所。
この地のクジラ文化の根底にある自然への畏敬にふれると、先ほどまでの体験は、ただの楽しいふれあいではなく、クジラへの愛情や畏敬の念を感じるためのプロローグだったのだと実感。
そういう意味でも、くじらの博物館は、とても心に残るものが多いすばらしい場所でした。
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くじらの博物館での心豊かな時間はあっという間にすぎて、もう15時。帰りの飛行機は、18時30分発の羽田行きの最終便のため、南紀白浜空港に向かって出発しなければ。ここから海沿いの道を約1時間30分ドライブです。
途中には、吉野熊野国立公園の景勝地がちらほら。中でも、本州最南端の町・串本町の「橋杭岩」は必見なので、休憩もかねて立ち寄りましょう。ちょうど道の駅「くしもと橋杭岩」の駐車場からこの絶景が眺められるのです。
橋杭岩は、海岸から沖に向かって大小40余りの岩の柱が並んでいて、その名の通り橋の杭のよう。波の浸食で柔らかい泥岩が削られ、硬い部分だけが直線上に残ったのですが、弘法大師が天の邪鬼と賭けをして、一晩で立てたという伝説もあるそうです。
なんと、橋杭岩を間近でぐるっと見られる大迫力のシーカヤックも体験できるとのこと!次の夏のマリンアクティビティはここで決まりです。
2泊3日のよくばりドライブ旅、本当によくまわりました。けれど、和歌山県はまだまだ広し! やれなかったこと、まわれなかったところがたくさん残っているので、それらを含めて、またドライブ旅を計画しようと思います。
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最後にお土産とグルメ三昧の、とれとれ市場にGO!
南紀白浜空港から車で10分ちょっとの場所にある「とれとれ市場」は、漁港直営の海産物と紀州の特産物が並ぶ、西日本最大級の海鮮マーケット。最後にここに立ち寄れば、生鮮食品も手荷物で持ち帰りできます。飲食ブースもあるので、お腹を満たしてから飛行機に乗るのもおすすめです。