築110年の町家を生かした宿で、街が紡ぐ手仕事や物語を体感。【岡山県・倉敷市|撚る屋】
Travel 2025.04.12
予定を詰め込む旅ではなく、籠って楽しめる場所でゆっくりと過ごす。そんな贅沢な旅のスタイルにいま私たちは心惹かれる。土地が紡いできた文化や伝統に、モダンな美意識を反映したデザイン宿で、豊かな時の流れを堪能するステイを。
撚る屋
[ 岡山県 ]倉敷市
古い梁と、染織作家の冨田潤によるタペストリーが調和を生むスイートルームのリビング。
受け継ぎ、調和する。倉敷の暮らしと手仕事と食文化。
白壁の蔵屋敷に、なまこ壁のあしらいが並ぶ岡山県倉敷市の美観地区。中心部から東に進むと"奥倉敷"と呼ばれるエリアに行き当たる。観光客はまばらになり、徐々に濃くなる生活の気配。撚る屋は、そんな倉敷の日常と地続きの場所にある。
もとは明治期に栄えた呉服屋の別邸として建てられた築110年の建築。その古い日本家屋の造りを残しながら、空間デザインをシンプリシティがディレクションし、新旧のエッセンスを融合させた。当時のままの柱や梁、土壁が放つ素朴な温かみ。歪で不規則なガラス戸が落とす儚い影。時の重なりが生み出した情趣がそこかしこに存在し、目や心を和ませる。
ジュニアスイートの内装は、改装時に現れた土壁を大胆に生かしている。
寝室は畳の上に低床のマットレスを置き、布団のような見た目とベッドの利便性を共存させている。
開業にあたり、宿では倉敷の街が紡いできた歴史や伝統を丁寧に紐解いた。館内にはこの地ゆかりの民藝品や、県内の作家による手仕事との出合いも待っている。客室には、宿のために作られた倉敷青木窯の湯呑み、ヤマノネ硝子のグラスなどが置かれ、部屋での寛ぎの時間にも土地の文化が溶け込む。
オリジナルグラスと倉敷本染手織研究所のコースター。グラスは、お土産としても購入可能だ。
丹下直樹が手がけた備中和紙の張り子など、地元の民藝品店で人気の高い作家の作品も空間のアクセントに。
各客室のサインは、倉敷の街や宿にゆかりのあるモチーフを採用。彫刻は髙山瑞が手がけた。
倉敷ガラスなど、地域の工芸品をディスプレイしたレセプションの一角。
倉敷駅から車で約10分。街歩きしながら向かうのもおすすめ。入口のい草のれんは須浪隆貴の作品。
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"料理宿"を名乗る撚る屋では、ぜひ食体験からも風土を満喫したい。和食の名店で経験を積んだ新見文男料理長が、繊細な技を下支えにしたコース料理を提供する。食材の長所を引き出すため、調味料もすべて手作りするほど徹底しているが、地元B級グルメからヒントを得てメニュー開発するなど、遊び心も忘れない。
コースより。熟成させ甘味を引き出した石鯛のお造りに、新見市の養殖キャビアを添えて。塩や醤油も料理長自家製。
蕪のふろふきは柚子をくり抜いた中に入れ、焼き石の上に乗せる演出。ジュッという音とともに香りも広がる。
旨味とコクが絶品の奈義牛のサーロインステーキ。食感のアクセントに、からりと揚げたゴボウを添えて。
人々に暖や食をもたらす"火の座"をテーマに設計されたコの字形のダイニング。寛いだ雰囲気での食事が楽しめる。
併設のワインバーではソムリエのセレクトのもと、岡山のワインをはじめ国内外の銘柄が楽しめる。
宿という枠を超え、土地が持つ物語の語り手として。撚る屋への滞在が、旅を、記憶に残る体験へと導く。
撚る屋
岡山県倉敷市東町2-7
050-5799-4721
全13室 バスタブ付き10室、シャワーのみ3室
スイート1室 ¥205,700~、ジュニアスイート1室 ¥139,700~、メゾネット1室 ¥115,500~、スタンダード 1室¥84,700~(すべて1室2名、2食付き)
https://yoruya-kurashiki.com/
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立ち寄りスポット
ステイの翌日はココへ!
融民藝店
日常使いの楽しみを、民藝の街から発信。
1971年に先代が創業。地元倉敷の作家だけでなく全国の作り手を見いだし、うつわやい草工芸、備中和紙、染織物など、日々の暮らしの中で使いたくなる作品を紹介し続けている。撚る屋に置かれているアートやうつわ類も一部取り扱いあり。
*「フィガロジャポン」2025年3月号より抜粋
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photography: Aya Kawachi