古きよき和華蘭文化を再発見。ほっと落ち着く和のオーベルジュ。【長崎県・長崎市|陶々亭】
Travel 2025.04.17
予定を詰め込む旅ではなく、籠って楽しめる場所でゆっくりと過ごす。そんな贅沢な旅のスタイルにいま私たちは心惹かれる。土地が紡いできた文化や伝統に、モダンな美意識を反映したデザイン宿で、豊かな時の流れを堪能するステイを。
陶々亭
[ 長崎県 ]長崎市
この宿でいちばん広い主屋。当初真っ黒だったL字形の縁側の床板は従業員総出で磨きをかけた。
"和華蘭文化"が息づくノスタルジックな日本邸宅。
ポルトガル・オランダ・中国と、海外貿易で栄えた長崎。かつて貿易のために来航した中国人たちが暮らしていた唐人屋敷跡のすぐ隣、住宅が連なる細い坂道にひっそりと佇むのが、ここ陶々亭だ。1908年に建てられた貿易商の住まいは、戦後まもなく中華料亭陶々亭として姿を変え、晴れの日を祝う大切な場所として約70年もの間ずっと、長崎の人々に愛され続けてきた。惜しくも閉業となった中華料亭は、幼い頃から家族でここを利用し慣れ親しんできたオーナーによって、2023年、名前はそのままにオーベルジュとして再スタートを切ることになったのだ。
長崎空港から車で約40分。グループ会社のタクシーが使える送迎オプションが便利。
建物の改装時に出てきた廃材を利用した扉。
客室は全部で3部屋。中華料亭時代に宴会場とされていた主屋、従業員の控室であった離れ、家財が保管されていた蔵だ。ビイドロガラスのはまった幾何学模様の窓や梁、床板などほとんどが当時のまま。長い歴史のある日本家屋に自然になじむようにと、デザインに普遍性のある北欧家具を置き、日本と中国と西洋の文化が入り混じる長崎ならではの"和華蘭文化"が表現されている。最新設備で利便性ばかりを追求したホテルとは違う、古きよき建物こその味わいと、誰もがほっと心落ち着く懐かしさがここにはあるのだ。
主屋の寝室の窓には防火のために作られたという鉄扉。窓外には長崎の街の日常風景が望める。
蔵をリノベーションしたメゾネットタイプの客室。窓が少ないため静寂に包まれ、お籠もりしたい人にぴったり。桧風呂があるのもこの部屋だけ。
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さらに、ナポリで修業を積んだシェフが腕をふるうオーセンティックなイタリア料理も名物。諫早のイノシシや対馬のアナゴなど、地元食材で構成された五感で楽しめるコースを歴史的建造物の中でゆっくりと堪能したい。
「寒ブリと壱岐オリーブズッパ しゃぶしゃぶ風」はオリーブの実、粉状のオリーブの葉が入る香り高い一品。
サクラチップの燻製の煙とともに袋に閉じ込めた「金目鯛とうちわエビのアクアパッツァ」
長崎市の養鶏場、山の鶏鳴舎による黄身の白い卵を使った自家製のタリオリーニが自慢の「太刀魚とカーボロネロ タリオリーニ」
市内唯一の薪窯でピザを焼く、シェフの高阪二木。翌朝残り火で焼く厚切りのクロックマダムは朝食で。
予約制の個室には中華料亭時代に使われていた緑の円卓が。
陶々亭
長崎県長崎市十人町9-4
095-801-1626
全3室 全室バスタブ付き 主屋1名¥26,500~(1室4名、2食付き)、離れ1名¥26,500~、蔵1名¥24,500~(ともに1室2名、2食付き)
レストラン「HAJIME」
営)11:30~14:00L.O.、17:30~19:00最終入店
休)火、水
要予約
https://www.tototei.jp/
*「フィガロジャポン」2025年3月号より抜粋
photography: Yuichiro Hirakawa