岐阜県の「宝物」とは。
Travel 2022.12.10
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岐阜県のさまざまな魅力を発信し続けている「岐阜の宝もの」プロジェクト。地歌舞伎をはじめ、伝統を守り続けることで存在価値を高める事案を紹介した前回に引き続き、今回は伝統をアップデートして、よりその魅力をパワーアップさせている3つをご紹介する。
お茶が秘める多くの可能性を伝える
中山道の宿場町、中津川で茶をはじめ、栗や柿も育てる市川製茶の6代目、市川尚樹さん。やぶきたを中心に5品種と宇治種由来の在来種を、2018年より殺虫剤、殺菌剤、除草剤を使わず栽培する。日本茶インストラクターの顔も持つ市川さんは現在、大正時代に建てられた養蚕部屋を改装した自宅の一部を「茶亭市川」と名付け、お茶を学ぶサロンとして開放。取材時には煎茶の「宗次郎」、軽焙煎くき茶「中津川棒茶」、そして発酵茶「中津川紅茶」の3種類を用意してくれた。いずれも同じ茶葉から、異なる製法を経て生み出されたものだ。一般的に静岡など日照量の多い地域で取れる茶葉は肉厚で、深蒸しにすることで味わいが引き出される。一方、中津川は寒暖の差が大きいため茶葉が薄く、深く蒸しすぎると粉々になってしまって、結果茶の味が弱くなってしまうのだという。「ですからいまだにこういう昔の手もみに近い製法で作っています。色は淡いですが、旨味と渋味のバランスよく仕上がっていると思いますよ。そしてどのお茶屋さんもそうですが、一煎目の味を目指して仕上げます。それが一番作り手が飲ませたい味。二煎目になると葉っぱが開いてそのお茶の本質、本来の味が出てくるんです」。
また、中津川は栗の産地としても知られており、市川製茶でも現在、えな宝来、ぽろたんなど、近年開発された渋皮が剥きやすい品種も含めて、1100本ほどの栗を栽培している。「地域の高齢化が進んで、面倒を見られないという人から引き受けていたらこんなにたくさんになってしまいましたが、産地として衰退していくのをただ見ているわけにはいかないので」と市川さん。大粒の栗は秋の時期限定で販売されるが、即完売してしまう人気商品なのだとか。そのほか、中津川市内の和菓子屋からの「地元の栗と干し柿で菓子が作りたい」という一言に発奮し、茶園の隅にあった渋柿で干し柿づくりも手がけることに。この干し柿で栗きんとんを包んだ菓子は商品化され、取材時にはお茶受けとして供された。「農家である自分たちが、お客さまにお茶をどう楽しんでもらうか、これまであまり考えてこなかった。まだまだお茶には多くの可能性があるので、それを知っていただくためにさまざまなことに取り組んでいきたいと思っています」
酒造りのストーリーを通じて、地域の活性化を
木曽川を臨み、岐阜県の南部に位置する美濃加茂市で明治時代の創業から酒造りを続ける「御代桜(みよざくら)醸造」。6代目の渡辺博栄さんは、某ビールメーカーでの修行の後、当時29歳で跡を継いだ若き当主だ。地元、岐阜の米を使い、歴史ある酒蔵の伝統を守って作られているのが「御代櫻」。一方、新しい酒造りに挑戦するために立ち上げた「津島屋」という流通限定ブランドも擁している。「創業者が愛知県の津島出身で、津島屋という屋号の団子茶屋をやっていたらしいのですが、それでちょっとした財を成したらしく(笑)。江戸の頃からこの辺りに何軒かあった酒蔵が集約されたところで、権利を譲ってもらって酒造りを始めたと聞いています。津島屋ブランドはそこから名を取りました」。
非常に柔らかい水質を持つ、木曽川の伏流水を使った酒は、口当たりがよく優しい味わいが特徴。技術の向上も手伝って、華やかな香り、フルーティな味わいに進化した日本酒はお客様の支持層を広げた。近年では海外への出荷も増え、円安がそれに拍車をかけて好調なのだとか。一方、コロナ禍によって地元の観光業は打撃を受け、それまで毎年行なっていた地酒をPRするための酒蔵イベントも開催できなくなっているという。「うちの酒が出来上がるまでのストーリーや背景を通じて、地元の魅力をアピールする手助けができたらいいなと思っています。木曽川のきれいな水と良い米があってこその酒ですから」と話す渡辺さん。また、近年では、酒造りにもIT化を取り入れることで、働き方改革も進めているという。タンクや麹の品温をデータで飛ばせるシステムによって、現場に何度も足を運ばずに済み、必ずしも責任者がそこにいなくても指示を出すことができる。また、これまで手書きが必須だった国への申請書類も、近年はそうではなくなったことで作業量はかなり減ったという。「とはいえ今のやり方だと、どうしても冬場は休みが取れないのですが、今年の冬は週に1日は全員が休みを取れる体制にすることが目標です。産業として長く継続していくために、若い人が働き手として定着してもらえるようにすることを考えていかねばなりませんから」。同じ悩みを持つ近隣の酒蔵とも連携し、業界の活性化を図ることで、地域全体も活性化して循環していくことを目指しながら、日々酒造りに取り組んでいる。
アートを介して、過去と未来を繋ぐ場所
最後に紹介するのは、岐阜県の西南端に位置する関ケ原町の中心にある産業機器メーカー「関ケ原製作所」の取り組み。創業者の子息である矢橋昭三郎は、急激な円高によって会社経営が危機に瀕した1980年代に「人を犠牲にすることなく、皆が生き生きと働ける風土を築きたい」という想いを強く抱き、地元で活動するアーティストらと共に美しい「人間村」を形成=「せきがはら人間村生活美術館」をつくることにした。「会社というのはビジネスの場、合理主義な世界なわけですが、そこに文化的な潤いを与えることで、社員はもちろん、地域の人にとってもフレンドリーな場所になることを目指したんです」と説明してくれたのは、せきがはら人間村財団理事長の佐久間康二さん。13万平方メートルという広大な敷地に、社屋や工場のほか「シャインズビル」と名付けられた集いの場、研修などに使う「人間塾」といった社員のための学習スペース、さらには一般の人にも開かれた「せきがはら人間村生活美術館」、「cafe mirai」、「未来食堂」など、多くの施設が配置され、屋外、屋内のあちこちにアート作品を展示。働き手の心を癒し、大自然の中で人間と工業製品、そしてアートが融合する面白さを誰もが体験できる空間を、長い時間をかけて少しずつつくり上げた。
せきがはら人間村生活美術館では、若林奮の作品展を皮切りに、柳澤紀子、杉本準一郎、加藤正嘉など、お世話になったアーティストの展示を手掛けている。生活の中にさりげなく存在する、共に歩む美術というものを理想としており、カフェや食堂を通じて、社員のみならず地域住民がくつろげる場所を追求している。美術を介して過去と未来を繋ぎ、人々が集って語り合える場所となる。事業においても、受け継がれてきた技術を伝承し、匠の技を持つ人材を育成することでよりよい未来をつくることを目指す。伊吹山を望める雄大な自然と工業製品、そこで働く人の姿、そこにアート作品が混ざり合う景観は、きっと多くの人を惹きつける力があり、県を上げての観光誘致にも大きな貢献をすることだろう。
紹介名所:市川製茶
住所:〒508-0011 岐阜県中津川市駒場488−5
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住所:〒505-0042 岐阜県美濃加茂市太田本町3丁目2−9
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住所:〒503-1593 岐阜県不破郡関ケ原町2067 株式会社関ケ原製作所内
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住所:〒509-0123 岐阜県各務原市鵜沼宝積寺町3丁目82−2
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住所:〒508-0011 岐阜県中津川市駒場1649
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