デュヴェルロワの展覧会で知る、扇で告げる I LOVE YOU.
Paris 2013.05.29
大村真理子の今週のPARIS
扇子。その昔フランスではちょっとしたメッセージを伝える小道具でもあった。両目を見せながら扇で顔を隠したら、それはI Love you。片目だけ覗かせたら、それはFollow meというように。劇場の桟敷席のクチュールドレスで着飾ったマダムやマドモワゼルたちが、劇場で客席をはさんで向かいの桟敷に座る若者と、あるいは舞踏会で遠方にいる紳士と、こんなやり取りをしていたのだろうか。
扇言葉を解説するデッサン。左から、後についていらっしゃい、愛しています、お会いしたいわ、婚約してますの。
1827年創業のメゾン・デュヴェルロワは、そんな時代から唯一生き残りっている扇製造アトリエである。英国のヴィクトリア王女を始めヨーロッパ宮廷の御用達メゾンで、その優れた技術と美しいクリエーションは、19世紀後半から20世紀初頭にかけて開催された何度かの世界万博で数々のメダルを獲得した。
(左)昔のショップカード。ヴァンドーム広場にジュエラーが集まり始めた頃、デュヴェルロワもラペ通り15番地に店を構えた。 (右)ロンドンのファン・ミュージアムで開催された「デュヴェルロワ、扇の王様」展のカタログ。
オートクチュールの衰退とともに扇の需要も減っていったわけだが、デュヴェルロワではオーナーが変わろうと、アトリエの型紙、道具類、骨組のデザインなど貴重な財産は大切に引き継がれてきた。2010年、エロイーズ・ジルとラファエル・パナフューという二人の若い女性がメゾンのオーナーとなった時も、しかり。そして彼女たちはこの栄えあるメゾン、失われかけている職人技に再び光を!と休眠状態が続いていたメゾンを活気づけるプロジェクトを多数計画したりと、何とも頼もしいのだ。
有名なクリエーターとのコラボレーションもその一環で、すでにカステルバジャックやナタリー・レテたちが参加。これらはコレットやギャラリー・ラファイエットで販売された。かつて香水などの宣伝用に扇が配られたように、彼女たちもカルティエ、ラコステ、ディオールなどのメゾンが顧客に配る扇などを手がけている。もちろん個人客のスペシャルオーダーも受付ける。小さいながらも扇子の装飾の可能性は限りない。オートクチュールのようにレース、刺繍や彫り物など、様々な手仕事が加えられれば、何千ユーロとちょっとしたジュエリー並みの高級オリジナル扇の誕生である。
(左)貝を着色した骨組みにクジャクの羽根をあしらった19世紀の扇。 (中)鷲の羽が美しい扇。 (右)チュールにスパンコールをあしらった1890年ごろの扇。
現在、アールデコ美術館内の図書館で、デュヴェルロワの小さな展覧会「La Maison Duvelleroy / passé-présent」が開催されている。副題に過去-現在とついているように、メゾンの代表作、オリジナルデッサン、宣伝用の扇といった昔の品から、新作に至るまでを展示。暑いときに扇ぐ実用品としてではなく、ファッションの小道具として見てみると、扇により興味がわくに違いない。
2013年作のEiffelとそのデッサン。
展示より。左の中央は1910年ごろのCafé de Parisの宣伝用扇, 右は1920年ごろのロンドンのリッツ・カールトン・ホテルの宣伝用扇。Musée de la Publicité des Arts Décoratifsが所蔵する貴重なコレクションより。
7月31日まで開催
Bibliothèque des Arts Décoratifs
111 rue de Rivoli
75001 Paris
13時〜19時(月)、10時〜19時(火)、10時〜18時(水〜金)
休)土、日
入場:無料