夏、パリから直行できるプチ・カルチャー・トリップを。#03 パリから45分。藤田嗣治の第二の故郷ランスへ。
Paris 2017.07.24
シャンパン醸造の地、ランス。TGVの本数が少ないのが難なのだが、乗ってしまえばパリの東駅からたった45分という近さである。カフェやレストランで飲むシャンパンの価格はパリでは比べ物にならない手頃さ、という嬉しい街である。
ランスといえば、シャンパン、大聖堂の微笑みの天使(右)、そして藤田嗣治。
来年5月に名古屋と姉妹都市になるランスでは、春から秋にかけて日本文化の紹介企画を幾つか予定している。すでに藤田嗣治(1886〜1968)を介して日本とは密接な関係にある街、ランス。過去、ランス市に藤田から、そして君代未亡人から多くの作品が寄贈され、また今年に入り、多数の作品や資料が遺族から寄贈されている。Musée des Beaux-arts de Reims(ランス美術館)内に来年には240平米の広さの藤田の特別室ができるのだが、今でもすでに彼の珍しい作品を展示している。ここはフランス19〜20世紀の芸術作品をメインにしている美術館で、それほど大きくはないけれど、バルビゾン派、印象派、アールヌーヴォーなど日本人受けする作品を揃えているので、来年を待たずに訪れてみてもいいだろう。
藤田嗣治の部屋。新たな寄贈作品があり、彼の部屋は来年240平米の広さとなる。
1999年に君代夫人から寄贈された1958〜59年の『メカニカル・エージ』


展示作品は絵画のみにあらず。主に子供を題材にしたガラスのペイントや陶器は1965~67年に制作されている。
バルビゾン派カミーユ・コローが描く森が美しい。美術館内、18世紀は明るいブルー、19世紀はブラウン……というように、時代で壁を塗り分けている。
エコール・ド・パリを代表する画家の藤田とランスの結びつきは、彼の晩年に始まる。1955年にフランスに帰化。そしてランスのサン・レミ聖堂で神秘的な啓示を受けた彼は、1959年に大聖堂でカトリックの洗礼を受けるのだ。レオナール・フジタ、これが彼の洗礼名である。“ランスに礼拝堂を建てたい”と願った彼。その願望を当時シャンパンのメゾンG.H.Mumm(マム)の社長で藤田のパトロンであり、また教父でもあったルネ・ラルーが叶えてくれた。ランスでその「平和の聖母礼拝堂」を探すと、駅から徒歩10〜15分くらいの場所にあるG.H.マムの敷地内にみつかるのは、それゆえだ。設計、内装、そして庭の樹木の選択までも藤田自身が担当。地元の名匠シャルル・マルクが製作したステンドグラスも、藤田が聖書に題材を得て描いたものである。漆喰の壁のフレスコ画製作については自ら筆を持ち……その時、彼はすでに80歳となっていた。礼拝堂の完成から2年後にこの世を去ってしまった彼と、2009年に亡くなった妻の君代は今この礼拝堂に眠っている。


藤田自ら筆をとって描いたフレスコ画。礼拝堂内正面の右下には、君代夫人の姿が描かれている。彼とルネ・ラルーの姿は反対側の壁に見つかる。


向かい合う、ぶどうの収穫と七つの大罪のフレスコ画。中世風に緑色を多用した美しいステンドグラスを、著作権の都合で掲載できないのが残念だ。
藤田が設計した礼拝堂の建物と庭。素朴な佇まいだ。
≫ 見ずに帰るのは惜しい、カーネギー図書館の美しさ。
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さて、ランスの観光名所として最も名高いのはゴシック建築のノートルダム大聖堂だろうか。歴代フランスの国王の戴冠式が行われたという聖地でもあり、また西正門入り口の「微笑みの天使」を駅から一直線に目指してくる観光客も少なくないという名所である。では、あまり知られていないけれど、見ずに帰ったら惜しいという場所をひとつ紹介しよう。それは、1928年に開館した市立のカーネギー図書館だ。7年がかりでランスに生まれた珠玉のアール・デコ建築の建物。外観、そして内部のエントランス・ホール、図書室の美しさをぜひとも堪能してほしい。


エントランス・ホール。大理石が美しい四方の壁から天井のライトまで、アール・デコの魅力が満載されている。


ステンドグラスの高窓が3つ並ぶ閲覧室。ここでは静かに見学を。


ランスの建築家マックス・サンソリュによる建物。アール・デコ期の特徴であるエジプトからのインスピレーションも見ることができる。
ところで、ランスの図書館になぜアメリカ人カーネギーの名がついているのだろうか。これには訳がある。第一次世界大戦でランスの街はほぼ大破され、図書館もその被害を免れることができなかった。しかし市には図書館の再建資金はなく……財政援助をしてくれたのが、鉄鋼王アンドリュー・カーネギーが設立したカーネギー国際平和基金だったのだ。それゆえにカーネギー図書館……実のところはフランス語読みしてカルネジー図書館、と呼ばれているが。
来年はここで「フジタと書籍」と題して、本の挿絵家としての彼の仕事を紹介する展覧会が予定されている。彼が挿絵を担当した本の中には、オリジナル版画入りという豪華本もある。年月をかけ藤田の挿絵本の収集を行っているランスのこの図書館は、ジャン・コクトーが日本旅行記をまとめた『Le Dragon des Mers(海龍)』を始め、すでに45冊を入手。昨年、パリのドルオー競売所で、ランス図書館がルネ・エロン作で藤田の挿絵が入った『La Riviere Enchantée(ラ・リヴィエール・アンシャンテ)』を42,500ユーロで競り下したことは、ちょっとした話題となったが、来年の展覧会開催までさまざまなルートを辿って購入をまだまだ続けるそうだ。
8, rue Chanzy
51100 Reims
tel:03 26 35 36 00
開)10:00~12:00、14:00~18:00
休)火
料金:5ユーロ(毎月第1日曜は無料)
33, rue du Champ de Mars
51100 Reims
tel:03 26 35 36 00
開)10:00~12:00、14:00~18:00
休)火、7月14日、10月1日〜5月1日
料金:4ユーロ
2,place Carnegie
51100 Reims
tel:03 26 77 81 41
開)火、水、金 10:00~13:00、14:00~19:00 土 10:00~13:00、14:00~18:00 木 14:00~19:00
休)日、月
réalisation:MARIKO OMURA