エルメス劇場の魔術師、レイラのディスプレイに再会する。
Paris 2017.11.27
フォーブル・サントノーレ通りとボワシー・ダングラ通りの角に建つエルメス第一号店のウィンドウディスプレイを、1978年から35年間作り続けたレイラ・マンシャリ。現在グラン・パレでは、過去のウィンドウディスプレイの8つのテーマを彼女自身が再構成。神秘的な8つのディスプレイを前に、来場者たちがため息をついている。12月3日までにパリに行くことがあれば、ぜひ! 会場はドレープを寄せたカーテンが壁を覆い、劇場に入ったような気分。そのなかを進み、8つの寸劇を楽しむ……そんな感じに構成されている。
エルメス・オレンジのカーテンの前、レイラが1995年春のウィンドウのためにクリスチャン・ルノンシアに依頼した翼の生えた足の彫刻が来場者を驚かせる。旅、神話……レイラが語る夢物語のスタートだ。photo:Benoît Telliet
2人のアーティストが参加したウィンドウ。ペガサスの背に乗った小さな鞍は、もちろんエルメスの鞍職人の手によるものだ。展示されているバッグの素材は、革の両面をなめした天鵞絨のような肌触りが特徴のヴォー・ドブリス。会場での解説者の説明によると、レイラは黄色、紫という色の呼び方は決してしなかったそうで、例えばベージュ2色を説明するときに、濡れた砂、乾いた砂、と表現。このディスプレイはアメジストとシトロネルだそうだ。photo:Mariko OMURA
貝殻、スワロフスキーのクリスタルなどが海底に遊ぶ水の精たちの世界を飾る。貝殻のオブジェを制作したのはトマ・ブーグ。photo:Benoît Telliet
大理石の噴水を、彫刻を施した木のパネルが囲む。中央のバッグ、プリュームはオーガンジー・アーティストのアンジェリック・ルフェーヴルが制作した。photo:Benoît Teillet
チュニジアとパリの美大で学んだレイラがデッサン帳を抱えてエルメスの扉をたたいたのは、1961年のこと。当時ディスプレイを担当していたアニー・ボメルが彼女を受け入れた。「あなたの夢を描いてみせて」と。1978年からレイラが手がけたウィンドウ数は、年4回の変更だったことから単純計算すると140となる。
毎回、レイラが描く夢を物語るため、エルメスの馬具やバッグがアトリエに特注され、そして画家や彫刻家などアーティストたちがオブジェを製作した。海外から取り寄せたオブジェなども含めて、すべてが大切にある場所に保管され……そしていま、再びグラン・パレに。


ケリー、ボリードといったエルメスの有名なバッグもレイラの魔法で特別の素材で登場する。孔雀の羽だったり、化粧漆喰だったり……。


チュニジア、インドネシア、インドなどさまざまな国の細かな職人技が生かされた家具やオブジェ。アンティークを加工したものもあれば、レイラが特注した品もある。


エルメスの馬具工房というオリジンと自然、神話などが織りなすレイラの夢。彼女は魔法のじゅうたんのように縦横無尽に時空を駆け巡る。ディスプレイは全体を眺め、そしてディテールに見入り……じっくりと鑑賞したい。
photos:Mariko OMURA
ファンタジー、エキゾチック、ミステリアス……エルメス第一号店の前を通る人々の心をとらえ、旅をさせたレイラによるウィンドウ。友人の作家ミッシェル・トゥルニエに「魔術王妃」と命名された彼女は、チュニジアに生まれ育った。アラビアの文化、地中海の文化、オリエントの文化が交差する場所で、エルメスのウィンドウを手がけていた彼女の夢はこの地が培い続けていたのだ。
レイラ・マンシャリ。チュニジアで、裕福な弁護士の父と進歩的な母の間に生まれた。クチュール・メゾンのギ・ラロッシュでモデルを務めていた時代もある。 ジャン=クロード・エレナが調香した庭シリーズの第一弾「地中海の庭」にインスピレーションを与えたのは、彼女がチュニジアのハマメットに持つ海辺の家の庭。この庭にはちょっとしたエピソードがある。彼女が10歳の頃にさかのぼる。海を泳いでいるときに海辺の庭に惹かれて、好奇心に導かれるままに彼女は入って行ったのだ。青い睡蓮の咲く池があり椰子やバラなどが植えられた素晴らしい海辺の庭に魅せられた彼女を、家の持ち主のアーティストでボヘミアンなジャン・ヘンソン夫妻は気に入ったのだろう。「ここが好きなら、いつでも好きなときにきていいよ」と。ジャン・コクトー、マン・レイなどを友に持つ夫妻のこの家で、小さかったレイラの中で芸術への興味が開花していったのだ。1970年ヘンソン氏が亡くなった折に、夫妻の精神的な養女のような存在となっていたレイラがこの家と庭を相続した。photo:Carole Bellaïche


グラン・パレの表通りに面し、左手のH扉が入り口。会場内ではレイラ・マンシャリの仕事を紹介する小型本(14×22.6cm/Actes Sud刊)が販売されている。仏版La Rein Mageと英語版The Queen of Enchantementのどちらも36ユーロ。
会期:開催中~2017年12月3日まで
Grand Palais / galerie sud-est, Porte H
Avenue Winston-Churchill
75008 Paris
開)10:00~20:00(金・土 〜22:00)
休)火
réalisation:MARIKO OMURA