モンマルトル美術館では『ヴァン・ドンゲンと洗濯船』展。
Paris 2018.04.25
プティ・パレの「オランダ画家」展でも紹介されているキース・ヴァン・ドンゲン(1877〜1968)。モンマルトル美術館は『ヴァン・ドンゲンと洗濯船』と題して、オランダの画家の中でもモンマルトルにとりわけゆかりの深い彼にフォーカスをあてた展覧会を8月26日まで開催している。
キース・ヴァン・ドンゲンの1911年の『Deux yeux』。大胆にグリーンを顔に用いた実験的作品。個人所蔵なので公に展示されることが少なく、この展覧会で見られるのは貴重な機会なのだそうだ。Courtesy Het Noordbrabants Museum, Bois-le-Duc
モンマルトル、ラヴィニャン通り13番地にあった洗濯船©anonyme_collecion Le Vieux Montmartre
美術館からそう遠くないラヴィニャン通り13番地にあった洗濯船は、貧しい画家たちが多く暮らし、制作活動を行っていた建物の呼び名だ。1907年にピカソがここで『アヴィニヨンの娘たち』を制作したことでも知られている。画家だけでなく詩人や作家たちも出入りし、藝術議論が繰り広げられ、というボヘミアンな溜まり場だった。1905年の終わりから1907年の初めまで、キース・ヴァン・ドンゲンもここに暮らした。まさに洗濯船の最も良き時代である。彼は74歳のときにモナコに瀟洒なヴィラを購入するが、そこを洗濯船と命名していた。若いときに暮らしたボロボロのアパルトマンに対する彼の思いの深さがうかがい知れるようだ。この展覧会は、洗濯船での短期間の滞在が、どれだけ彼の藝術人生に大きな影響を与えたかを見せるものである。
パリに来た当初の作品から展覧会は始まる。サクレ・クール寺院を描いたのは1904年。寺院が完成するのは1914年なので、これは工事中ということになる。
洗濯船時代の作品。左は1906年の『Chinagrani(ダンサー)』。
1899年にパリ暮らしを始めた彼が洗濯船に引っ越すのは、1904年からそこに住んでいたピカソに誘われてのことらしい。ふたりのアトリエは、離れてはいたが同じフロア。ピカソの当時の愛人はフェルナンド・オリヴィエで、ヴァン・ドンゲンには妻と娘ドリーがいて、両家庭は仲良しだった。ヴァン・ドンゲンもフェルナンドをモデルに描くことがあり、この時期ピカソと彼の間には友情、そして競争心があったようだ。ピカソはキュービズムへ、ヴァン・ドンゲンはフォービズムとふたりの道は分かれることになっても、その後の友情に変わりはなかった。
右はピカソとヴァン・ドンゲンが違いに影響を与えあっていた時代に描かれた作品で、ピカソの愛人を描いた『Fernande Olivier』(1907)。左は『パリジェンヌ』(1906〜07)。
『バル・タバランの女レスラーたち』(1908年)。構図がピカソの『アヴィニヨンの娘たち』を連想させる。
ヴァン・ドンゲンは生涯に3度結婚した。最初の結婚で生まれた娘ドリーとフェルナンドの珍しいツーショットも展示。
1949年に描かれたヴァン・ドンゲンによるロラン・ドルジュレスの本の挿絵となったリトグラフを展示。1949年に描かれたもので、上段中央はトロワ・フレール通りのオ・ザンファン・ドゥ・ラ・ビュットに集うヴァン・ドンゲン、フェルナンド、ピカソ、アポリネール、マックス・ジャコブ(左から)。
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社交界の女性たちに愛された画家。
ヴァン・ドンゲンについて、ざっと説明をしよう。オランダのロッテルダムで美術を学んだ彼がパリに来た当時はとても貧しく、雑誌のイラストレーションを描いて生計をたてていた。ポール・シニャックの推薦で、1904年の第20回独立展に出品する。これが彼の画家としてのパリでのデビューだ。1904〜05年にヴラマンクやマティスなど未来のフォーヴ派と出会い、洗濯船時代はシニャックの影響を受けて新印象派のテクニックを用いて、テーマはモンマルトルの夜の光景を多く描いた。洗濯船をでてから彼の被写体のメインは女性。赤、緑、青など激しい色のコントラストと黒い縁取りの強烈な色彩で被写体を描くフォービズム時代があり、その後、色調穏やかな女性の肖像画を多数手がける。1920〜30年代は社交界、上流社会の女性たちから、是非私も描いて!と、リクエストが相次ぐ人気画家だった。その頃彼は17区の個人邸宅に暮らし、1階で定期的に個展を開催していて、そのオープニング・ナイトは当時のパリ社交界の人々の集いの場と化す盛況ぶりだったそうだ。1951年、モナコにヴィラを購入。17区のアトリエで出版物の挿絵など仕事を続け、91歳で亡くなった。
1911年頃の『スペインの踊り子(未来の踊り子)』。1910年、ヴァン・ドンゲンはモロッコとスペインに滞在する。オリエンタルなエキゾチズムにひかれた彼は、色、官能性でその影響を表現。(Montpellier; musée Fabre, dépôt du CCI-Centre Pompidou, Musée national d’Art moderne, Paris)
1920〜30年、ヴァン・ドンゲンはエレガンス溢れるポートレートを描き、社交界の女性たちに愛された。
ヴァン・ドンゲンが描いたブリジット・バルドー。ガリエラ美術館で1964年に開催された絵画展のポスターより。
会期:開催中〜2018年8月26日
Musée de Montmartre Jardin Renoir
12, rue Cortot
75018 Paris
開)10:00〜19:00
無休
料金:12ユーロ
réalisation:MARIKO OMURA