トゥルーヴィル、ドーヴィル、カブールで海浜リゾート。 プルーストに愛されたカブール。ベル・エポックが香る。

Paris 2018.07.31

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プルースト所縁のグラン・オテルヘ。

パリから直行列車が走っていないカブール。トルーヴィル・ドーヴィル駅からローカル線でディーブ・カブール駅まで約30分で着くので、カブールまで足を延ばしてみるのもいいだろう。耳慣れない地名かもしれないが、フランスではよく作家マルセル・プルースト(1871〜1922)の名前と結びつけて語られる。というのも、ここのグラン・オテルで彼が1907年から14年にかけて毎夏を過ごしていたからだ。喘息持ちの彼は療養のため、子どものころから夏はノルマンディーの海辺で滞在していた。カブール近くのウルガットが彼の行き先だったが、1862年に建築されたグラン・オテル改装オープンの広告を見たことで好奇心が刺激されたのか、滞在先を変更したのだ。彼が28歳のときである。現在ホテル内の404号室はプルーストが滞在していた時代のようなインテリアでまとめられ、宿泊客をベル・エポックの良き時代の夢へと誘う。

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1862年に建築されたグラン・オテル。カブール唯一の5つ星ホテルで、2011年に改装された。

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イタリアン・ルネッサンスの特徴を取り入れた建物。外壁にはヴィーナスの貝や、船のロープといった海にちなんだモチーフが見られる。

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エントランスホールでは天井を見上げて! 改装前からのシャンデリアが見事だ。

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地上階のクラシックなバー。

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グラン・オテルのモノグラムGHが至るところに見られる。

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プルーストの時代から変わらぬレストラン。彼は『失われた時を求めて』の中で、このように海岸からレストランで食事をする人々を眺め、まるで水槽のようだと表現している。

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そのレストランから、ビーチを眺める。Le Grand Hotel Cobourg MGallery by Sofitel(Jardin du Casion , 14390 Cabourg)

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4キロ続くビーチを見下ろすバー・レストラン。ストライプのパラソルの下、マリン・ストライプで装ったギャルソンたちにサービスされるランチはどうだろう。カンカン帽が客用に用意されている。

彼の有名な大長編小説『失われた時を求めて』の第二編『花咲く乙女たちのかげに』(1919年出版)中、カブールはバルベックと名前を変えて登場する。この篇の執筆の一部は、このホテルの滞在中に行われたようだ。架空の避暑地バルベックに登場するパリ社交界の人々の別荘や、その暮らしぶりはカブールにインスパイアされたもの。ホテル前の広場には昨年彼の像が立てられた。170cmと当時にしても小柄な彼だが、胸に花をさした三つ揃えのスーツ姿でエレガンスを漂わせている。この広場のホテルに向かって左手の建物は、プルーストの友人のマルセル・プラトヴィーニュが暮らしていた。この友人が、この第二篇のタイトルを提案したといわれている。

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ホテル前に2017年に建てられたマルセル・プルースト像。この縮小サイズの像6体を販売し、その収益でこの像がここに建てられたそうだ。

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広場に面して建つ素敵な建物Villa Argentine(ヴィラ・アルジャンティーヌ)は、シャンブル・ドット&ティールーム。

2019年末から2020年の初頭あたりに、ベル・エポックとプルーストをテーマにした美術館がカブールにオープンする予定だという。プルーストの友人の建築家の邸宅だった建物だが、彼が訪問したかどうかは不明とか。いずれにしてもカブールといったらプルースト。とりたてた名産はないが、プルーストがらみで“プルーストのマドレーヌ”が町のお菓子屋さんで販売されている。これは『失われた時を求めて』で、紅茶に浸したマドレーヌから主人公の子ども時代の記憶が鮮やかに蘇り、物語が広がってゆく……ということが由来だ。カブールのお土産はこれだろうか。

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カブールといったらプルースト。プルーストといったら、マドレーヌ!

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スーツ姿にヒゲ。マルセル・プルーストを模した人物が市内のあちこちに。

カブールもその歴史の始まりは、中世からの小さな農村である。1855年、パリの個人投資家によって避暑地として開発され、発展していったという歴史がある。この農村のあるあたりが裾で、扇型に町が作り上げられている。つまり放射状のすべての道が海とカジノの二点に向かう、という作りだ。放射状の通りの中でも目ぬき通りは、アヴニュー・ドゥ・ラ・メール。1833年にギリシャ神殿にインスパイアされて建築された市庁舎、ノルマンディー地方特有のコロンバージュ建築の家、商店などを眺めて歩くうち、海へと導かれる。

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カブールの目ぬき通り、アヴニュー・ドゥ・ラ・メールの出発点。向かいにツーリスト・オフィスがある。

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57番地のゴシック建築の前で、足をとめてみて。

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アムール、アムール! 愛の子午線。

さて、カブールといったら人々が思うのはプルーストだけに限らない。30年以上続いているカブール・ロマンティック映画祭という話題もある町である。今年は6月13〜17日に開催されたが、期間中は映画上映だけでなく、コンサートや講演会も開催されるのが特徴。この映画祭の一環として、「愛の子午線」というプロジェクトが企画された。世界各地の「愛」という言葉を5大陸ごとにわけて、海岸沿いの歩道に5本の柱を使って電報のように表示するというものである。さらに歩道には104個の“愛”のメダルを埋め込んで……。メダルに描かれている2羽の白鳥はスワン・ドールといって、映画祭のトロフィーをかたどっているモチーフ。ロマンティック・シティと呼ばれるカブールに、トルーヴィル・ドーヴィルでの滞在時、カップルで日帰りしてみては?

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パリで19世紀後半から今も現役で活躍する円柱形の広告塔モリス。その考案者モリス親子はカブールに何度も滞在したそうで、そんな関係から、この愛の子午線にもモリス広告塔のデザインが採用された。

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大陸別に5本のモリス柱が海岸に配置されている。これはアフリカ大陸。

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愛の子午線メダル。ツーリスト・オフィスでパリ造幣局によるメダルを販売しているが、品切れ時もあるので……。

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ロマンティック・シティとして、愛にまつわるもうひとつの話題。海岸のベンチに愛のメッセージをオーダーできるそうだ。バレンタインデーなどが受け付け時期だとか。

●協力
ノルマンディー地方観光局
www.normandy-tourism.org

カブール観光局
www.cabourg-tourisme.fr

カルヴァドス県観光局
www.calvados.fr

フランス観光開発機構
http://jp.france.fr

 

réalisation &photos:MARIKO OMURA

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