レコール ジュエリーと宝飾芸術の学校で学ぶ。その1

Paris 2018.10.12

パリのヴァンドーム広場にブティックを構えるヴァン クリーフ&アーペル。歴史あるこの名前を耳にしたことがない人はいないだろう。このメゾンが広場からすぐの場所に6年前に創設した学校も、ジュエリーファンの間では徐々に知名度をあげている。とてもユニークな学びの場で、宝飾品に対する好奇心だけが入学資格。年齢も問わず、国籍も問わず、もちろんジュエリーの所有数も問われない。来年2月23日から3月8日、東京にこの学校が期間限定で開校するという素晴らしいニュースが。しかも授業は日本語の通訳付きで行われるというのだから、このチャンスは逃したくないものだ。

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講義には、鉛筆とメモパッドが用意され、そして講義後には学校のシンボルマークの妖精がついた黒い布バッグとともに、修了証が渡される。

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ダイヤモンドをピンセットで摘んだり、石をルーペで眺めたり……。©Van Cleef & Arpels

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実技はプロの職人たちのように白衣を着て行う。©Van Cleef & Arpels

レコール ジュエリーと宝飾芸術の学校では、どのような授業が行われているのだろう。練り上げられた豊かなプログラムを紹介する前に、パリの教室がある場所の説明から始めよう。1702年のヴァンドーム広場敷設に伴って開発された一角を走るダニエル・カサノヴァ通り。その31番地に学校を擁する建物がある。18世紀初頭に建てられたこの邸宅でかつて暮らしていたのは、高等法院の議員でワインシャトーのオーナーとしても名高いニコラ・アンドレ・ドゥセギュール侯爵だ。シャトー・ラフィット、シャトー・ラトゥールなどのオーナーだった彼は、ルイ15世から“ぶどうの王様”と呼ばれていたという。そういった背景を知ると、暖炉の装飾にワインの神様の姿が見られる謎も解けるというものだ。そんな邸宅内にヴァン クリーフ&アーペルがサポートする学校……分野は異なれど、卓越が卓越を呼び寄せたといえばいいのだろうか。

この気になる建物は受講生でなくても入れる機会がある。それは後で語ることにし、講義の内容を紹介しよう。学校が開かれた目的はジュエリーの基礎を大勢が学べるためにである。その目的に適う約20のプログラムが用意されていて、何を選ぶかは自由で、また複数のクラスをとるにしても組み合わせは自由だ。

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ダニエル・カサノヴァ通り31番地に所在する学校のエントランス。

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ジュエリーの芸術史の講義はクラシックなインテリアの部屋で。中央のスクリーンの画面に映像を映し出し、講師陣は授業を進める。©Van Cleef & Arpels

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学校内には、学生たちが実習で手がけたジュエリーにまつわる装飾もいろいろ。

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1. ジュエリー職人の実技体験に心を奮い、手は……震え!?

20近い講義内容は3つに大別される。そのひとつ目はサヴォアフェール。宝石職人の手仕事を知るべく、ジュエラーのノウハウを体験するコースである。ジュエリー職人のように革のポケットがついた作業台に座って彼らのように道具を手にすることができるとは、すごいチャンスでは? サヴォアフェールについては8つのクラスから選べるのだが、おそらくひとつのクラスを取ったら、ますます興味が湧いて残り7つのクラスも制覇したくなるに違いない。

6つの段階を経て、誕生するジュエリー。簡単に過程を追うと、デッサンに始まり、石が選ばれ、メタルが加工され、ワックスを象り、石が磨かれ、最後にメタルと石を組み合わせて完成する。こう書くとあっという間だが、私たちがわぁーと目を輝かせて見るジュエリーが生まれるまで合計200時間を要するそうだ。ちなみにインスピレーション、スケッチ、グワッシュが50時間と1/4を占め、残り3/4の150時間がアトリエ作業である。

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デッサン、グワッシュ……ジュエリーひとつが誕生するには、アトリエ作業の前の作業にも時間を要する。©Van Cleef & Arpels

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ストーンセッティング。石の輝きを最大に得るためには、熟練した技が必要とされる©Van Cleef & Arpels

各行程、専門の職人によって駆使されるサヴォアフェール。この学校で、そのいくつかを試せるのである。グワッシュ画、エナメル芸術、模型制作……難しそう、できるかしら、と怯まないで。学校といっても講師陣は優しい指導者で、彼らのほとんどがヴァン クリーフ&アーペルのアトリエで長年の経験を積んだハイジュエリー職人。“黄金の手”の持ち主から技術を学べる学校とは、なんとも贅沢!

8つのクラスから、「ワックスからストーンセッティングまで」を例に説明をしよう。これは4時間コースで定員は8名。ワックスモデリングとセッティング技術を体験する二部構成となっている。最初にハイジュエリーに実際に用いられる様々なセッティング技術について学び、その後、いよいよ職人のように作業台に座ってセッティングの実技へと。工具の持ち方、作業台の座り方について習いたての注意事項を頭に入れて、台座に置かれた石の周囲のメタルを時計の12時、6時、9時といった順に工具で押して石を留めてゆく……単純な作業のように聞こえるのでは? が、これがなかなか大変。力の入れ加減や角度など道具は思うようには言うことを聞いてくれず。これを本物のジュエリー相手に行うとなったら細心の注意を要する極めて繊細な仕事であると、工具を手に握りながら思うことになる。石のはめ込み実技にしても同様だ。メタルに開けられた穴に石をセットするという作業なのだが、石を水平に置くことがどれほど難しいことか。コツをつかむまでゴムを石につけて穴から取り戻し、また石を水平に置くことを試して、と何度もやり直す必要がある。

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革のポケットがついた作業台が並ぶ実技が行われる部屋。

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日ごろ手にしたことのない道具類の使い方も学ぶ。

このセッティングに次いで、実技の第二部はワックスモデリング。各生徒に蝶々のフォルムのワックスが配られる。左羽は石をはめる位置に羽の周囲に沿ってすでに細かく穴があけられていて、生徒たちは時間中、右側の羽と“戦う”のだ。まずは、ハーモニー。右側の羽の厚みやカーブをヤスリを使って左側と同じように成形する。ワックスといっても思ったほどは柔らかくはない。力の入れすぎは禁物だし、力を入れないと削れないし……。隣の受講生は自分より器用かしら、と不器用な人はちょっと気になるかも。その後は、左側の見本に穿たれた石が配置される場所をひとつずつコンパスで間隔を測り、その位置を同じように右側の羽に記し、そして穴を開けるという作業が続く。こうしてあっという間に4時間のクラスが終了する。ひと息つくと次は何を体験してみようか、という意欲が頭を持ち上げるかもしれない。確かなのは、講習を受けた後ジュエリーに向ける視線が変わることだ。言葉で知っていただけのサヴォアフェールをほんのわずかを齧ることで、ひとつひとつのジュエリーに施された繊細な職人たちの手仕事へのリスペクトはより大きなものとなる。

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左手にワックスの蝶、右手にヤスリをもち作業開始。緊張の一瞬だ。

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コンパスを使い、左翼の見本にならって右翼に石を配置する場所を記してゆく

なおワックスモデリングの実技に入る前に、ロストワックスについての説明がある。サルヴァドール・ダリも魅了した、まるで魔法のようなこの手法には長い歴史があり、ジュエリー制作の大切な段階なのだが、言葉だけでは理解するのがけっこう難しい。講習においては 門外漢にもわかりやすいようにとビデオがふんだんに活用され、秘密のテクニックと呼びたくなるロストワックスについても映像付きで解説をしてもらえる。レコールは、広く一般の人にジュエリーの基礎を学べるようにと開かれたもの。こうした目的ゆえに、学校のホームページ中、ライブラリーを開くと、ロストワックスの秘密の他、さまざまなクラスで紹介されるビデオの多数を見ることができる。講義選びにも役立つので、学校に興味のある人は是非サイトのチェックを。

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ロストワックス技法についての説明を聞くと、この不思議に見える道具類が何なのかが理解できる。

次回へ続く。

「レコール ジュエリーと宝飾芸術の学校」日本特別講座
期間:2019年2月23日(土)~3月8日(金) 14日間
場所:京都造形芸術大学 外苑キャンパス
東京都港区北青山1-7-15
申込方法:レコール 日本特別講座 公式ウェブサイトにて受付(12月11日公開予定)
https://jp.lecolevancleefarpels.com/

【関連リンク】
レコール ジュエリーと宝飾芸術の学校で学ぶ。その2

réalisation:MARIKO OMURA

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