実業家サミュエル・コートールドの110点。【アート収集家 1】
Paris 2019.04.01
4年前の開館以来、12の企画展のすべてが成功を収めているフォンダシオン ルイ・ヴィトン。前回の『バスキア』展は好評ゆえに会期を延長し、70万人を集めたほど。6月17日まで開催中の『The Courtauld Collection: A Vision for Impressionism(ザ・コートールド・コレクション 印象派のためのヴィジョン)』展もまた大勢を集めるに違いない。フォンダシオン ルイ・ヴィトンでは個人収集家としてロシアのシチューキンのコレクションを紹介している。公共の美術館の所蔵品と違って、プライベートコレクションはコレクターの美意識や視点がコレクションの軸をなしているのが面白い。
20世紀前半に英国人実業家サミュエル・コートールド(1876〜1947)が収集した作品は、驚くほどの傑作ばかり。コートールドの収集品の寄贈によって主に構成されているロンドンのコートールド・ギャラリーが工事のために2年間クローズする。その間の作品展示の最初の会場として、フォンダシオン ルイ・ヴィトンが選ばれたのだ。
ルノワール、ゴッホ、マネ……。コートールドが集めた珠玉のフランス絵画が見られるのは、パリでは60年ぶり。
会場の入り口で、サミュエル・コートールドのポートレートに迎えられる。photos:Mariko Omura
コートールドは1921年に繊維製造の家業を継ぎ、その翌年から妻エリザベスとともに芸術作品の収集に情熱を本格的に傾ける。1917年にロンドンで開催された絵画展でフランスのアートに刺激を受け、またフランスにルーツを持つコートールド家なので、フランスの印象派、後期印象派の作品を収集した。当時ロンドンではこうした絵画はさほど評価されていなかったし、セザンヌの作品などは軽蔑の対象となっていたほどだったとか……。
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フォンダシオンでは8つのテーマに分けて、地下フロアにて『ザ・コートールド・コレクション』を展示している。テーマはエドゥアール・マネ、風景画、ジョルジュ・スーラ、デッサン、ポール・セザンヌ、ポール・ゴーギャン、フィンセント・ヴァン・ゴッホ、そしてターナーの水彩画という順だ。展示作品は合計110点で、コレクションの中でもとりわけ有名なマネの『フォリー=ベルジェールの酒場』、ゴッホの『耳に包帯をした自画像』、セザンヌの『カード遊びをする人々』といった名作はもちろん含まれている。これまで画集でしか見たことのなかった作品が会場を埋め、それらを近くで鑑賞して得られる感動は印刷物からは得られない 。
エドゥアール・マネの『フォリー=ベルジェールの酒場』(1882年)The Courtauld Gallery, London (Samuel Courtauld Trust)
美術界に話題を醸したマネの『草上の昼食』(1863年頃)。あまりにも有名すぎる作品なので、所蔵者について考えたこともなかった……と思う人もいるのでは? photo:Mariko Omura
クロード・モネ『アンティーブ』(1888年)。The Courtauld Gallery, London (Samuel Courtauld Trust)
ピサロやシスレーの風景画をベンチに座って鑑賞。photo:Mariko Omura
コートールドが1936年に入手したクロード・モネの『サン・ラザール駅』(1877年)も展示されている。photo:Mariko Omura
スーラやマティスのデッサンを集めた一室。photo:Mariko Omura
ポール・セザンヌ『カード遊びをする人々』1892〜96年。The Courtauld Gallery, London (Samuel Courtauld Trust)
ポール・ゴーギャンの版画『ノア・ノア』シリーズ8点(1893〜94年)。photo:Mariko Omura
フィンセント・ヴァン・ゴッホの『耳に包帯をした自画像』(1889年)The Courtauld Gallery, London (Samuel Courtauld Trust)
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展覧会の終わりにコートールド夫妻の居間を再現したスペースがあり、そこでは彼のコレクション収集に美術評論家で画家のロジャー・フライのアドバイスがあったことにもスポットが当てられている。フライは1910年にロンドンで『マネと後期印象派』展を開催し、マネやセザンヌたちの作品を英国に紹介した人物だ。とりわけセザンヌを誰よりも早くから評価していたのが彼である。名コートールド・コレクションの裏には、優秀な美術評論家の視点があったのだ。
収集の最盛期は1923〜29年。エリザベス亡き後、1931年にコートールドが寄贈した自宅とコレクションをもとにコートールド美術研究所が築かれた。現在美術史研究や修復保存のための貴重な機関として知られていて、その付属施設として1932年に開設されたのがコートールド・ギャラリーである。
コートールド家の居間を会場に再現。
左がロジャー・フライ。右はロンドンに画廊を構えていたパーシー・モア・ターナー。パリとコネクションが強く、コートールドがフランス絵画を購入する手助けをした。
会期:開催中〜2019年6月17日
会場:Fondation Louis Vuitton
8, avenue du Mahatma Gandhi
Bois de Boulogne
75116 Paris
開)月・水・木 11:00〜20:00、金 11:00〜21:00(第1金 〜23:00)、土・日 10:00〜20:00
休)火
料金:16ユーロ
www.fondationlouisvuitton.fr/en.html
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réalisation:MARIKO OMURA