ル・ムーリスで『ラ・トラヴィアータ(椿姫)』を味わう。
Paris 2019.09.22
オペラ座350周年を祝う今シーズン。ベッリーニ『清教徒』で9月7日にオペラ・バスティーユは幕を開け、オペラ・ガルニエは9月17日にオペラ『ラ・トラヴィアータ(椿姫)』で幕を開けた。オペラの中でも『椿姫』は人気があり、10月16日まで公演があるものの、チケットはすでに完売している。
オペラ・ガルニエで公演中の『ラ・トラヴィアータ』は、映画監督でもあるサイモン・ストーンが演出する新版。物語の舞台は19世紀ではなく現代に置き換えられている。photo:Charles Duprat/ Opéra national de Paris
南ア出身のソプラノ歌手であるプリティ・イェンデが主人公の第一キャストというのも話題である。なおこの新版で主人公のヴィオレッタは高級娼婦ではなく香水のエジェリーなどを務めるSNSのスターという現代的な設定だ。photo:Charles Duprat/ Opéra national de Paris
せっかく350周年の記念年にパリにいるのだからオペラ座へ、そして一度はぜひ『椿姫』を鑑賞したいと思っても無理……なのだけれど、ホテルのLe Meurice(ル・ムーリス)がすばらしい宿泊プランを用意した。ふたりでスーペリアスイートルームに宿泊し、9月21日(土)か10月4日(金)にオペラ・ガルニエで『椿姫』の舞台をファーストカテゴリーの席で楽しみ、翌朝はオペラの余韻に浸りながらヴェルサイユ宮殿スタイルのサロンで朝食をいただく、というもの。シャンパーニュのボトルが部屋にサービスされ、公演のプログラムもセットされた1泊2,210ユーロからのプランだ。
リヴォリ通りに面したメイン・ダイニングで朝食を。
7月に改装が終わったばかりのスイートルームはチュイルリー公園に面し、眺めも採光も素晴らしい。軽快なエレガンスに寛ぎ感が混じり合うインテリアはため息がでる美しさ。写真はプレスティージュ・スイートの寝室。
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レストラン ル・ダリが提案する特別コースの『椿姫』は、10月16日までの間、ランチあるいはディナーで予約さえすれば自由に味わうことができる。これは総料理長ジョスラン・エルランが、この期間のためにオペラ『椿姫』にインスパイアされて用意したメニュー(130ユーロ/1名)。ジョゼッペ・ヴェルディによるオペラ『ラ・トラヴィアータ』は、実話をもとにアレクサンドル・デュマ・フィスが書いた小説『椿姫』を原作にしていて、1853年に初演されたのはヴェネツィアのフェニーチェ劇場だった。その歴史から料理はヴェネツィアをイメージし、オペラのように3幕で構成されている。ル・ダリの劇場的空間ゆえ、よりドラマティックな食事の時間を過ごせるのも魅力だ。なお第三幕は世界的人気を誇るセドリック・グロレによるクリエイション。オペラのヒロインのヴィオレッタ・ヴァレリーのスタイルにインスパイアされた作品で、10月16日までの期間中、この特別メニューでしか味わえない逸品である。
レストラン ル・ダリ。©pierremouton
プレリュードはヴェネツィア発祥のカクテル、ベッリーニ。甘さが強すぎず、爽やかなピーチの味わいでリビアーモ(乾杯)!
ベッリーニとともに、アミューズの3品を(写真は3人用)。カトリーヌ・ドゥ・メディチがアーティチョークを好んだ、というエピソードが込められている。
第一幕はヴェネツィア風イカのファルシ。テーブルにサービスされるフォカッチャが、ほの苦いグリーンのソースによく似合う。
第二幕は季節の野菜のカーニバルを添えた仔牛の鉄板焼き。
第三幕は“ヴィオレッタ”。スミレ色のドレープの中に、レッドフルーツのコンポートとクリームが隠され、後味にスミレ(主人公ヴィオレッタの名前から)のほのかに香る繊細なデザートだ。見た目では予測できないほどの軽さに、ひと口目から驚かされる。グロレ・ファンなら、これを味わい逃すわけにはいかないのでは? ©pmonetta
ル・ムーリスが『ラ・トラヴィアータ(椿姫)』プランを用意したのは、オペラ・ガルニエに位置的に近いということだけでなく、『椿姫』にまつわるエピソードがホテルの歴史に見つけられるからだ。ホテルが創業したのは1835年。アレクサンドル・デュマ・フィスが1848年に発表した『椿姫』は、作家の実話がベースとなっている。 彼が交際していた女性はマリー・デュプレシス(小説ではマルグリット・ゴーティエ/1824-1847年)という高級娼婦で、洗練された趣味と知性が評価されていた。当時パリの最高級ホテルであるル・ムーリスに、裏社交界の花形であるマリーが通っていたと言われているのだ。こんな背景を知ると、宿泊プラン、『椿姫』メニューが余計に気になるのでは?
réalisation:MARIKO OMURA