ピーター・ヒュージャー写真展、パリっ子の心を動かした!
Paris 2019.11.19
ロエベにより脚光を浴びることになった80年代の写真家デイヴィッド・ヴォイナロビッチ。その彼の師匠にあたるのはPeter Hujar(ピーター・ヒュージャー/1934〜87年)で、その彼が撮影した約150点を集めた初の大回顧展『Peter Hujar Speed of Life』がジュ・ド・ポーム美術館で開催されている。ピーターの作品はパリでは1980年に画廊で小さな展示があっただけというだけなので、これは彼の仕事をまとめて見ることができる素晴らしい機会だ。
横たわるデイヴィッド・ヴォイナロビッチを撮影した『David Wojnarowicz Reclining』 1981年。ピーターは彼に1980年に出会った。© Peter Hujar Archive, LLC, courtesy Pace/MacGill Gallery, New York and Fraenkel Gallery, San Francisco
ピーターは広告写真家のアシスタントとしてキャリアをスタートし、その後5年間「ハーパーズ・バザー」や「GQ」といった雑誌のための写真を手がけたところで、ファッション写真は自分に不向きと確信。自由のない商業写真を放棄し、39歳の時からアーティスト活動に専念する。1970〜80年代のニューヨーク、イーストヴィレッジのアンダーグラウンドを舞台に、作家のスーザン・ソンタグやウィリアム・バロウズ、アーティストのルイーズ・ネヴェルソン、トランスジェンダーのパフォーマーなどを撮影した。ちなみに、1973年に彼がポートレート撮影を始めるアトリエは、1974年に亡くなるアンディ・ウォーホルの“スーパースター”と呼ばれたトランスジェンダーの俳優ジャッキー・カーティスが住んでいたロフトである。なお、展覧会場の入り口ではウォーホルが撮影したヒュジャーの映像を見ることができるので、見逃さないように。
展覧会のエントランス。
『Gay Liberation Front Poster Image』1970年© Peter Hujar Archive, LLC, courtesy Pace/MacGill Gallery, New York and Fraenkel Gallery, San Francisco
『Boys in Car, Halloween』1978年© Peter Hujar Archive, LLC, courtesy Pace/MacGill Gallery, New York and Fraenkel Gallery, San Francisco
『Ethyl Eichelberger as Minnie the Maid』1981年© Peter Hujar Archive, LLC, courtesy Pace/MacGill Gallery, New York and Fraenkel Gallery, San Francisco
---fadeinpager---
展覧会は大きく2パートに分けられる。第一部が時代を追ったテーマ別なのに対し、第二部は動物、風景、ポートレートなどがミックスされた展示だ。これは70点を集めてニューヨークのGracie Mansion Galleryで1986年に開催された存命中の最後の個展の展示法に則ったものである。被写体が人物でも犬でも風景でも身体でも、彼が向ける視線、興味は変わらず。1974年から86年頃までに撮影された写真が並び、これは彼がアーティスト活動をはじめ亡くなるまでの短いながらもオートバイオグラフィー的な展示といえる。第二部から鑑賞を始めるほうが、彼の作品に馴染みのない人にはとっつきやすいかもしれない。
第二パートではテーマがミックスされて写真が展示されている。
風景、犬、人物、ヌード……20点が壁に並ぶ。
第一部の展示は奨学金でニ度訪問したイタリアでの写真を含むアーリーイヤーズに始まり、ポートレート、ニューヨーク、ボディと続いてゆく。初期の写真の中に、母親とその再婚相手が1977年に珍しく彼のロフトにやってきた時に撮影した1点を見ることができる。ピーターは父親を知らず、母は再婚し、祖父母の元で育てられた。母親は彼のホモセクシュアリティを受け入れず、彼は彼女から拒否されたことを生涯許さなかったそうで、彼と母との間の距離を感じることができる写真でほかの人物写真とは雰囲気がまったく異なり、来場者の目を留めている。
彼は1976年にPortraits in Life and Deathを出版していて、序文を寄せたのはスーザン・ソンタグだ。1980年にパリのレ・アールの画廊La Remise du Parcで開催された写真展について、日刊紙ル・モンドが記事にしている。批評を書いたのは作家で1991年にエイズで亡くなることになるエルヴェ・ギベール。“沈黙のクオリティ”と彼の写真を表現したそうだ。作家たちに筆を取らせる写真家の仕事。展覧会場ではインスタ世代の若いパリっ子たちが、ヒュージャーの静謐な世界を前に感動しきりである。
1963年に撮影したパレルモのカタコンベ。彼は死に魅了されていた。
リチャード・アヴェドンが主催したアトリエに参加した際のセルフポートレートの1点、『Nude Self-Portrait, Running』1966〜1967年。アヴェドンは彼に「僕は君の写真のコレクターだから、もし売りたい新しい作品があったら、遠慮せずに電話してくれ」といったそうだ。
犬、牛、羊……彼は動物たちに優しい視線を向けた。『Sheep, Pennsylvania』1969年© Peter Hujar Archive, LLC, courtesy Pace/MacGill Gallery, New York and Fraenkel Gallery, San Francisco
第1パートの展示光景。
ダンサーのシェリル・サットン。『Sheryl Sutton』1977年© Peter Hujar Archive, LLC, courtesy Pace/MacGill Gallery, New York and Fraenkel Gallery, San Francisco
左は1978年から84年にかけ、ピーターが最もよく撮影した被写体である、ドラッグ・パフォーマーのエチル・アイケルバーガー。この写真をピーターは“男性のエチル・アイケルバーガー”と名称したそうだ。
開催中〜2020年1月19日
Jeu de Paume
1, place de la Concorde 75008 Paris
営)11時〜19時(火21時)
休)月
料:11.20ユーロ(『Zineb Sedira、l’espace d’un instant』展、『Daisuke Kosugi, une fausse pesenteur』展共通)
www.jeudepaume.org/index.php
réalisation:MARIKO OMURA