パリの写真展 失われたパリ、いまも残るパリ。写真で旅する1910~37年。
Paris 2020.09.28
『アルベール・カーンのコレクションを散策 パリ1910-1937』と題された展覧会が、トロカデロ広場のシテ建築遺産博物館で始まった。第一次世界大戦前から第二次世界大戦前までのパリを撮影した写真と映像120点以上で構成されている。
富豪の銀行家アルベール・カーン(1860〜1940年)。ブローニュに彼の名前を冠した美術館と日本庭園も含む広大な庭があるので、その名前に聞き覚えがある人もいることだろう。来年の秋には隈研吾による新しい建物がその敷地内にオープンするという話題もある。カーンは1909年にリュミエール兄弟が発明したばかりのオートクローム(カラー写真初期の技法)で世界中の人々の暮らしを記録する『プラネット・アーカイブ』というプロジェクトを私費で始め、10名以上のカメラマンを世界各地に派遣。1929年の世界大恐慌の煽りを受けて数年後に破産の憂き目にあうが、撮影は1937年まで続けられた。結果、72,000枚の記録写真、100時間近い映像が残されることに。
展示会場で映し出されるパリ郊外のブローニュのアルベール・カーンの自宅と日本庭園。
1929年、アルベール・カーンがルイ・ヴィトンに特注した白いクロスが目印のカメラ機材トランク。
1914年にFrédéric Gadmerが撮影したパリ6区、ノートル・ダム・デ・シャン通り。いま、ここはどうなってるだろうかと気になる…… © Département des Hauts-de-Seine.Musée départemental Albert-Kahn. Collection des Archives de la Planète
1914年に撮影された5区ムフタール市場近くのポ・ド・フェール通りの家族。© Département des Hauts-de-Seine.Musée départemental Albert-Kahn. Collection des Archives de la Planète
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この展覧会では、『プラネット・アーカイブ』のために約30年間にわたってパリ市内で撮影された写真、映像をいくつかのテーマに分けて展示している。コダクローム登場以前の淡い色合いの絵画的な魅力を放つオートクロームによる20世紀前半のパリ。アコーディオンの音が似合う時代だ。いまも残るパリもあれば、失われたパリも……会場を歩くだけで自然と古のパリ散策ができてしまう。19世紀後半のオスマン男爵によるパリ改造で大きく変わったパリだが、その際に手のつけられなかったパリにも出合える。ベル・エポック、狂騒の20年代などと題されて見てきたパリの美しいイメージとはかけ離れた庶民の暮らしが記録された写真だ。
1914年にStéphane Passet によって撮影された2区のアレクサンドリー通り、サント=フォア通り、サン=スピール通り。© Département des Hauts-de-Seine.Musée départemental Albert-Kahn. Collection des Archives de la Planète
1920年にFrédéric Gadmerが撮影したマドレーヌ広場のバス停留所。© Département des Hauts-de-Seine.Musée départemental Albert-Kahn. Collection des Archives de la Planète
1918年に記録された映画館の外観。戦時下、劇場や映画館は市民の避難所でもあった。
いまはもう見られない古いパリとの出合い。
「人目を避けて」と題されたコーナーでは、1920年秋にFrédéric Gadmerが撮影したパリ市内の数々の売春宿の写真が展示されている。
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一点ずつじっくり眺めていると時間がいくらあっても足りない展覧会で、エッフェル塔の写真の中には現在オルセー美術館の前に移された巨大なサイの銅像がもともとの場所にまだあって、1920年撮影のオペラ・ガルニエはいまと変わらぬオペラ座で。1924年のセーヌ川の増水、戦時下の建造物の保護、1925年のパリ万博、といった特殊な街の様子に触れることもできる。映像も見逃せない。11月25日のクチュールメゾンにおけるサント・カトリーヌ祭りの陽気な華やぎ、パリを移動する馬車の音、リュクサンブール公園の池で舟遊びをする子どもたち……。
1918年にAuguste Léon が撮影した戦時下のナシオン広場。噴水中央、彫刻『共和国の勝利』が保護されている。© Département des Hauts-de-Seine.Musée départemental Albert-Kahn. Collection des Archives de la Planète
1925年に開催されたパリ万博。クチュリエのポール・ポワレがパヴィリオンとしてアレクサンドル3世橋のたもとに係留した3艘のペニッシュをAuguste Léonが撮影。© Département des Hauts-de-Seine.Musée départemental Albert-Kahn. Collection des Archives de la Planète
1924年セーヌ川の増水をFrédéric Gadmerが撮影。シテ島のヴェール・ギャラン公園がすっかり水に埋まっている。© Département des Hauts-de-Seine.Musée départemental Albert-Kahn. Collection des Archives de la Planète
『プラネット・アーカイブ』のために撮影された写真や映像を、カーンはブローニュの自宅に招いた政治家、文人など限られた人たちだけに見せていたという。この展覧会に来れば、その特権を誰もが味わえる。また2021年秋にはいよいよ隈研吾の建築によるアルベール・カーン美術館が開館する。4ヘクタールの敷地内に立つ2300㎡の建築物で、庭に向かって縁側も取り入れられるとか。『プラネット・アーカイブ』のコレクションがその常設展と企画展で大勢の人々に開かれる日が来るのだ。
会期:開催中〜2021年1月11日まで
会場:Cité de l’architecture & du patrimoine
1, place du Trocadéro et du 11 Novembre
75116 Paris
開)11時〜19時(月、水、金~日) 11時~21時(木)
休)火
料)12ユーロ(常設展共通)
réalisation : MARIKO OMURA