この秋、シャネルとゴッサンスにまつわる2つの話題。 『ガブリエル・シャネル』展、ジュエリーをクローズアップ!
Paris 2020.11.27
www.palaisgalliera.paris.fr
改装拡張工事が終わったパリ市立ガリエラ美術館で、待望の『ガブリエル・シャネル、モードのマニフェスト』展が10月1日に始まった。来年3月14日までの開催だ。これはフランスにおけるガブリエル・シャネルの初の回顧展。新しいエレガンスを提唱した彼女の仕事にフォーカスを置き、約350点の服と小物などが展示されている。美術館では今回の工事で地下にも新たに展示会場が造られ、これまでの2倍にスペースが広がった。従来の地上階はガブリエル・シャネルが第二次世界大戦勃発時にカンボン通りのクチュールメゾンをクローズするまでの展示、そして新しい地下の会場は1954年にメゾンを再開してから1971年に亡くなるまで、という大きな区分がある。
ガブリエル・シャネルが着ていたシャネルのスーツの展示。ネックレスやブレスレットをたっぷり着ける前提で、ジャケットの襟ぐり、袖丈が計算されている。photo : Mariko Omura
ジュエリーなし、ジュエリーあり……一着をさまざまに着こなせるシャネルのスーツ。地下会場の展示より。photo : Mariko Omura
1924年、クチュールメゾンに生まれたファンタジージュエリーのコーナー。
展覧会は時代順そしてテーマによる展示法のミックスで、地下では「装身具の賞賛」と題した部屋で、ハイジュエリーピースも少し交ざるが、メゾン創設時から彼女が亡くなるまでのファンタジージュエリーをたっぷりと紹介している。ドレスやスーツなどのクチュールピースだけでなく、これほどまとまってジュエリーのクリエイションを見られるとは! 彼女がデザインするシンプルな服に対位法的に豪奢に重ねる大量のジュエリー。じゃらじゃらと音をたてそうなチェーン、パールの複数輪ネックレス、手首で存在を主張するカフブレスレット、赤やグリーンのパット・ドゥ・ヴェールの花といった見慣れたジュエリーを含む膨大な量の展示に、彼女が1920年代から大胆で“フェイク”なファンタジージュエリーを提案していたことが見て取れる。本物のジュエリーとこれらをミックスして遊んだ彼女。本物の石を混ぜたファンタジージュエリーもある。自由な発想でクリエイトし、それらジュエリーの着け方も伝統にとらわれることがなかった。
地下のジュエリー展示室。photo : Pierre Antoine
1924年、クチュールメゾン内にファンタジージュエリーのコーナーを設けた彼女。戦前は芸術家を擁護するエティエンヌ・ドゥ・ボーモン伯爵、19世紀からのジュエリーブランドであるグリポワ、イタリア人貴族で宝石商のフルコ・ディ・ヴェルドゥーラ、ヴィクトル・ユーゴーのひ孫で宝石細工のアトリエを持つジャン・ユーゴーなどさまざまなタイプの人々と協力して、彼女は過去に誰も見たことのないようなファンタジージュエリーを提案していたのだ。
左:サファイアやルビーが用いられた1930年代のブローチ「Croix de Malte」。ダイアナ・ヴリーランドが所有していた。右:ロッククリスタルを用いたアールデコ調のネックレスとイヤリング。1925年。photos : Mariko Omura
1928年のプラストロンネックレスとカフブレスレット。photo : Mariko Omura
どちらもグリポワによる1930年代のジュエリー。
鳥がモチーフのネックレスとベルトのバックル。1937〜1938年。
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メゾン再開、ジュエリーはロベール・ゴッサンスとともに。
ジュエリーで最も展示点数が多いのは「Goossens(ゴッサンス)」によるものだ。2005年にシャネルのメティエダールに加わった宝飾アトリエのゴッサンスを創業したのはロベール・ゴッサンス(1927〜2016年)。彼はディオール、バレンシアガ、スキャパレリといったクチュールメゾンのためにもファンタジージュエリーをクリエイトした金銀細工職人だが、最も関係が深かったクチュリエがガブリエル・シャネルである。彼は1950年から自身のアトリエを持つ独立した金銀細工職人だったが、ジュエリーアトリエの「Degorce(ドゥゴルス)」に請われて1953年にシャネルの仕事を手がけることに。4年後ドゥゴルスが亡くなり、彼が後を引き継いだ。若い職人の好奇心と才能はすぐさまガブリエルに認められ、1971年に彼女が亡くなるまでふたりは密接に仕事をした。古代や中世の宝飾品に興味を持っていたロベール・ゴッサンス。こうして、さまざまな文化にインスパイアされた時代を超越したファンタジージュエリーがシーズンごとにクリエイトされていった。
1965年から1971年の間に、ヴェルメイユとマルチカラーのガラスペーストでゴッサンスが制作したブレスレット。Photo:Julien T. Hamon
左:1954年以降、クロスのモチーフはブロンズをはじめ、さまざまな素材でデザインされた。photo : Mariko Omura 右:1960年代にゴッサンスが制作したペンダント。イエローゴールド、トルコ石、トルマリン、パール。photo : Julien T. Hamon
存在感のあるチェーンと異国の文化にインスパイアされたメダルのネックレスは、1970年代にゴッサンスが制作。photo : Mariko Omura
左:ライオンの頭を無数に繋げたネックレスは、1965年から1971年にゴッサンスが制作。右:イミテーションパールを用いたイヤリングとブローチ。1960年頃にゴッサンスが制作。photos : Mariko Omura
ロベール・ゴッサンスのシャネルでの仕事はジュエリーにとどまらなかった。ブロンズなどさまざまなメタルと石の組み合わせに巧みを発揮する彼の腕前をガブリエル・シャネルは信頼。シャンデリアを飾る水晶球を指差して、それで何か作ってみて、と彼女がある時彼に声をかけたそうだ。こうしていまもカンボン通り31番地のクチュールサロンの上階に保存されているガブリエル・シャネルのアパルトマン、彼女が晩年を過ごしたリッツ・ホテルの部屋のために、家具やオブジェを彼はデザインすることになった。
開催中〜2021/3/14
Palais Galliera
Musée de la mode de la Ville de Paris
10, avenue Pierre 1er de Serbie
75116 Paris
開)10時〜18時(火、水、土、日) 10時~21時(木、金)
休)月、12/25、1/1
料)14ユーロ
www.billetterie-parismusees.paris.fr/content?lang=fr
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réalisation : MARIKO OMURA