パリ、インディな高級ジュエラーを目指した女性たち。
Paris 2020.12.15
1996年にマリーエレーヌ・ドゥ・タイヤックがプレシャスストーンを用いたカラフルなジュエリーのブランドを創立した。女性たちに受け入れられる、女性による女性のための現代的な高級ジュエリーブランドの先駆けが彼女だろうか。貴金属をメインにしたコンテンポラリーなジュエリーブランドをシャルロット・シェネがスタートしたのは、2015年である。その間、手頃な価格のアクセサリーを提案するブランドはいくつも生まれたけれど、ジュエリーについては動きが鈍かった。
気がつけば、パリではいま、若い女性による高級ジュエリーブランドが活発な動きを見せている。国際的に知られた老舗のメゾンでは見つけられない、個性的なクリエイション。スタイルも価格帯もさまざまだが、共通するのはサヴォワールフェールへのリスペクトがあり、皆宝石のようにきらきらと仕事への情熱で輝いていることだ。その中から、5名の“ジョワイエール(女性ジュエラー)”たちを紹介しよう。
Flav Paris(フラヴ・パリ)-驚きに満ちたエシカル・ハイジュエリー。
Flavie Paris(フラヴィー・パリ)。ヴァンドーム広場近く、スペシャルオーダーも受け付ける2区のアトリエにて。
パリのジュエリー校BJOP(現在のHaute Ecole de Joaillerie)出身のフラヴィー・パリ。彼女はカルティエのアトリエで4年働き、その後香港のジュエラーMichelle Ongでクリエイションディレクターを務めている。パリに戻った2015年にジュエリーブランドFlav Parisを設立した。ヴァンドーム広場の高級宝石商たちと同じように、デッサンから仕上げまで、すべての工程を手作業で行うジュエリー作りを彼女はパリの2区に構えたアトリエで行っている。
ファーストコレクションは「Paris by Paris」。愛する街と自身のファミリーネームを掛け合わせた 彼女にとって大切なジュエリーたちで、ルーヴル宮、エッフェル塔といったパリのロマンティックな名所にインスパイアされたものだ。このほかにも植物、建築、絵画、思い出……とフラヴィーのインスピレーションはさまざま。また、ソルボンヌ大学で5年間学ぶほど古代文明に深い愛情を注ぐ彼女は、エジプトの第17王朝の石碑から創造へと導かれてコレクションDivine Antiqueを生み出した。ジュエリーをロストワックス法で制作するのも、この技術が古代エジプトで開発されたことに由来するそうだ。
コレクション「Paris by Paris」より。左:リング「Secret Dévoilé Sunset」1,820ユーロ 中:ピアス「Fais-moi danser, toute la vie」(ブラックゴールド×レッドスピネル×ダイヤモンド)1,450ユーロ 右:リング「Rainbow, déclaration de couleurs.」(YG×ブラックゴールド×ダイヤモンド×エメラルド×サファイア×スピネル)6,720ユーロ。オンラインショップでは各ピースについてオーダーから完成までの必要日数も明示されている。
左:リング「Louxor」(YG×シトリン×ダイヤモンド×エメラルド)10,000ユーロ 中:ネックレス「Nefer」 右:ネックレス「Danseuse Antique」(YG(チェーンを含め)×ダイヤモンド)
ダイヤモンド、ゴールドなど彼女がジュエリーに用いる素材はノーブルなものばかり。ダイヤモンドはキンバリー・プロセス証明のダイヤモンドのみを使用し、またゴールドについては18カラットのリサイクルゴールドを。それもパリの複数のアトリエから回収され、エコロジックな方法で再精製されたものに限っている。そのほかの素材についてもパリ市内で調達。このように省エネを心がける彼女はアトリエでも3Dプリンターを用いることもしない、と徹底している。
最新の話題はLe Diamantaire(ル・ディアモンテール)とのコラボレーションだ。道端で拾った鏡をダイヤモンド形にカットして彩色したものを建物の外壁に貼り付けるストリートアートをル・ディアモンテールは世界各地で続けている。ダイヤモンドが両者を結び付け、コレクション「Chic & Bling」が生まれた。紋章形リングとペンダントがあり、どちらも限定販売品だ。
Flav Paris × Le Diamantaireのコラボレーションによる「Chic & Bling」。シルバー、ヴェルメイユ、ホワイトゴールド、イエローゴールドのバージョンがある。左から、ペンダント850ユーロ〜。 紋章形リング1,200ユーロ〜
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Dangleterre(ダングルテール)-意外性と奇抜さのあるデザインを日常に。
Ségolène Dangleterre(セゴレーヌ・ダングルテール)。ナント市でデザイン&アートを学んだ彼女は、以前はデザインエージェントを主宰していた。
セゴレーヌ・ダングルテールが自分の苗字をつけたブランドを創設したのは2019年。リセ卒業後アート&デザインの高等師範学校で学んだ彼女は、デザイン畑で仕事をするうちに、プレシャスなオブジェのコレクションを生み出したいという欲が湧いて……パリのHaute Ecole de Joaillerie校にてジュエリー作りを学び、アトリエを設けたのだ。
ジュエリー界出身ではないことは彼女にとっての利点で、コードにとらわれず、自由にクリエイトできる 。「いまの時代、環境問題に留意せずにジュエリーをクリエイトすることはできません」と彼女は語り、使用するのは18カラットのゴールドだが、リサイクルゴールドに限っている。それを自然界からの恵みである貴石、半貴石と組み合わせて彼女がクリエイトするジュエリーは、ボリューム、色合わせなどがコンテンポラリーで奇抜でとても個性的だ。デザインの仕事をしている時と同様、彼女は日常と非日常の境界線をとっぱらったジュエリーを追求しているという。
左:リング「Régente」(オニキス×イオライト×YG)3,800ユーロ 中:独特な丸みを帯びたジュエリーたち。 右:リング「Favorite 1」(オニキス×トルマリン×YG)5,500ユーロ
左:リング「Villa Esperada」(コルナリン×ブルーサファイア×YG)2,800ユーロ 中:珍しいプレシャスストーン、珍しい色石合わせ……。 右:リング「Les grandes orgues」(YG×オレンジサファイア)900ユーロ
ブランド誕生とほぼ同時に、彼女は現代アーティストのMathias Kiss(マチアス・キス)とのコラボレーションを進行。彼はパリではアーティスト活動と並行して、エルメスやブシュロンといったラグジュアリーブランドの展示会の会場構成も手がけていて、彼女とは15年来の知り合いである。彼のデザインを彼女が制作するという共同作業から生まれたのはオブジェリング「90 Degrés」。各ピースにマチアス・キスのサインとナンバリングが刻まれている限定コレクションだ。
コラボレーション「90 Degrés」のリング3型。素材はシルバーとブロンズの2種で、価格は同じ。1,500〜3,000ユーロ。コンテンポラリーアート・ジュエリーの販売で名高いKarry Gallery(18, rue de Lille 75007 Paris)にて販売中。photos : David Zagdoun
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Statement(ステートメント)-グラフィックでパワフルなジュエリーで自己表明。
Amélie Huynh(アメリー・ヒューン)。香水メゾンD’Orsayのオーナーでもあるビジネスウーマン。
今年10月1日にフラッグショップをオープンしたステートメント。クリエイティブディレクションを務めるアメリー・ヒューンが2018年に創立したブランドである。ジュエリーは装身具というより防御具。これを信条とするブランドが提案するのは、ブルータリズム、アールデコ、パンクにインスパイアされたハンドメイドジュエリーだ。現在コレクションは6つ。シルバーとダイヤモンドが組み合わされたストレートなラインの幾何学的な力強いデザインで、身に着ける女性の自由宣言となるジュエリーである。
左:リング「Stairway」3,800ユーロ 中:リング「Rock Away_09」(SLV925)795ユーロ 右:リング「Anyway」(PG×ダイヤモンド)2,500ユーロ
左:リング「Myway」(SLV925×ルビー)2,900ユーロ 中:ブレスレット「Unchained」(SLV925)1,250ユーロ 右:リング「Rock Away」(SLV925×ダイヤモンド)4,900ユーロ
左:イヤリング「Stairway」(片耳用4.6cm〜)1,480ユーロ 中:イヤリング「Rock Away」(片耳用)980ユーロ 右:イヤリング「Stairway」(片耳用)1,495ユーロ
ステートメントのブティックは、主張を持つジュエリーという宝物を守る砦、というイメージでデザインされた。従来のジュエリー・ブティックとは大きくかけ離れ、驚きに満ちたシンプルでフューチャリスティックな空間。しかも、ここで女性アバターAlyhが暮らしているという設定である。内に秘められたパワーの強さを象徴する存在の彼女は、ブティック内で日々変貌を遂げてゆくという。
ブティックは巨大なスクリーンを備えたデジタルワールド。内装はAgathe Labaye Architectureに任された。photo : Quentin Lacombe
アバターはRégis Tosettiのディレクションの下、Thomas Traumがクリエイトした。©Statement_Thomas Traum
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Ladame(ラダム)-注文を受けてから、ひとつひとつ手作りする職人仕事。
Esther Ladame(エステール・ラダム)。モード界から転身してインディー・ジュエラーに。
コンセプトを考え、デザインをし、プロトタイプを製作して、という準備を2019年に進めたエステール・ラダム。今年の始めにブランドLadameを設立し、サイトを立ち上げ、アトリエを見つけ……6月から販売を開始した。
ランバン、エリー・サーブのデザインスタジオで仕事をするうちに、1から10までを全うできる独立した職人になりたいという夢が芽生えたそうだ。そしてHaute Ecole de Joaillerieに学び、最初の1年でジュエラーとしてのCAP(職業適性証)を得た。そして次の1年で石の扱い、次いでロストワックス法の技術をマスター。彼女はアルチザン・ジュエラーと自らを称している。
エステールのアトリエ。ロストワックス法でジュエリーを制作する。
ルネッサンス、アールヌーボー、アールデコなどが彼女のインスピレーション源。現在、3つのコレクションがあり、どれも貴金属がメインだ。スターリングシルバー950、ゴールドは18カラット。ヴェルメイユは950シルバーに18カラットゴールドを使用。貴石をあしらったジュエリーについては石のセッティング師に依頼しているが、基本的に彼女がアトリエでひとりで制作する。テクニックは主にロストワックス法だ。受注制作方式をとっていて、注文から2週間前後で完成させる。これは無駄を出さないようにするためであり、また変更の希望にも応じることができるという理由から。実際にジュエリーを見てから注文したいという場合、アポをとってパリ2区のアトリエへ。
コレクション「Sculptures Florales」より。左:ネックレス「Sultant」(G)990ユーロ 中:イヤリング(サファイア×ヴェルメイユ)1,100ユーロ 右:リング「Liane」(ヴェルメイユ×SLV)380ユーロ
コレクション「Les Vanités」より。左:リング「Narcisse」(G)1,790ユーロ 中:ペンダント「Vénus au miroir」(SLV)590ユーロ 右:リング「Psyché」(G×ダイヤモンド)1,990ユーロ
左:最初のコレクション「Les Essentiels」。彼女と母親の誕生日である13は、彼女の人生においてチャンスをもたらすラッキーナンバー。それを変化、再生の象徴としてモチーフにした。右:アトリエではスペシャルオーダーも受け付けている。
www.ladame-joaillerie.com
contact@ladame-joaillerie.com
Instagram:@ladame_joaillerie
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Irène(イレーヌ)-グランパレにインスパイアされたハイジュエリー。
Marie Genon(マリー・ジュノン)。シャネルのショー会場美術を経由してハイジュエラーに。
2019年、自由に生きたアーティストである祖母の名前をとってIrèneとジュエリーのデザインスタジオを命名したマリー・ジュノン。今年の9月に、ファーストコレクション「ACT I」を発表した。リング、ブレスレット、ブローチの3点はどれも1900年に建築されたグランパレにインスパイアされたデザインである。なぜグランパレか?
制作過程。
カール・ラガーフェルド時代、グランパレを会場に開催されたシャネルのショーでは、とてつもなく壮大な会場美術が毎回出席者を圧倒したものだった。ラガーフェルドのアイデアを具体的に形にするセノグラフィーの担当はStefan Lubrina。彼女はHaute Ecole de Joaillerieで学ぶ前、彼の下で模型や彫刻などを手がけていたのだ。セノグラフィーへの情熱が宝飾のサヴォワールフェールと結びつき、このコレクションが誕生。ダイヤモンド、ホワイトゴールド、ロッククリスタル……白くまばゆい輝きが交差する美しくエレガントなコレクションは、次はどんなクリエイションを?と期待させる。
コレクション「Act I」より。リング「La Verrière」。上の部分は開閉できる。ベルギーのダイヤモンドだけを彼女は使用。photo(右):Katarina Perez
左:カフブレスレット「Nef」(ダイヤモンド×ロッククリスタル×アクアマリン×エメラルド) 右:ブローチ「The Dome」(ロック・クリスタル×ダイヤモンド×WG)
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