ボン・マルシェ、プリュンヌ・ヌーリーの矢の照準は ?
Paris 2021.01.22
美術館がクローズしているいま、アートに飢えている人々は市内あちこちのギャラリーに足を向けている。ぜひ、デパートのボン・マルシェもコースに含めよう。というのも1月9日から毎年1月恒例のコンテンポラリーアート展が始まったのだ。毎回、ボン・マルシェからの白紙依頼で作品が制作されている。過去のゲストアーティストは塩田千春、レアンドロ・エルリッヒ、ジョアナ・ヴァスコンセロスなど。今年選ばれたのはパリとニューヨークをベースに彫刻、インスタレーション、映画で国際的な活動を続けるフランス人アーティスト、プリュンヌ・ヌーリー(1985年〜)である。
ボン・マルシェでのインスタレーションに用いられる巨大な弓矢に座るプリュンヌ・ヌーリー。©Le Bon Marché Rive Gauche
ガラス屋根の下の吹き抜け空間でクロスするエスカレーターはアンドレ・プットマンのアイデアによるものでデパートの名物となっているが、毎回このエスカレーターの周辺にメインピースが制作される。プリュンヌによる『L‘Amazone Érogène(エロジェニック・アマゾーン)』展では、ギリシャ神話において弓を射るのに邪魔な右の乳房を切り取ったとされる勇猛な女性アマゾーンがテーマ。乳房型の的に5メートル高さの巨大な弓矢が照準を定めるインスタレーションがエスカレーターの片側に、そして、もう片側には同様の照準に向かって888本の矢が飛んで行くインスタレーションで、どちらも迫力満点で見惚れてしまう。
31歳の時、乳がんを患った彼女は、生き延びるために乳房の片方を除去する選択をした。病気を知ったとき「なぜ自分が?」という問いが、すぐに「これで自分は何ができるだろうか?」と変わったのはサバイバル本能からだろうと、彼女は振り返る。病気をひとつのプロジェクトとして見なすことに決め、たとえば、治療期間中、自身の内省からドキュメンタリー長編映画『Serendipity(セレンディピティ)』を制作。アンジェリーナ・ジョリーがこの映画のエグゼクティブプロデューサーのひとりで、2019年にフランスとアメリカで公開された。彼女にとってアマゾーンは病との闘いのメタファーで、このインスタレーションは生命力と女性たちに捧げる21世紀版のアマゾーン神話なのだ。
2月21日までの開催。彼女の仕事を詳しく知りたければ、www.prunenourry.comへ。
木素材にペイントを施した乳房型の的。パワフルなサイズだが、柔らかなフェミニニティが感じられる。photo:Mariko Omura
左:ギャルリー・タンプロンの『カタルシス』展でプリュンヌが発表した作品「自己防衛」。©B.Huet Tutti /Prune Nourry Studio, Galerie Templon 右:その矢が巨大化されてボン・マルシェのインスタレーションに。photo:Mariko Omura
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セーヴル通り側の10のウィンドウも毎回展覧会の一部をなし、合計約1800本もの矢を配置したインスタレーションを通りがかりに楽しめる。バビロンヌ通り側のエントランススペースで流されるメイキングのビデオでは制作の工程を関係者が語り、また映画『Serendipity』の抜粋も見られるので、興味があれば、ぜひ!
おびただしい数の矢が作られ、10のウィンドウの作品を構成。(左 ©Studio Prune Nourry、右 photo:Mariko Omura)
プリュンヌ・ヌーリー。5メートル高さの弓の制作現場にて。©Le Bon Marché Rive Gauche
左:ボン・マルシェのメインインスタレーションのためのデッサン。©Prune Nourry Studio 右:横からだけでなく、正面から見ても実にパワフルだ。photo:Mariko Omura
Le Bon Marché Rive Gauche
24, rue de Sèvres
75007 Paris
www.24s.com
営業時間はホームページにて確認を。
réalisation : MARIKO OMURA