パリ、モードは元気だ パリ郊外から発信するデザイナー、モッシの3つの活動とは。

Paris 2021.03.23

2021-22年秋冬パリコレクションが3月上旬に開催された。といっても新型コロナウイルスの感染拡大状況によりデジタルでの開催。今回は主催するフランス・オートクチュール・プレタポルテ連合協会の粋な計らいで、ジャーナリストやバイヤーに限らず誰でもがクリックひとつでショーを見ることができるという方式だった。Défilé(デフィレ)とFilmé(映像された)を掛け合わせて、このように映像で発表されるショーを「Défilmé(デフィルメ)」と呼んだのはイザベル・マランだ。実際に行ったショーを映像化したもの、新しいコレクションのテーマから展開した短編映像などタイプはさまざまだった。

日本の生地とプレタポルテ

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モッシ・トラオレ。2020年度のAndam賞で、ピエール・ベルジェ・プライズを獲得した。35歳。

前シーズンがパリコレ初参加だった「Mossi(モッシ)」は、今回、ショーの映像をアップ。アフリカ西部のマリ共和国をオリジンに持つデザイナーのモッシ・トラオレはアイデンティティーをパリ郊外に置いている。“メイド・イン・バンリュー(郊外)”とうたう彼が撮影のためのショーを行ったのは、自身が育ったパリ東部の郊外ヴィリエ・シュル・マルヌの団地の広場だった。

大の日本贔屓であることを公言し、コレクションでもクオリティのよさゆえに日本製の生地を多く使うモッシは、2〜3年前に日本の職人たちによるテキスタイル展をパリでオーガナイズしている。その前に“ハタオリのまち”富士吉田市の招待で初来日した時に、職人たちの仕事にすっかり心を射抜かれてしまったそうだ。

今回のコレクションでも日本の職人による石炭染めの素材を用いたいと思っていたのだが、パンデミックの影響で実現は不可能となってしまった。それに代わって、石炭にインスパイアされたコレクションという出発点のアイデアから、木炭で作品を制作する韓国人のアーティスト、リー・ベーとコラボレーションすることにした。彼の作品からのモチーフをフレックス・プリント。黄色あるいは白地のシャツやブルゾンの、プラスチック風で深みのある黒いモチーフはとても力強い。

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2021-22年秋冬コレクションより。シャツドレス(左)とジャケットのモチーフは、リー・ベーとのコラボレーションによる。

コレクションの中には、スカートがドレスとしても着用できたり、チュールの袖がベルトになったりストールになったり……「僕は着る人が自由に楽しめる服が好き。服そのもの着方だけでなく、何を合わせるかコーディネートで異なる表情を出すといった遊びとか……。着る女性それぞれが自分のストーリーを語ってほしいんです」

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時代を超越した服が好きと語るモッシ。左:アシンメトリーを始め、モッシの仕事の特徴を詰め込んだスカート。 右:右はウエストゴムのスカートをビスチェドレスとして着用。ダブルの機能を持たせるのも彼の好むところだ。

日本のデザイナーの中でも、とりわけ山本耀司のファンだという。彼のコレクションにその影響を感じる人もいることだろう。2005年、モード学校に入った年にパリ装飾美術館で開催された山本耀司回顧展を見た彼は、

「黒をめぐるポエジーを発見しました。とても心穏やかで無駄がない服。彼の仕事はまるでアート作品ですよ。着て美しく、快適というだけでなく、人体に着せて空間におけば、まるでアートギャラリーの作品のよう。僕が育った文化はカラフルだけど、それに対してルベルな僕は黒が大好き。この展覧会で彼の仕事にすっかり参ってしまったんです」

日本の漫画も大好きだというモッシ。メランコリックな漫画音楽がとりわけ好みで、久石讓の名前もすらすらと口から出るほどだ。

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2021年春夏コレクションより。左のトラペーズ・ドレスはタイプを変えて毎シーズン登場する。どこかクチュールライクな面が感じられるのもブランドMossi(モッシ)の特徴だ。

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マダム・グレにオマージュを捧げるクチュール学校

モッシの活動はデザイナーに留まらず。彼はクチュリエのマダム・グレへ捧げるオマージュとして、2015年にマダム・グレの名前をつけたオートクチュールの学校「Les Atelier Alix(レザトリエ・アリックス)」を設立している。彼女のメゾンで働いていた女性のクチュリエと一緒に始めたプロジェクトで、彼女に技術指導を含め現場の責任を彼は任せている。

「この学校は学ぶ価値のあるすべての人にチャンスを与えたいと考えています。地元民だけでなく、移民の編入のためのアトリエとなることも目指しています。母国でクチュールを学んだ人がフランスのCAP(職業適性証)を取得して、フランスで仕事を見つけて……というように」

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布の彫刻家と呼ばれたマダム・グレ特有のアンティークプリーツを指導。

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学校は奨学金制度もあり、年齢も国籍もさまざまな人に開かれている。

モッシがマダム・グレの仕事を知ったのは、モード学校Mod’Art International時代。古代文明に興味をもつ彼に、学校の教授が彼女の存在を教えてくれたのだ。その晩、すぐにインターネットでマダム・グレについて調べた彼の頭の片隅を、彼女の素晴らしい仕事が占めるようになった。そして2011年、パリのブールデル美術館で彼女の回顧展が開催された時に実際に服を見る機会に恵まれ、シンプルでありながら、美しく、時代を超越した服が作れるのだということを彼は学んだと語る。

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学校ではプリーツだけでなく、オートクチュールが必要とするさまざまな技術を取得できる。
https://lesateliersalix.com

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オペラ座と展覧会

彼のもうひとつの活動、それはエキジビションだ。祖父から受け継いだ自分の名前Mossiでブランドを設立した最初の年は、ショーではなく展覧会形式で服を発表した。オペラ座のエトワール、マリ=アニエス・ジロをモデルにインドのタージマハルで撮影した写真で構成した「Etoile de Lune」展をカルーゼル・デュ・ルーブルでパリコレ期間中に開催。

「モード学校でクリスチャン・ラクロワについて資料を製作した時に、オペラ座にすごい憧れを感じたんです。いつかここで働きたい!と。それである時、オペラ座について多くを知りたい一心で、無料でいいから仕事がないだろうかって、オペラ座に電話をしました。フィッターとして働くことができ、その間に舞台公演についていろいろ学び、また知り合いも内部にできて……そうしたことからマリ=アニエスと撮影できることになったんです。昨年の秋に通販のラルドゥートとコラボレーションをした時にも、彼女をモデルにブールデル美術館で撮影しました」

今回のパリコレ期間中にも、展覧会『Mouvement(ムーブメント)』を開催した。これはカリグラフィー、写真、ポエムで構成されたトリプティックで、ショーの映像を撮影したヴィリエ・シュル・マルヌの団地の通路、そしてパリの18区のアフリカ地区グットドールの広場の2カ所での展示だった。あえて庶民的な場所を選んだのは、文化に接する機会の少ない地元の人々が気軽に鑑賞をできるようにとの願いから。2020年春夏でコラボレーションをしたハサン・マスウーディーによるカリグラフィーが、写真家とモデルにインスパイアを与えて写真が生まれ、その写真からポエムが書かれ……という三部作だ。

「才能が世に認められたアーティストたちをゲストに招くと同時に、新しい才能を世間に知らしめたいという希望から、このポエムについては郊外の2名のアーティストに依頼しました」とモッシ。

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レオノール・ボラック(手前)とヒップホップのダンサーをモデルに撮影。展覧会のために、自由な動きが可能な服をモッシは特別に制作した。©Julien Benhamou

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左:写真はカリグラフィーにインスパイアされている。©Julien Benhamou 右:18区の展示光景。photo:Mariko Omura

『ムーブメント』はオペラ座などのダンサーをモデルに、動きを追求した写真を撮り続けているジュリアン・ベナムーが撮影。モデルはヒップホップのダンサーと、オペラ座のエトワールのレオノール・ボラックである。モッシの活動に賛同する彼女は展覧会開催中の日曜に郊外のヴィリエ・シュル・マルヌにやってきて、ダンス学校に通うことができない環境にある子どもたちのためにダンスのアトリエを行ったそうだ。

「ブランドのMossi、クチュリエの育成、展覧会。僕は常に3つの仕事をしています。いつかオートクチュールをしたいという夢が僕にはあるけれど、それはクチュリエとして服を作るだけでなく、職を必要とする人が社会に統合できる機会を与える場としてのクチュールのアトリエです。サヴォワールフェールを継承し、人々に仕事をもたらすことにメイド・イン・バンリューのMossiは貢献したいと夢見ています。ポジティブで新しい何かをファッション界にもたらしたい、社会的なインパクトをもたらしたい。これが僕がファッションを続ける理由なんです」

Mossi
www.mossi.fr
Instagram:@mossi_officiel

réalisation : MARIKO OMURA

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