ディオールのクチュール、シルクの部屋を満たした糸の感触。

Paris 2021.07.16

7月5日から10日に開催されたオートクチュール週間。久しぶりにフィジカルなショーが複数開催され、海外からのジャーナリストもやってきて……と、モードの都と呼ばれるパリの魅力を少しばかり回復した感がある。

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ディオール 2021-22 秋冬 オートクチュールコレクションのフィナーレ。photo:Adrien Dirand

ロダン美術館の中庭に設けられた会場で7月5日に発表された、ディオールの秋冬 オートクチュールコレクション。これは縦糸と横糸の物語だが、コレクションを紹介する前に、まずはその舞台装置となった「シルクの部屋」から。2020年1月に発表されたコレクションに際してマリア・グラツィア・キウリが女性アーティストのジュディ・シカゴと行ったコラボレーション同様に、この「シルクの部屋」もショーの開催翌日から1週間、一般公開された。「シルクの部屋」はフランス語で「Chambre de Soie(シャンブル・ドゥ・ソワ)」。これはヴァージニア・ウルフの1929年の著作『自分だけの部屋(Une Chambre à Soi)』に掛けた命名である。女性が経済的そして精神的に独立するためには、鍵のかかる自分だけの部屋と年収500ポンドが必要だとこの中で著者はフェミニズム宣言をしたのだ。

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エヴァ・ジョスパンのデッサンに覆われたロダン美術館中庭のショー会場。 彼女の作品は7区にオープンしたボーパッサージュでも鑑賞できる。photos:(左)ADRIEN DIRAND、(右)Mariko Omura

「シルクの部屋」は女性アーティスト、エヴァ・ジョスパンによるインスタレーションである。会場の350㎡の壁を覆ったのは、森、蔓植物、岩、想像上の建築物などが構成するエヴァの幻想的な風景画(彼女にとっての自分だけの部屋!)をもとにインドのムンバイの学校の職人たちが数カ月かけて刺繍した作品だ。このアイデアは彼女がヴィラ・メディシスにおけるレジデンシー期間中に訪れたローマのコロンナ宮殿内のインド風「刺繍の間」にインスパイアされたものだという。

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「シルクの部屋」。壁の高さは3.5mあり壁全体の長さは90mとか。photos:(上)©ADRIEN DIRAND & CHANAKYA & CHANAKYA-SCHOOL-OF-CRAFT、(下)Mariko Omura

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会場を覆う150色の絹糸が 織りなす景色がバイブレーションを放つ中で発表されたマリア・グラツィア・キウリによる秋冬クチュールコレクション。ファーストルックのケープに始まる一連のツイード素材は、過去2シーズンのビデオ発表では知ることのできなかった布の立体感を感じさせ感動的なほど新鮮だった。存在していること、出会うことへの回帰。それは手に触れて感じられる実体性に目を向けることを意味する。そこでは刺繍は装飾品ではなく、視覚と触覚に結び付いた要素として再解釈することも意味する、とマリア・グラツィアは考えた。織物と刺繍について見直すことを彼女に促し、このコレクションで大きな役割を果たしたのはテキスタイルアーティストでありキュレーターのクレア・ハンターが書いた『Threads of Life(人生の糸)』だったそうだ。

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左:帽子、ケープ、ブーツ。全身がツイードのファーストルック。 右:ニットのメッシュを合わせたツイードスカート。

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左:格子のツイードのアンサンブル。 右:フード付きのマイクロトレンチとマイクロバミューダのコーディネート。軽快でフレッシュだ。

糸というテーマのコレクションにおいて、セーラーカラーのジャケットにバミューダパンツを合わせたルック40は特別な存在である。これに使われているのはリサイクルデニムなのだ。生地をいったん分解してから、織り糸を真珠のシードビーズを通して織り直している。「古いものから新しい生地を作成することは、長くて骨の折れるプロセスです。今回のコレクションが掲げるテーマのひとつである変革の前提を示唆しています」とテキスタイルデザイナーのAurélia Blancは説明する。

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リサイクル素材をいかに美しいものとするか。このルックでは、デニム生地を分解して得た糸で織り直した素材を使用。セーラーカラーの部分にはビーズが不規則に織り込まれている。

テキスタイルデザイナーのAurélia Blancが、2021-22 秋冬オートクチュールのルック40のために特別に制作した生地について説明する。

ディオールのコードのひとつである花は、プリントやパッチワークで登場した。またプリーツが美しいアンティーク風ソワレなどももちろん発表された。でも、このコレクションではツイードにニットのメッシュをコーディネートしたり、ツイードもどきのニットを合わせてみたり、またコートのツイードはパッチワークで……、というようにオートクチュールにしては珍しくデイウエアが強い印象を残した。

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ツイードのパッチワーク。

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左:ディオールのコードである「バー」ジャケット。 シルクオーガーンジーのブランス、プリーツのロングスカートと。 右:最後に登場したカウルネックのドレスは、羽とグリーンのグラデーションで森のイメージ。

このコレクションの発表に際して、ディオールからオートクチュールについてのこんなメッセージが。「クチュールは思いも寄らない欲望も呼び覚まし、私たちが知らなかったものの存在を明らかにします。見えないものを可視化する。アーティスティックな実践を介して、変革真最中の時代に世界が熱望することを明らかにする。それこそがまさにアヴァンギャルドの役割ではないでしょうか」

editing: Mariko Omura

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