パリ、装飾芸術の旅 フランスのサヴォワールフェールに感動、ラ・サマリテーヌの大改修。

Paris 2021.08.28

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16年の眠りから覚めたデパートのラ・サマリテーヌ。セーヌ河に面した手前のアールデコの部分はかつてはデパートだったが、今回の改修によって9月に開業するホテル「Cheval Blanc(シュヴァル・ブラン)」に。photo:Mariko Omura

6月23日、10時開店。16年ぶりにラ・サマリテーヌの扉が開き、買い物客を迎え入れた。創業1870年のデパートが安全基準を満たしていないと、突如2005年に閉鎖を余儀なくされたのはLVMHの傘下に収まった直後のことだ。では、改修工事を、といっても、パリ市から建築許可がおりない、などさまざまな理由から工事がスタートしたのは2015年だった。その後も工事の中断があったり……待ちに待たれての再開となったのだ。託児所、公営住宅、オフィスなどが建物内に入り、かつセーヌに面した部分は9月に開業のホテル「Cheval Blanc」に、と2005年以前に比べて売り場面積は2万㎡と狭くなっている。新生サマリテーヌの謳い文句は、「パリ最小のデパート、パリ最大のコンセプトストア」である。

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左: 1870年頃。ラ・サマリテーヌは中央のこの小さな建物から歴史を始めた。モネ通りに面した左の建物に「ラ・サマリテーヌ拡張」と看板が掲げられている。 右: 1905年頃、拡張工事中。

時代の流れの中で、建物内部はあちこちに手が加えられ、場所によってはすっぽりと隠されて……。ラニォー・アーキテクツに託された今回の工事では、創業者エルネスト・コニャック・ジェイが思い描いたデパートの姿に戻すことに主眼が置かれた。1910年の建物はフランツ・ジュルダンによるアールヌーヴォー建築。店内のモザイクやガラス屋根はこの時代に生まれたものだ。セーヌ河側の1928年の建物はアンリ・ソヴァージュが作り上げたアールデコ建築。この2つのスタイルを再び輝かせるための改修にはフランス中の職人たちの技が力を発揮し、ガラスや鉄骨といったヘリテージ要素を守ることを基本に工事は敢行された。

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SAMARITAINEと掲げているのがフランツ・ジュルダンによるアールヌーヴォーの建物、セーヌ河に面しているのがアンリ・ソヴァージュによるアールデコの建物。photo:WeAreContents.

買い物へと急ぐ前、まずは外観を眺めるのを忘れずに。光とスペースの獲得のため建物に鉄骨を用いたフランツ・ジョルダンは、見た目をソフトにしたいとヴォルヴィックの溶岩に七宝焼きを施した植物モチーフを外観に装飾した。その合計の長さは675m。修復に際して、42.2m分が過去のアーカイブ資料に沿ってリメイクされた。この装飾のデザインはフランツ・ジュルダンの息子で画家のフランシスとポスター作家ユージェーヌ・グラッセによるものだ。ぱっと見た瞬間、黄色がとても印象的。その色が、新生ラ・サマリテーヌのコードに採用され、ショッピングバッグも黄色である。建物を見上げて、店名「SAMARITAINE」のフォントの優美さにうっとり。地上階の外側を飾る創業者エルネスト・コニャック・ジェイとサマリテーヌの頭文字を彫り込んだ木のパネルもきれいに修復され、ゴールドの文字が輝いている。館内に入る前、まず建物をぐるりと一周してみよう。

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モネ通りに面した建物のファサード。狩猟、制服、シャツ……など取り扱い項目を文字で加えた植物モチーフが灰色の鉄骨構造に優しい雰囲気をもたらしている。photo:Pierre-Olivier Deschamps Agence Vu pour la Samaritaine

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ファサードの装飾を修復。修復不可能な部分はビジュアルアーカイブをもとにリメイクされた。歴史的記念建造物などの修復、保全を専門にするAteliers Ent Socraが担当。

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左: モネ通りと平行するバイエ通り側の装飾。 右: このモザイクはモネ通りの看板のディテール。photos:Matthieu Salvaing

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デパートに入ると、館内を満たす天井から降り注ぐ光がとても気持ちよく感じられる。1907年に生まれた後、変形され、その後隠されていた37×20mの大きなガラス屋根がオリジナルの色とフォルムで見事に蘇ったのだ。そのガラス屋根を支えるエッフェルの鉄骨も美しい姿を取り戻した。何もかも見た目は昔のままだけれど、色を変えることで採光を調節できるテクノロジーがガラスに隠されている。21世紀の改修ならではだろう。

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37×20mのガラス屋根から降り注ぐ光が館内を照らす。photo:WeAreContents

そのガラス屋根へと登ってゆきたくなる大階段が、これまた圧巻。手すりを飾る植物の曲線模様も魅力的なのだが、まずは見上げた時に踊り場の下に見えるセラミックの美しさに目を奪われるはずだ。こちらも植物がモチーフ。階段の上を歩く人ではなく、階段を見上げる人を意識したフランツ・ジュルダンの計算である。セラミックという点、床のモザイクタイルももちろん修復された。

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左: モネ通りに面したポン・ヌフ館の大階段。 右: 階段の踊り場の裏側のセラミックも建築当時のままに復元された。photo:(左)WeAreContents、(右)Mariko Omura

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曲線を優美に描く鉄の装飾が、レース模様のように階段の手すりに沿って続く。修復を担当したのは、AOF(Atelier d’oeuvres de forge)。 photo:(左)WeAreContents、(右)Vladimir Vasilef pour La Samaritaine

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スタフ素材の装飾と鉄骨の組み合わせ。photo:Pierre -Olivier Deschamps / Agence Vu pour La Samaritaine

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さて、デパート再開の広告に登場したのは孔雀だった。なぜ孔雀?という疑問への回答は、最上階までのぼると見つけられる。壁をぐるりと覆う115m、高さ3.5mのフレスコ画のメインキャラクターが孔雀なのだ。アールヌーヴォー期の傑作のひとつに数えられるこの作品。描いたのは、これも画家のフランシス・ジュルダンだ。ガラス屋根のすぐ下、差し込む光によって孔雀のいる庭の光景が生き生きとしたものとなる。このフロアではレストランVoyageでフレスコ画に囲まれて食事ができるのが魅力だ。

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ガラス屋根の下、庭に遊ぶ孔雀が中央に君臨するフレスコ画。

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左: アールヌーヴォー建築を最上階で堪能する。 右:フレスコのディテール。photos:(左)WeAreContents(右)Pierre-Olivier Deschamps /Agence Vu pour La Samaritaine

アールヌーヴォ、アールデコの2つの時代に加え、今回の改修工事によってサマリテーヌには21世紀といういまの時代の建築も同居することになった。リヴォリ通り側は、妹島和世と西沢立衛の建築家ユニットのSANAAに任されたのだ。この建物の特徴は、シルクスクリーンを施された2.70×3.50mのガラスパネル343枚が作り上げる不規則に波打つガラスの外壁。これは建築当時から話題を呼び、パリの古い景観の保全にこだわる人々からは反対意見も出たけれど、反向かいの石造りの古い建物を映し込みパリの街に詩情を提供している。3つの時代の3つの建築。その内部についても、それぞれ異なる室内建築家が選ばれた。これらの詳細は、次回、売り場紹介とともに!

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リヴォリ通り側の波打つガラスの外壁。photo:D.R.

Samaritaine
9 Rue de la Monnaie, 75001 Paris
営)10:00~20:00
無休
www.dfs.com/en/samaritaine

editing: Mariko Omura

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