読書の秋に、ビジュアルを眺めるだけでも楽しい3冊。

Paris 2021.09.16

9月はフランスの新学期。パリの本屋さんのウィンドウにも、新しい本がたくさん並ぶ。そんな中から、フランス語の文章はさておいて、ビジュアルを眺めるだけで気分が高揚する3冊の本を紹介しよう。

『マラン・モンタギュの素晴らしきパリ』

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35ユーロ。パリ市内の書店およびブティックMarin Montagut(48, rue Madame 75006 Paris)にて10月13日より販売。

昨年パリ6区のマダム通りにブティックを開いたマラン・モンタギュ。彼のデッサンをあしらったさまざまなオブジェなど、彼のクリエイションがここにすべて集められている。さらに彼の心をときめかせた時代もののオブジェもそこに交じり合う。インテリアにどこかノスタルジーをそそる味わいが漂い、ブティックに入るだけで心が浮き立つ。イネス・ドゥ・ラ・フレサンジュと共著で『パリの屋根の下』を出した彼だが、10月13日、今度は単独の新しい著作『Le Paris merveilleux de Marin Montagut(マラン・モンタギュの素晴らしきパリ)』が出版される。

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左: 著者のマラン・モンタギュ。ブティックにて。 右: 6区のアンティーク商Yveline。写真と彼によるイラストレーションで紹介されている。photo:(左)Romain Ricard

こよなく愛するパリで、彼の最初の仕事は映画のデコレーターだった。その後、フランスのいくつかのブランドのための映像を制作し、その間にブロカント、旅、イラストレーションへの愛情がより大きくなっていったのだ。フランスのアール・ドゥ・ヴィーヴルに熱い思いを抱く彼。さまざまな仕事を介して知った彼の心をときめかせる昔ながらの商店、アトリエなど合計19カ所をこの新著の中で紹介している。モンマルトル美術館や剥製のデロールといったおなじみの場所もあれば、パステル専門店、パスマントリーのアトリエ、アリーグル市場のエピスリー、モンパルナスの印刷所などパリを歩いていて簡単に目につかない場所も。写真で紹介されるだけでなく、それぞれのアドレスに彼による夢あふれるイラストレーションがプラスされている。魅力的な場所がそれゆえ、より魅力的に。大事に保存して、パリに行きたくなったら手に取って……。

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各アドレス、“往年”感がびっしり詰まった見開きが。左は書店のJousseaume、右はバックル専門店Bouclerie S.Poursin。

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パリ3区、中庭の小さなパステル専門店La Maison du Pastel。

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『インディア・マーダヴィ』作品集

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ハードケース入りで58ユーロ。パリ市内の書店、インディア・マーダヴィのショールーム(3, rue Las Cases, 75007)および小さなオブジェを扱うブティック(19, rue Las Cases)で販売中。

レストラン、ブティック、個人宅……インディア・マーダヴィが自己のスタジオを開設した2000年から20年間に手がけた建築、室内装飾、家具が美しい写真によってまとめられ、ずばり『India Mahdavi』とタイトルされて出版された。彼女が故郷のイランやエジプトで撮影した写真を集めた小冊子『India’s world』もセットされている。日本では彼女の名前を、ラデュレが2018年にオープンした青山店でライラックとセラドングリーンでまとめられた空間にうっとりした時に、記憶に刻んだ人も多いことだろう。東京以前にすでにラデュレのジュネーブ、ロサンゼルス店も手がけている彼女。パリをベースに活躍しているが、早い時期から国際的に知名度を上げている。またスツールのBishop(ビショップ)はコピーが出回るヒットデザインだ。デッサンやムードボードも交えて彼女の仕事を紹介するこの作品集。ページをめくるたびに、彼女のクリエイションを介してポジティブな気分をもたらしてくれる一冊だ。

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ビバリーヒルズのラデュレ。

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ジュネーブのラデュレ。

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東京のラデュレ。

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『レベ、オートクチュールの刺繍』(Nasia Albertini著)

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69ユーロ、Gourcuff Grandenigo刊。パリ市内の書店で9月22日より販売。

オートクチュールの刺繍というと、すぐに思い浮かぶのはルサージュ。「Rébé(レベ)」という名前にピンとくる人は、パリでもそう多くない。そうした人々も、この『Rébé, Broderies Haute Couture(レベ、オートクチュールの刺繍)』を開くと、その名を知らずとも、ディオールのドレスを飾るポエティックな花々、バレンシアガのボレロのスパニッシュモチーフなどを介して、レベの仕事にはじつはおなじみだったと驚かされる。この本で展開されるのは、René Bégué(ルネ・ベゲ、1887〜1987)と妻アンドレが糸で紡いだ美しい歴史だ。

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左: クリスチャン・ディオールによる1953年のトンボが舞うPorcelaine。右は1952年のVilmorin。クリスチャン・ディオールがグランヴィルで愛読していたのが種、苗を扱う老舗Vilmorinのカタログだったことからの命名だ。ともに©️Dior Héritage

ルネ・ベゲが実家の貧しさに耐えかね、15歳で家を出てレース商の配達夫の職につくところから本はスタートする。子ども時代からデッサン力に長けていた彼。当時隆盛を極め、刺繍のアトリエを有していたクチュールメゾンの「Paquin(パカン)」がモチーフのデザイナーを探すコンクールに応募し、採用される。彼の職場はパリではなくロンドンで、1904年に彼はロンドンで仕事を始めるものの、満足がゆかず2年でパリに戻ってきてしまう。もっともその間にたっぷりと得た18世紀からのインスピレーションを、彼は生涯役立ててゆくことになるのだが。戻ったパリで、1894年創業の刺繍メゾンが後継者を探していた。1911年、そこが彼のメゾンとなる。

第一次大戦後、ジャン・パトゥやルシアン・ルロンといった若いクチュリエが台頭し、彼らは刺繍をルネ・ベゲに依頼する。こうしてルネの刺繍家としてのキャリアが本格的に始動。なおレベというアトリエの名前は彼の名前のRené Béguéを縮めたものである。1920年代のはじめ、彼は優れた色彩感覚を持つ帽子デザイナーのアンドレ・リシャールと出会う。彼女はまず彼のアソシエとなり、そして妻に。こうして二人三脚でレベのメゾンは発展を続けてゆくのだ。クリスチャン・ディオールとは1947年の彼のデビューコレクションからの付き合いで、彼が亡くなるまで10年間密に仕事を続ける。ディオールのクチュールドレスに欠かせない華麗、あるいは優雅な色彩あふれる花々の刺繍の多くは、レベによるものだ。後継者のイヴ・サンローラン、マルク・ボアンもレベのアトリエと仕事を続け……。この本では、ディオールのための刺繍に90ページ近くが割かれている。レベについて本にすることを著者に勧めたのは、ユベール・ド・ジバンシィだという。本の中には、ディオール、バレンシアガ、ジバンシィ、ニナ・リッチ……クチュール黄金期のゴージャスな刺繍がたっぷり。モード関係者の書棚には欠かせない一冊だ。

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ルネ(右)とアンドレのデュオ。©️Nadia Albertini

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左: クリスチャン・ディオールの1954年のドレスFormose。 右: ロジェ・ヴィヴィエによるクリスチャン・ディオールのための一足。ともに©️Dior Héritage

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左: 刺繍の見本。 右: 準備中の刺繍は、バレンシアガのドレスのビュスチエのため。©️Mathieu Ferrier

editing: Mariko Omura

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