新世代ガストロノミー(美食)を10区のマーシュで味わって。
Paris 2022.01.08
10区のポワソニエール地区にヴァンサン・ジェローが開いた新しいレストランの「Mâche(マーシュ)」の食事は、“ヤング・ガストロノミー”と呼びたくなる。キッチン内も店内も平均年齢が低く、さらに食事の価格も手頃。素材は季節重視でサステナビリティへの取り組みもあり、料理は軽くて味わい深い。そして食後には大きな満足感が。これぞ現代人が求める21世紀の美食だろう。10年ちょっと前くらいにビストロとガストロノミーを組み合わせたビストロノミーというカテゴリーが生まれ、いまやすっかり定着した。2022年はといえば、このマーシュのようなヤング・ガストロノミーがますます増えてゆきそうだ。
左: ホタテ貝、ベーコン、黒ラッパ茸、菊芋、モルト(19ユーロ)。 右: 左からワイン担当のマチアス、ヴァンサン・ジェロー、ミカエル・ガメ。photos:Pierre Lucet Penato
マーシュはバーカウンターが置かれたエントランスに続いて、鰻の寝床的に縦長に食事空間が続く。その奥に見える透明なガラス越しにキッチンの中で腕をふるうのは26歳の若きシェフ、ミカエル・ガメである。16区の「L’Astrance」を経由し、好奇心に導かれてアジア諸国、南米など20カ国を旅して未知の素材や調理法を発見した彼。マーシュで提案する料理にはスタイルのミックス、素材と味わいの驚きの組み合わせ、珍しい調味料、従来の料理に加えたひねりが見いだせる。季節の素材へのこだわりはもちろん、シェフは生産者も厳選している。フランスで若いシェフのブームを生んだ人気のテレビ料理番組「Top Chef」で、候補者の料理を評価する際に審査員が口にするのはクリエイティビティ、味わい、ハーモニー、バランス、テクスチャー、火の通り具合……そして見た目の美しさ。マーシュで出てくる料理には、それらがすべて揃っている。
メニューに書かれている素材やスパイスの中には初耳のものも混ざり、どんな味なのか想像するのが難しいかもしれない。たとえばディナーメニューのメインを見ると「マグレ・ド・カナール(鴨の胸肉)、カカオ風味のトウモロコシ、スモークピーマンのキャベツ、ざくろ酢」「根セロリ、マルメロのペースト、スパイスのヴァドゥーヴァン、発酵セロリと柚子」……。味に間違いはないので、前菜からデザートまで、使われているメイン素材が気になった料理をオーダーするのがいいだろう。そして料理がサーブされたら、まずは目で味わって、それから舌で味わって!
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前菜もメインも必ず、魚、肉、野菜から選べるメニューだ。ディナーはアラカルトでも、あるいはおまかせ5品(58ユーロ)のデギュスタシオンコースも。これにはペアリングのワインを24ユーロでセットできる。photos:Pierre Lucet Penato
ランチは前菜+メインが24ユーロ、前菜+メイン+デザートが30ユーロ。アラカルトでもオーダーできる。内容は3週間ごとに変わるそうだ。12月はたとえば前菜の魚(写真左)はプラス2ユーロで「タコ/黒にんにくと海藻/ヨーグルト/アーモンド/アニスオイル/きゅうり」、メインの野菜料理(写真中)は「ブラックカレーの人参/松の実/バターナッツ、金柑のラビオリ/人参ソースにジンジャービール」。デザート(写真右)も文字で素材をひとつずつ追うと複雑な味に思えるけれど、口の中にひろがるのは幸福感あふれるおいしさだ。photos:Mariko Omura
未知の味わいの世界への冒険が体験できるレストラン。その店内の内装をヴァンサンが任せたのは室内建築家のシャルル・デュ・プージェである。エットレ・ソットサスに代表されるメンフィス集団の仕事に彼はインスピレーションを得て仕上げた陽気でカラフルなインテリアだ。エントランススペースの天井には、さまざまなフォルムのランプが遊び心いっぱいに配置されている。
左: エントランスのカウンター。 中: 奥に見えるガラスの裏がキッチン。 右: 貸切専用の個室は同じメンフィス・タッチでもメインスペースと雰囲気が異なる。photos:Pierre Lucet Penato
61, rue de Chabrol
75010 Paris
Tel:09 83 40 60 04
営)12:15~14:15(月~金) 19:30~22:00(月~水) 19:30~22:30(木~土)
休)日
www.mache.restaurant
editing: Mariko Omura