パリのモードなサヴォワール・フェール、永遠なれ。

Paris 2022.03.01

2月28日からプレタポルテの2022-23秋冬コレクションが発表されるファッションウィークがスタートした。パリのモード界の1年の幕開きは1月半ばのメンズコレクションのファッションウィークで、それに続いてオートクチュールコレクションが発表されるのが通例だ。すべて手仕事であること。これが参加メゾンに対するオートクチュール協会の規定にある。プレタポルテでも限りなくオートクチュールに近い仕事をしているメゾンもある。モードを支える貴重な財産である人間の手技、サヴォワール・フェール。22年春夏コレクションが発表された1月末のクチュール・ウィーク中、それらを守り、発展させる意欲に満ちた4つの話題をピックアップ!
 

刺繍に囲まれたディオールのクチュール・ショー会場

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ディオール2022年春夏オートクチュールコレクション。photo:Laura Sciacovelli

単なる装飾に留まらず、生地に立体感を与え造形美を生み出す刺繍。ディオールの2022年春夏のオートクチュールでは、複数のテクニックで施された刺繍が目を奪うドレスが次々と。タイツにも美しい刺繍が輝いていた。マリア・グラツィア・キウリは「世界各地の職人やお針子による多面的な専門技術を取り入れた、2022年春夏オートクチュールコレクション。エクセレンスの名の下、卓越した技術に着想を得て作り上げた共同作業の結晶です」と語っている。会場づくりにおいても、アトリエが持つ共通言語を通じたアートとクラフトの出合いを彼女は試みた。インド人アーティストのマドヴィ・パレクとメヌ・パレクの作品が、インドにあるチャーナキヤ工房とチャーナキヤ工芸学校の職人たちの出会いによって刺繍という表現手段で会場の壁を飾ったのだ。自国の伝統と精神性、そして神々が宿す象徴的な力が持つ意味を問いかけているパレク夫妻が描くのは、異質なものと既知のもの、現実とシュルレアリスムが同時に存在する想像の世界。アートとクラフトの対話が創り上げた壁の前をマリア・グラツィアによるクリエイションを纏ったモデルたちが通り過ぎると、そこにはまた新たな対話が生まれる、というショーだった。

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インド人アーティスト夫妻のマドヴィ・パレクとメヌ・パレクの作品をインドのチャーナキヤ工房&工芸学校が刺繍した作品が会場の壁を覆った。近づいてみると見事な手仕事に圧倒される。phtos:(上左)Adrien Drirand、(ほか)Mariko Omura

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色彩が炸裂する刺繍の会場と、白、黒、グレー、ベージュといった抑えた色のコレクションの素晴らしいコントラスト! photos:Mariko Omura

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アライアのニットドレス「タナグラ」

クリエイティブディレクターにピーター・ミュリエを迎えたアライア。その発表の形式についても偉大なるクチュリエであったアズディン・アライアのアイデアをミュリエは踏襲し、春夏、秋冬ではなくアズディンのように冬春、夏秋というシーズンでコレクションを構成している。さらに1月末に開催した彼の2回目のコレクションとなる2022年夏秋のショーはアズディンが行なっていたように現在アライア財団が展覧会場に活用する19世紀の建物の高いガラス屋根の下で開催した。

亡き創業者のように女性の身体を軸に置いてのクリエイションであることは2回目も同様だったが、アズディンのクリエイティビティに内在するアートとの融合をニットで表現、という新しい試みをピカソ財団とのコラボレーションによってミュリエは行った。それは、パブロ・ピカソが1947年、48年に制作した彫刻「タナグラ」を模した6体のニットドレスで、そこに込められたのはファッションはアートであり専門性の高い工芸であるというミュリエの考えだ。この生産を可能にしたのはアズディンが求めた高い要求を実現できたサヴォワール・フェールを持つイタリアのニット工房の巧みである。創業者が遺した財産は後継者たるクリエイティブディレクターの新しいビジョンと創業者へのリスペクトによって継承されてゆくのだ。

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ユイマ・ナカザトのクチュールショー

会場は建物の裏手がリヴォリ通りに面したサントノーレ通りの小さな礼拝堂。ユイマ・ナカザトのパリ・オートクチュールウィーク参加11回目となるショーは、赤いライティングが照らす靄の中に現れたふたりのパフォーマーによるダンスで始まった。

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ユイマ・ナカザトの2022年春夏クチュールショーはサントノーレ通りの小さい礼拝堂Oratoire du Louvreにて開催された。

「神話に登場する想像上の生き物が、現実に創り出されることが可能になるとしたら。想像が現実へと変わる途中の曖昧な領域は、先人の知恵や最先端の科学を結集して導き出される、人類がたどり着いていた最も先端の領域といえる」と語る彼。この2022年春夏コレクションのタイトルだった『LIMINAL』というのは、何かと何かの間にある曖昧な領域を意味する言葉で、「今シーズンのコレクションでは、この曖昧な領域こそ新しい価値観と可能性の象徴と捉えました」と話す。

神秘的な空気が漂う礼拝堂で、マルチカラーのヘアのモデルたちは現実と想像のふたつの世界を往来するよう。極彩色、シャーリングが生み出すボリューム、羽根のような素材……神話の想像上の生き物キメラたちにインスパイアされたコレクションは後ろ姿も幻想的だった。

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ルーヴル礼拝堂の高い天井のもと、時空を超えた不思議な時間が流れたユイマ・ナカザトのクチュールショー。photos:Mariko Omura

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デュプレ・パリ校の生徒たちが、ポーツ1961の白シャツを再解釈

2019年、気鋭スタイリストのカール・テンプラーをアーティスティックディレクターに迎えたイタリアブランドの「Ports 1961(ポーツ1961)」。パリではサントノーレ通りにブティックを構えている。創業以来のアイコニックなアイテムはシンプルな白いシャツで、それをデュプレ・パリ校の生徒たちが再解釈した作品がクチュール期間中のある日、ブティック内でお披露目された。この学校はマレ地区にあり、モード部門では過去においてパコ・ラバンヌのジュリアン・ドッセーナ、パトゥのギヨーム・アンリ、アミ・パリのアレクサンドル・マテュッシを輩出している。その最終年の生徒たちが、ブランドが60年近く作り続けているシャツについてサステナビリティ、エコロジーといった観点を踏まえて各人各様にクリエイティビティを発揮して制作。コットンではなく紙とテープ、あるいはニットでと素材もさまざまなら、タイツと組み合わせたドレス仕立て、果ては椅子まで……。10人10様の白いシャツの展示はブティックで1カ月間続けられた。なおこの展示のために移動可能なインスタレーションシステムをデザインしたのも、生徒のひとりである。

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左: 1カ月間生徒たちの作品を展示したPorts 1961のブティック。 右: デュプレ・パリ校。

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10作品から6点を紹介。上段左から右へ、Laura Arbault、Olivia Simorre、Jules Mallesson。下段左から右へ、Hubert Beaumont、Edgar Beyles、Steeven Kibler。何年か後にどこかのブランドで彼らの名前を聞くことになるだろうか……。

editing: Mariko Omura

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